急がないと!
突然、真矢とアクアに魔導騎士のスカウトをされた光闇レイジ。
彼は頬を引き攣りながら質問する。
「ちょっと待ってください。魔導騎士として働きなさいってどういうことですか?」
「そのままの意味よ?」
「そうよね、そのままの意味よね?」
顔を合わせて首を傾げる真矢とアクア。
そうじゃねぇよ!と心の中で突っ込みながら、レイジはもう一度尋ねる。
「ええっとですね。なんで俺にスカウトしたのかって意味です」
「ああ、それはね。君が非常に貴重な戦力になるからよ」
「貴重って……まぁそうかもしれませんが」
真矢が言っていることは間違っていない。
この世界でレイジのように女神の力を使わず、魔獣と戦うことが出来る人間は少ない。
それも幼い少年となれば。
戦える男性は数が少ない。
いくら女性の方が魔導騎士に向いていても、怖くて戦えなければ意味がない。
男性の方が心が強く、戦う覚悟がある。
故にレイジのような存在は貴重であり、魔導騎士としては是が非でも手に入れたいのだ。
だが、レイジは魔導騎士になるつもりはない。
「すみませんが、お断りさせていただきます」
「そうか。よし、じゃあ私の部隊に案内しよう!」
「真矢さん。人の話を聞いてました?俺はお断りさせていただきますって言いましたけど」
「では、こちらにサインを」
「アクアさんもなんで契約書を俺に差し出しているんですか?嫌ですよ。というか、俺はまだ四歳ですよ?しかも魔導騎士になるには、魔導騎士育成学校を卒業しなければならないはずですよ?」
「大丈夫。こちらで色々と偽装するから」
「細かい事は私と真矢に任せて、君はこの契約書に自分の名前を書いてくれればいいんだよ?」
「それ犯罪じゃないですか!!」
どうやら本気でレイジを手に入れたいらしい。
慌ててレイジは後ろに下がると、真矢とアクアが近づいてくる。
獲物を見つけた肉食獣のように目を爛々と光らせて、幼い少年に距離を詰める。
「ちょっと、二人とも落ち着いてください」
背中がカフェの壁にぶつかり、レイジは逃げ場を失う。
真矢とアクアは不敵な笑みを浮かべて近づいてくる。
(ああ、やばいやばいやばいやばい!これ本気で魔導騎士にされる!そしたら、俺は主人公と出会って殺される!)
絶体絶命のピンチの時、
「何をしているのかな?真矢ちゃん、アクアちゃん」
「「ヒィ!!」」
真矢とアクアの背後に愛花が現れた。微笑みを浮かべる彼女の身体からは、ドス黒いオーラが発生していた。
振り返った真矢とアクアの顔が真っ青になっていく。
「ち、違うですよ。誤解なんです」
「そそそそうです。なにもありませんよ?」
めちゃくちゃ怯えながら、彼女達は言い訳する。
だが、愛花は問答無用に天罰を下す。
「私には息子を無理矢理勧誘させようとしか思えないんだけど?二人とも、覚悟は出来てる?」
「「ヒイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」」
真矢とアクアは悲鳴を上げて尻もちをつく。
(自業自得とはいえ……かわいそうだな)
二人に同情していた次の瞬間、突然レイジの脳内に映像が流れ込んだ。
真っ白な雪に覆われた地面の上を走る二人の少女。
そんな彼女達の後ろから、黒い狼の群れが近づいてくる。
素早い動きで回り込み、退路を塞ぐ。
追い詰められた二人の少女は抱き締め合い、涙を流す。
そして次の瞬間、狼たちは彼女達を襲い、食い殺した。
(これは!!)
レイジは知っている。脳内に流れた映像がなんなのかを。
そして、狼に追われていた少女達が誰なのかを。
姉の夕陽と妹の朝陽だ。
「お母さん!夕陽と朝陽はどこにいるの!!」
レイジは慌てて、愛花に尋ねた。
「え、どうしたの急に?」
「いいから早く!!」
「う、うん」
息子の勢いに押されて、愛花は答える。
「確か、夕陽ちゃんと朝陽ちゃんはあっちで雪だるまを作ってくるって」
愛花が指を指した方向に視線を向け、レイジは魔法を発動する。
「無属性魔法〔LV2身体能力強化〕〔LV3加速〕!」
二つの白い魔法陣が胸の前に浮かび上がる。
直後、レイジはスーパーカーのような速さで駆け出した。
「ちょ、レイくん!?」
愛花が声を掛けようとした時には、レイジの姿は見えなくなっていた。
呆然と立ち尽くしていると、一人の男性が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「愛花さん!大変だ!」
「どうしたんですか?そんな慌てて?」
「そ、それが……お宅の娘達さんが!魔獣の群れに襲われているんです!!」
「え!?まさか!!」
嫌な予感がした愛花は、息子が走った方向に視線を向ける。
レイジは姉と妹を助けに行ったのだ。
「夕陽ちゃん!朝陽ちゃん!—――レイくん!」