え、どういうこと?
人間は十歳になると、神界にいる女神と契約する。
それは昔から存在する絶対のルール。
人間の実力や才能によって、契約する女神の強さは変わる。
レイジが強くなろうとしているのは、アニメとは別の女神と契約するためだ。
『クイーン・オブ・クイーン』の光闇レイジが契約する女神は、神界の大罪人ロキ。
神界の頂点である『女神の女王』を殺害し、多くの女神を殺した最悪して最凶の怪物。
そして契約したレイジに人殺しの楽しさを教え、家族を殺させた。
その運命を否定するために、レイジは強くならなければならない。
「……リオお姉様みたいな女神とも契約したくないけどな」
レイジはボソリと呟いた。
彼の視線の先には、怒りのオーラを放っている愛花に土下座をしているリオの姿が。
愛花は笑顔を浮かべながら問い掛ける。
「ねぇ、リオちゃん?これはどういうことかな」
「本当に申し訳ございません」
「別に謝ってほしいわけじゃないの。私はなんで扉を壊したのか聞いているんだけど?」
「それは…その……そのほうがカッコいいからで」
「カッコいいから……なに?」
愛花は光のない目を大きく開く。
彼女の威圧感に、リオはガタガタと身体を震わせて怯える。
(やっぱりお母さんは怖いな~)
遠くから眺めていたレイジがそんなことを思っていると、
「まったく。またやっているの?相変わらず馬鹿なんだから」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返るとそこには、セーラー服姿の紫髪の女神アイリスが呆れた表情を浮かべていた。
「おはよう。アイリスお姉様」
「おはよう、レイジ。うん、挨拶ができるようになって偉い。今までと雰囲気が違くて気持ち悪いけど」
「相変わらず毒を吐くな、この女神様」
アイリスはいつも毒を吐く。
寧ろ毒を吐かない日など全くない。
「それより裕翔。いつまでも落ち込んでないでシャッキとしなさい」
カウンター席に座って負のオーラを放っている裕翔。
いつもリオに扉を壊されるため、直すのに修理代がかかってしまう。
それで裕翔は深く落ち込んでいた。
「アイリス。だけど」
「だけどじゃないの!ほら立ちなさい。あなたは普段から陰キャラみたいな見た目しているのに、余計に陰キャラみたくなってどうするの!気持ち悪いわよ」
「いつも思うけど相棒の僕に酷くない?」
「だったら、ちゃんとしなさい。そしたら陰キャラからゴミムシに昇格させてあげる」
「それ昇格って言わなくない?むしろ僕の評価下がってない?」
二人のやり取りを見て苦笑いを浮かべるレイジ。
このままここに居ては、巻き込まれるかもしれない。
危険を感じたレイジは、カフェから出て行き、雪掻きを再開した。
念力の魔法で雪を一か所に運び、集まったら熱の魔法で溶かす。
そんな作業を繰り返して三十分後、店の前に黒いボブカットの女性と青いポニーテイルの女神がやってきた。
(誰だ?まだ開店するには一時間もあるが)
カフェは午前九時に開店する。だが今は午前八時。
「あの、すみません。まだお店は開かないんです」
レイジが近づいてくる女性と女神に声を掛けると、
「ああ、大丈夫。分かっている。別の用事があってきたから」
「そうそう」
どうやら二人は別の用があって来たらしい。
(それにしても……二人とも寒くないのかな?)
レイジは目の前にいる女性と女神の姿を見て、疑問に思った。
ボブカットの女性は黒いスーツ姿。どこかの秘書といった雰囲気を感じさせる。
女神の方は身体のラインが薄く見える青いドレスを着ていた。
何かしらの魔法で体温を維持しているのだろうが、見ているだけで寒そうだ。
そんなことを思っていると、ボブカットの女性がレイジに声を掛けた。
「ところで君が光闇レイジ君かな?」
「はい、そうですけど。自分に何か?」
「ああ、実は愛花先輩から君の事を聞いてね。なんでも魔獣を狩っているんだって?」
「え、まぁ……はい」
頬をポリポリと掻きながら、レイジは苦笑した。
どうやら彼女達は愛花の関係者のようだ。
目の前にいる女性の方が背が高くスタイルも良いのだが、ロリ体形の母よりも年下。
『人は見かけによらない』とは、よく言ったものだとレイジは思った。
「実は私、魔導騎士の真矢って言うの。こっちの子は私の契約女神、アクアよ」
「よろしくね、ボク」
微笑みを浮かべて手を振るアクア。
レイジも「よろしくお願いします」と返事を返す。
「それで、お二人はどのようなご用件で来たのですか?」
「ああ、実はね。君に用があってね」
「俺に?」
自分に指を指して、レイジは首を傾げる。
(この人達とは初対面のはずだが……幼い子供に用ってなんだ?)
疑問に思っていると、真矢とアクアは笑みを浮かべて声を重ねた。
「「光闇レイジ君。私達のところで魔導騎士として働きなさい」」
「………………は?」
言っている意味が分からず、思考が停止した。
なにを言ってんだ、この人たち?