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8発目「王女様の人助け」

 領境にある町を出発した私たちは、ジェームズ伯爵の屋敷があるダンデリオを目指して、北へ向かう街道を歩いていた。


 左手には深い森があり、右手には草原が広がっている。こんなご時世でなければ、のどかな風景をのんびりと楽しんでいたことだろう。


 やがて、遠くに見えてきた村をレイナは指差した。


「ありました! 村ですよ!」


 この辺りには村が点在しているようだから、そのうちの一つにぶつかったのだろう。


 そのとき、森の方から出てきた柄の悪い連中がその村へ入っていくのが見えて、私たちは互いに顔を見合わせた。


「いまのって盗賊だよな?」


「おそらくね。あの村を襲いに行ったんだ」


「助けに行きましょう!」


 真っ先に行こうとするレイナの腕をつかんで、私は引き留めた。


「あなた、いま自分がどんな状況に置かれてるのか分かってるの? 盗賊になんて構ってる余裕はないでしょう」


「私はこの国を背負って立つかもしれない人間です。目の前で困っている民がいるのに、それを見捨てるわけには行きません」


 それは、ローザルム王国第一王女としての言葉に他ならなかった。彼女の帝王学を見せつけられた私は、腕を組みながらうーんと唸った。


「分かった。それじゃあ助けに行くけど、あなたは何があっても私のそばを絶対に離れないこと。いいね?」


 最大限の譲歩をしたと思う。レイナは嬉しそうにこくりとうなずいた。


 私たちは急いでその村へ駆け寄った。

 民家の陰から様子を伺うと、村の広場では、盗賊たちがひれ伏す村人たちにガンをつけていた。


「今月の上納金が払えねぇとはどういうことだ?」


「すみません。去年は稀に見る不作だったもので、いままではなんとかやりくりしてきましたが、もうそんな大金は払えません……」


 村長らしき老人が頭を下げると、リーダー格らしきスキンヘッドの男は、村の中を見回しながら要求を変えた。


「じゃあ、それと同じ価値の作物と家畜でいい」


「そんな! それでは私たちが食べていけなくなってしまいます!」


「森に住む魔物の被害から守ってやってるのは誰だと思ってんだ? あぁ?」


「それは大変感謝しております! ですが、何卒お許しください!」


 スキンヘッドの男は舌打ちすると、さらに別の要求をふっかけた。


「この村の若い女を三人よこせ。それで勘弁してやる」


 老人は、横にいる村人たちと顔を見合わせると、うなずきあった。


「分かりました。支度をして行かせますので、少々お待ちください」


 村人たちが盗賊たちの前で即席の会議を始めようとしたそのとき、私たちは家の陰から飛び出した。


「その必要はないわ!」


「なんだテメェら!?」


「通りすがりの冒険者ギルドよ。この村からがめるのを、いますぐにやめなさい!」


「部外者がガタガタ抜かしてんじゃねぇぞ! お前ら、やれ!」


 スキンヘッドの男の指示で、盗賊たちは一斉にサーベルを抜き払った。


「やるよ、クロウ!」


「なあ、セシル。あまりやりすぎないようにーー」


「ヴァ・カグファ!」


「聞いてないな、うん」


 先手必勝。私は杖を片手に呪文を唱えた。


 杖の先端にはめ込まれた紫色の魔晶石によって、魔力が魔法へと変換され、人間大の火球が発射される。


 その火球は逃げ惑う盗賊たちの足元に着弾すると、炎を大量にまき散らしながら砕け散った。


「ひ、ひいっ!」


 黒焦げのクレーターになった地面を見て、盗賊たちは腰を抜かした。


「これはセーフ?」


「ギリギリセーフかな」


「まだ強いか。加減が難しいよ、クロウ」


 レイナと村人たちは、私の魔法のあまりの威力にあんぐりと口を開けている。


 一方、スキンヘッドの男は顔面蒼白になりながらも、まだ戦意を失わずにいるらしい。


 そこで私は、その男に近づきながら杖を掲げた。男は眉をぴくぴくと痙攣させながら、怯えた表情で私を見つめる。


「私の黒魔法、直接食らいたい?」


「いや、遠慮しておくよ……ずらかるぞ、野郎ども」


 スキンヘッドの男はへっぴり腰の盗賊たちを連れて、そそくさと退散していった。これでしばらくはこの村に来ないだろう。


 それを見た村人たちは、若干びくびくしながらも、私たちの方へ近づいてきた。

 先頭に立っている老人が、私に手を差し伸べる。私はそれを握り返した。


「ありがとうございました、旅の冒険者殿」


「私はただ『見過ごせない』っていう彼女の意見を聞いて、それを手伝っただけですから」


 私に手で示されたレイナは、照れ臭そうに頬をかいた。


「ありがとう、お嬢さん」


「いえ、人として当然のことをしたまでです。それに、根本的な解決にはなっていませんよね?」


 老人は苦虫を噛み潰したような表情でうなずいた。


「ええ。いつまた彼らが来るか、分からんですからな」


 先ほどのスキンヘッドの男とのやりとりを聞いた限り、あの盗賊たちはこの村に定期的に取り立てに来ているようだ。

 その根っこを絶たない限り、同じ行為が繰り返されるだろう。


 そして、それを知ったレイナが黙っているとは思えない。


「あの、メアリー、もしかして――」


「盗賊の首領と直接話しに行きましょう!」


 絶対そう言うと思った。私は真っ直ぐで純粋なレイナの瞳に見つめられ、頭を抱えた。

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