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最凶の死神と最恐の邪神

「さぁ……調理開始だ」


 そう告げたレイジは一瞬でジャンヌの懐に入り、双剣を振るう。

 閃光の如き速さの剣撃。

 それをジャンヌは黒い長剣で防ぐ。

 火花が飛び散り、金属音が鳴り響く。


「調理…ですか。まるで料理人みたいな台詞ですね」

「これでも元料理人なんだよ」


 レイジとジャンヌは何度も双剣と長剣をぶつけ合う。

 剣と剣がぶつかる度に地面に亀裂が走り、崩れていく。


「ジャンヌ……なぜこの世界を滅ぼそうとする」


 双剣を振るいながら、レイジは問う。


「なぜあんたから……強い憎しみを感じる」

「……この世界は私の大切な弟を死なせました」

「!!」

「千年前……この髪が黒ではなく金色だった頃……私は人々を救う英雄でした」


 長剣を振るいながらジャンヌは語る。己の過去を。


「昔の私は多くの命を救い、守った聖女でした。そんな私には……可愛い弟がいました」

「弟…」

「えぇ……あなたにそっくりな弟です。弟はとても優しくて……そして強い力を持っていました」


 ジャンヌは顔を少しずつ歪めながら、言葉を続ける。


「弟は多くの人を救いました。けれど……人々は弟を恐れ…迫害しました」


 憎しみに満ちた顔で、ジャンヌはガリっと歯噛みする。


「そしてついには……弟は殺されました。しかも殺したのは弟が救った人たちでした!」


 ジャンヌは長剣に怒りを込めて、力強く振るった。

 重い剣撃を受け、レイジは軽く後ろに吹き飛ぶ。


「どうして殺したんですかと尋ねたら『危険だから』『その子は悪魔だから』と言われました!弟はなにもしていないのに!!私は人々に……世界に絶望しました!弟を否定したこの世界を……強く憎みました!!」


 ジャンヌは長剣を振り下ろし、巨大な黒い斬撃を飛ばす。

 迫りくる斬撃をレイジは双剣で受け止める。

 そして…黒い斬撃を両断した。


「だから滅ぼします!!この世界を!!」

「……なるほど」


 レイジは理解した。彼女がなぜ世界を滅ぼそうとするのか。


 彼女の中にあるのは復讐心だ。


 大切な弟を殺した世界を憎み、恨んでいる。


「あんたのことはよく分かった。なら……復讐しろ、ジャンヌ」

「!」


 レイジはジャンヌに復讐するなとは言わなかった。


「俺は『弟が悲しむぞ』とか『復讐は何も生まない』とか主人公みたいなことは言わない」

「レイジ……」

「だからあんたは復讐のために行動しろ。俺は……あんたを止めるために動く。この世界も捨てたもんじゃないからな」


 この世界には自分を想う家族がいる。友達がいる。

 化け物である自分を受け入れてくれる人が……この世界にいる。

 だから……、


「殺してでも止める。あんたの復讐を」

「……いいえ、復讐はします。必ず」


 死神は双剣を構え、邪神は長剣を構える。


「次で殺す」

「次で終わりにします」


 レイジとジャンヌは全ての力を……想いを武器に込める。

 そして……同時に駆け出す。


「ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

「ヤアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 死神の双剣と邪神の長剣が激突。

 嵐のような衝撃波が発生し、島全体に大きな亀裂が走る。島は大きな音を立てながら崩壊していく。


「うううぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅぅおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 レイジは気合を込めた声で叫びながら、双剣に力を入れる。

 すると長剣に皹が走り……そして、


 パキンッ!


 音を立てて長剣は折れた。


「そんな!」

「終わるのは……お前だ。ジャンヌ」


 レイジは右手に握り締めた短剣を……ジャンヌの胸に突き刺す。

 

 赤い血が飛び散り、レイジの顔を赤く染める。


「……どうやら…私の……負けですね」

「ああ。俺の勝ちだ」


 倒れそうになるジャンヌを優しく受け止め、レイジは地面に寝かせる。


「ジャンヌ……」

「なん……でしょうか」

「あんたがやってきたことは許されない。絶対に……。だけど、同情はしてやる。だから最高にいい墓を作ってやる」

「フフフ……あなたは本当に優しい子ですね。本当に……弟そっくり…です」


 ジャンヌは震える右手で…レイジの頬を撫でる。


「……レイジ。こんなことを頼める立場ではないのですが……一つだけお願いがあります」

「なんだ?」

「一度だけ……『姉さん』と呼んでくれませんか?」


 泣きそうな顔でお願いをしてくるジャンヌ。

 そんな彼女の手をレイジは優しく握り締め、


「姉さん」


 そう呼んだ。

 ジャンヌは瞳から涙を流し、微笑みを浮かべる。


「ありがとう…ございます。レイ…ジ……」


 ジャンヌは静かに眠るように目を閉じて、息を引き取った。


『レイジ……』


 ジャンヌの身体の中にいたクトゥルフの声が聞こえる。


『ありがとう』


 その言葉を言った後、クトゥルフは何も言わなくなった。

 ジャンヌが死んだことで……クトゥルフも死んだのだ。


「……次の人生では弟と幸せに暮らせよ、ジャンヌ」


 そう言ってレイジはジャンヌの遺体を両手で抱える。


「最高に綺麗な場所に……墓を作ってやるよ」


 レイジはジャンヌを抱えたまま、崩壊していく浮遊島から去った。



 この日……世界最恐の邪神は死んだのだった。

 読んでくれてありがとうございます。

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