9発目「突撃!盗賊のアジト」
盗賊たちが入っていった細い道をたどって、私たちは深い森の中を歩いていく。おそらく彼らのアジトへつながっているだろうと踏んでのことだ。
「なあ、レイナ。いまからでも考え直さないか?」
「いいえ、これは絶対に譲れません。私が必ず説得します」
レイナは腕を組むと、鼻息をふんと鳴らした。本当の意味で国民と間近に接したのは今回が初めてだから、気負っているのかもしれない。そしてレイナがこう言っている以上、私たちもついていかないわけにはいかなかった。
歩くことしばらく、見えてきたのは木材で作られた堅固な砦だった。周りには木の柵が張り巡らされており、いくつかある矢倉の上には見張りの盗賊が立っている。
「これじゃ正面突破は厳しそうだね」
「どうする? 回り込んでみるか?」
「いいえ。私たちは話し合いに来たのです。やましいことは何もないのですから、正々堂々と行きましょう。きっと分かってくれます」
「ちょっ――」
私とクロウが止める暇もなく、レイナは木陰から進み出た。
「盗賊のみなさん! どうか話を聞いてください!」
レイナは砦に向かって大声で叫んだ。
「おい、侵入者だ!」
当然、レイナを見つけた見張りの盗賊たちが、サーベルを抜きながら駆け寄っていく。
砦の方角からは、さっそく弓矢が数本飛んできた。
それは当然の結果だった。高名な指揮官同士の和平交渉とはわけが違うのだから。
「きゃっ!?」
「言わんこっちゃない!」
私とクロウはレイナをかばうように前に出ると、それぞれの武器を構えた。
かかってくる盗賊たちに、クロウは応戦する。
「これに懲りたら、もう無茶な真似はしないこと! いいね!」
「ご、ごめんなさい……」
レイナは自分の考えが甘かったことにようやく気づいたようで、しゅんとうなだれた。
世間知らずのお嬢様が、世の中の厳しさを身をもって体験したというわけだ。
クロウは細身にも関わらず、寄ってくる屈強な盗賊たちをばったばったとなぎ倒していく。その動きに迷いがないところを見ると、魔物だけでなく人間とも戦い慣れているようだ。
「私も負けてらんない! レルラ!」
私が呪文を唱えると、杖の先端から人間の頭ほどもある水球が出現し、空中に浮かび上がった。これなら大丈夫だろうと思い、見張り台の上で弓矢を持っている盗賊の一人に向かって発射すると、水球はその男の顔面に超高速で衝突し、ばしゃりと弾けながら昏倒させた。
本来は手のひら大の水球を出現させる初級魔法なのだが、やはり威力が底上げされている。
だが、これなら相手を殺すことなく戦える。私はこれでもかとばかりに連発することにした。
「レルラ! レルラ! レルラ! レルラ! レルラ! レルラ!」
クロウの剣技と私の魔法の前に、次々と倒されていく盗賊たち。
そのうち、部下からの報告を受けてまずいと思ったのか、砦の中からスキンヘッドの男が現れた。
「またテメェらか! 何しに来やがった! 俺たちを潰そうってのか!?」
「いや、そうじゃなくて話し合いに」
「これが話し合いにきた人間のすることかよ!」
男は両手を広げて、地面に累々と倒れている盗賊たちを指し示した。
「そっちが攻撃してくるから、つい……ごめんね」
「言ってることとやってることがめちゃくちゃだぞ、テメェら!」
いまにも泣きそうな顔でスキンヘッドの男はサーベルを抜いた。どうやらこちらに向かってくるつもりのようだ。
「クロウ、よろしく」
「おう!」
クロウは大きく踏み込むと、振り下ろされたサーベルに剣を打ち合わせた。
「おおおおおおお!」
力を入れてサーベルを弾き飛ばすと、クロウはすれ違い様に一閃する。腹部を大きく切り裂かれたスキンヘッドの男は、苦しそうに膝をついた。
「ちくしょう……!」
「回復してあげるから、あなたたちのリーダーがどこにいるのか教えてくれる?」
隣に歩み寄った私を、男はにらみ返した。
「そんなの教えるわけねぇだろ……さっさと殺せ……!」
「いや、そういうわけにはいかないよ。これから説得する相手なんだから」
私は腰に手を当てながら男を見下ろした。こうなるから、実力行使は避けたかったのだ。遺恨を残しては、本来上手くいくものも上手くいかなくなってしまう。
どうしようかと考えあぐねていたそのとき、砦の奥からひと際ガタイの良い男性が現れた。
「騒々しいと思ったら、なんだこのザマは」
「ボス!」
スキンヘッドの男は腹を押さえながら振り返る。
ボスと呼ばれた男性はグレーのざんばら髪で、その目つきは鷹のように鋭い。右頬には十字の傷があり、歴戦の戦士であることを伺わせた。
「あなたがこの盗賊団のボス?」
「ああ、そうだ。テメェらか、これをやったのは?」
「やったというか、なっちゃったというか……ここまでやるつもりはなかったんですけど」
なし崩しに戦闘に突入してしまったのだから仕方がない。もっとも、怒り心頭といった様子でサーベルを握っている彼の姿を見ると、そんな言い訳は通用しなさそうだった。
「私たちは、貴方がたと戦いに来たのではありません! 話し合いに来たのです! どうか落ち着いて話を聞いてください!」
一歩前に進み出たレイナを、ボスは値踏みするように見つめたあと、サーベルをしまった。
「入れ」
「ボス! こんな奴らを中へ入れていいんですかい!?」
「こいつらは俺の客だ。どうするかは俺が決める」
周りに残っている盗賊たちを身振りで退かせると、ボスはこちらに背を向けて歩き出した。
「ついてこい」
その仕草を見るに、敵意はないように見えた。私たちは不意打ちを警戒しながら、ゆっくりとその後についていった。
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