死神VS死神2
「オラオラオラオラ!!」
「くっ!」
炎を纏った拳の連撃を、双剣で防ぐレイジ。
だが一撃一撃が重く、そして速い。
高熱の拳を全て防ぐことはできず、炎の拳撃を受けてしまう。
レイジの身体を覆っていた白い外殻と氷に皹が走る。
クソッ!防御力が高い〔氷魔神化〕の装甲がこうも簡単に皹が走るなんて!
俺の〔炎魔神化〕よりも強力すぎる!
追い詰められ、顔を歪めるレイジを見て、ケリーは笑う。
「ハハハ!お前のスキル構成は素晴らしいが、俺のスキル構成のほうが攻撃力が高いんだよ!!」
レイジはガリッと歯噛みする。
ちくしょう。ケリーの言う通りだ。
今の俺は回復、強化、防御、耐性などの多くのスキルを持っている。
いわゆるバランスを重視した万能型スキル構成。
対して偽レイジは攻撃型スキルを限界以上まで強化するスキルを複数持っている。
攻撃……いや、人を殺すことを重視した殺人特化型スキル構成。
オーバースキルを発動して、肉体にオーバースキルを付与しても……偽光闇レイジには勝てない!
「オオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォラ!!」
ケリーはレイジの双剣を強く殴った。
双剣は吹き飛び、宙をクルクルと回転し、地面に向かって落ちた。
しまった!武器が!!
「終わりだ!」
凶悪な笑みを浮かべながら、ケリーは怒涛の連打をレイジに叩き込む。
レイジの身体を覆っていた白い外殻と氷は甲高い音を立てて砕け散る。
大ダメージを受け、レイジは血を吐きながら甲板に倒れた。
だめだ……意識が。
「俺の―――私の勝ちだ」
レイジ・ペンドラゴンが最も恐れる姿となり、倒れるまで追い詰めたケリー。
彼女はレイジの胸を強く踏み、見下ろす。
「ジャンヌ、見ているかしら。私は……あなたの仇を取るわ」
ケリーは思い出す。
ジャンヌとの出会いを。
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
千年前。
とある村で一人寂しくベンチに座って本を読んでいた茶色髪のそばかすの少女—――ケリー。
そんな彼女に、一人の少女が声を掛ける。
「あなた、なにを読んでいるんですか?」
ケリーは本から顔を上げて、少女を見る。
その少女は美しい金色の髪を伸ばしており、両目にはサファイアの如く蒼い瞳を宿していた。
まるで天使の如く美しい彼女に、ケリーは見惚れる。
「え、えっと……騎士様がお姫様を助ける物語」
「まぁ、素敵ですね!もっと教えてください」
「……うん、いいよ。えっと」
「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだでした。私はジャンヌ」
「……ケリーだよ」
「ケリー。いい名前ですね」
太陽の如く明るい笑顔を浮かべるジャンヌ。
そんな彼女を見て、ケリーは綺麗だと思った。
それからジャンヌとケリーは共に遊び、ともに笑い合った。
ケリーとジャンヌは友達となったのだ。
ジャンヌはよく弟のことをケリーに話し、自慢していた。
弟のことを楽しく話すジャンヌが、ケリーは好きだった。
月日が流れ、ケリーとジャンヌが十五歳になったある日、
「私、魔導騎士になろうと思います。多くの人々を救うために」
ジャンヌは真剣な表情でケリーに話をした。
「そう……なんだ」
「ケリー。もしあなたが嫌でなければ私と一緒に魔導騎士になりませんか?」
「え?」
「私にはあなたが必要です。……私と一緒に多くの人を魔獣から救いましょう」
あなたが必要。
そう言ってくれたジャンヌに、ケリーは付いていった。
契約女神と共に。
それからケリーはジャンヌとともに魔獣を多く倒し、人々を救ってきた。
ジャンヌは聖女と呼ばれ、ケリーは聖女の守護者と呼ばれ、多くの人に敬愛された。
ケリーは誇らしく感じていた時……ある事件が起きてしまう。
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
冷たい雨が降る中、ジャンヌは血塗れになって死んでいる弟を抱き締めていた。
そんな彼女の後ろ姿を、ケリーは拳を強く握り締め、血を流しながら見ていることしかできなかった。
「ケリー……弟は……、強い力を持っているだけで優しい子なんです」
「ジャンヌ」
「なのに村の人達は弟を迫害したんです。許せませんよ」
「……」
「弟は……魔獣から人を助けただけなのに……殺されたんです。『悪魔だから』『危険だから』という理由で」
ジャンヌの身体から邪悪な黒いオーラが発生。
彼女の金色の髪が徐々に黒く染まっていく。
「ケリー……私は弟を殺した人が、弟を否定したこの世界が憎いです。だから……この世界を一度、壊し……作り直します。そんな私のあとを……ついてきてくれませんか?」
ジャンヌはケリーに尋ねた。
瞳を黒く染めながら。
ここでジャンヌを止めるのが正解なのだろう。
だがケリーは、
「ええ、いいわ。付き合ってあげる」
彼女の復讐を手伝うことにしたのだ。
それからジャンヌとケリーは多くの命を奪い、国を滅ぼした。
そして邪神教という組織を作り、世界の脅威となった。
分かっている。
本当は友達である私が止めるべきだったんだ。
でも止める事なんてできない。
もしジャンヌの復讐を否定したら、彼女は一人になってしまう。
ならせめて私は、彼女のそばにいたい。
例え多くの人を殺し、多くの国を滅ぼすことになるとしても……私はジャンヌの傍にいる。
それが友達だから。
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
「レイジ……あなたはそこで倒れて見ていなさい。この国が滅ぶのを」
ケリーが掌から魔法陣を展開すると、戦艦の大砲が竜人族の国に向いた。
「これで終わりだ」
ケリーが大砲を撃とうとした。
その時、戦艦が大きく揺れ始め……地面に向かってゆっくりと落下する。
「な、なんだ!?」
「ハハハ……なんとか間に合ったな」
笑みを浮かべるレイジ。
こいつ、何かしたな!
「お前、なにをした!」
「ケリー……あんたは〔炎魔神化〕で身体が熱いから気付かないと思うが……この戦艦……凍っているぜ」
「なっ!」
レイジに言われて、ケリーは気付いた。
戦艦が冷気に覆われていることに。
こいつ、いつの間に!
「〔炎魔神化〕は火属性のスキルの中で最上位のものだが、一つ問題があってな。それは冷気や冷たい風を感知しにくいんだ。〔炎魔神化〕を発動中、身体はとても熱くなっているから冷たいものに鈍感になるんだ」
「貴様……〔氷魔神化〕を使ったのは防御力を上げるためではなく」
「そうだ。〔氷魔神化〕の冷気で戦艦を行動不能にするためだ。お前以上にこの戦艦が厄介だからな。だから戦艦を止めさせてもらったよ、ケリー」
「くっ。だけどこの戦艦が止まれば、この国に自由落下するぞ!」
「確かにこのままじゃあ、竜人族の国にこの戦艦が落下する。だから……落としても問題ない場所に落とす」
レイジは告げる。新しく作ったスキルの名を。
「ユニークスキル〔地獄の門〕」
直後、竜人族の国の真上に巨大な黒い穴が出現した。
その穴を見て、ケリーは全身が凍るような悪寒を感じる。
「あれは……いったい」
「一度、入ったら俺以外、出ることはできない暗闇の亜空間。この空間なら巨大戦艦が落ちようと問題ない」
「貴様!」
「残念だったな。ついでに戦闘機も落としてやるよ。スキル〔重力操作〕」
レイジは別のスキルを発動させ、戦闘機を重くし、〔地獄の門〕に落とさせた。
無数の戦闘機が黒い穴に落ちていくのを見て、ケリーはレイジを睨む。
「ざまぁねぇな、ケリー」
「き……さま!」
「おっと俺と話していいのか?このままだとあの穴に落ちちまうぜ?」
「くっ!」
ケリーは空を飛び、戦艦から離れた。
レイジもスキルで空を飛び、戦艦から離れる。
戦艦は〔地獄の門〕へと吸い込まれた。
戦艦と無数の戦闘機を呑み込んだ黒い穴は、粒子と化して消え去る。
「これで戦闘機と戦艦は消えたな」
「貴様……!」
「ケリー。今のお前は強い。俺が恐れる光闇レイジは世界最凶だ。人を殺すに関しては今の俺より上だ。だが……今の俺は光闇レイジとは別の強さを持っている」
レイジ・ペンドラゴンは蒼い瞳と赤い瞳を光らせる。
「見せてやる……光闇レイジにはない、今の俺の力を」
読んでくれてありがとうございます。
気に入ったらブックマークとポイントをお願いします。