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5発目「謎のクエスト受注」

◆◆◆


 ゴーレムを討伐し、Cランクへ昇格した翌日。

 私とクロウは冒険者協会パンジア支部の酒場でくだを巻きながら、今後の方針について話し合っていた。


「それで、これからどうする?」


「私たちの実力なら、もうCランクのクエストをクリアできるんじゃないかなって思ったんだけど、どうかな」


「そうだな。せっかくランクアップしたんだし、どんどん受けていったほうがいいと思う」


 さらに上のランクを目指すには、多くの依頼をこなさなければならない。

 達成できそうなものを手当たり次第に受けて、実績を積んでいくのが一番の近道だ。


 そうと決まれば、善は急げだ。私は立ち上がると、掲示板のところに置かれている依頼一覧ファイルをめくった。


 そこには討伐任務のほか、護衛任務や調査任務、採取任務など、任務の内容によって様々なカテゴリに分けられている。


 その中で、難易度が高いにも関わらず人気があるのは、討伐任務と護衛任務だ。

 討伐任務は手っ取り早く自分の強さをアピールでき、護衛任務は人脈(コネ)を広げることができるからだ。


 自分たちでも受けられる任務を探しながらパラパラとファイルをめくっていたとき、私はその中でふと気になる依頼を見つけた。


「ちょっとクロウ、これ見て」


「うん?」


 掲示板のお知らせを眺めていたクロウは、私の手元に顔を寄せてきた。

 依頼者はメアリー・スミスなる人物で、達成目標は記載なし。報酬金額は三十万ジラ。しかも今日から三日後までという受注期限つきだ。


「三十万ジラって……三万ジラの書き間違いじゃないのか?」


「本当だったらかなり美味しい依頼だと思うんだけど、どう思う?」


 私に意見を伺われたクロウは、うーんと唸りながら首をひねる。


「怪しいのは確かだよ。でもこれでギルドの資金をたんまり稼げば、もっと大きな町に出ていく足掛かりにはなるよな。ローザルムとか、カーネシアスとか」


 たまに見かけるランク詐欺の一種という可能性もなくはないが、Cランクの冒険者に依頼する任務でそこまで難易度の高い要求はしてこないだろう。

 報酬の額に釣られて、受けてみる価値はありそうだった。


「それじゃ、受けてみようか」


「他の冒険者に気づかれる前にさっさと受けちゃおうぜ」


「そうだね」


 私たちはファイルからその依頼書を抜き取ると、受付に持っていった。何度も顔を合わせるうちにすっかり顔馴染みになった女性スタッフに、私は依頼書を手渡す。


「依頼受注お願いします」


「かしこまりました。こちらは――ああ、例の依頼ですか。少々お待ちください」


 ひとりで納得したようにうなずくと、女性スタッフは奥の部屋に入り、しばらくしてから白い封筒を片手に出てきた。


「それでは、依頼内容をしたためた封筒をお渡ししますね。こちらは受注者以外の誰にも見せないようにとのことですので、くれぐれもご注意ください」


 ずいぶんと用心深い依頼者だなぁと思いながら、私は周りの冒険者たちに見えないようにこっそりその封筒を開く。


『五月一日の午後三時、パンジアの町はずれにある宿屋ローランの屋根の下で会いましょう。三十分待っても来なかったら、この依頼はなかったことにしてください。

メアリー・スミス』


 ここにきて時刻指定のおまけ付きだ。これはいよいよもって只事ではなさそうだ。

 とはいえ、この封筒を読んでしまった以上、もう後戻りはできない。


「これ以外に情報は……」


「いえ、封筒を読めば分かるとのことでしたので、私たちからこれ以上申し上げられることはありません。もし気になるようでしたら、依頼者ご本人様におつなぎしましょうか?」


「あ、いえ、大丈夫です。だいたい把握しました。ありがとうございます」


 私はその封筒をバッグにしまうと、サインした依頼書を女性スタッフに提出してから協会支部を後にした。

 クロウと共に歩きながら、私は思案する。


「色々と特殊な依頼っぽいけど、実際にはどういう内容なんだろうね」


「難易度は低いけど、秘密にしておきたいような内容の仕事ってことだよな。そうだなぁ……例えば、貴族のお忍び旅行の護衛とか?」


 クロウは口ひげを両手の指で大げさに撫でつけるようなジェスチャーをした。それを見た私は思わず小笑いした。


「そんなくだらないことに三十万ジラも使うかな?」


「意外と分かんないぞ。金銭感覚が俺たちとは違うからな」


「そういうものかねぇ」


 貴族様の生活なんて庶民の私にはよく分からないが、そういう軽い内容の依頼ではないような気がしていた。封筒にしたためられていた手書きの文字からは、なんというか、切羽詰まった印象を受けたからだ。


 メアリー・スミスなる依頼者の人物像に思いを馳せながら、私たちは賑やかなパンジアの街を歩いていくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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