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4発目「ギルド結成しちゃいました」

 冒険者協会のパンジア支部へ戻ってくると、クロウは私に改まって向き直った。


「俺がなんで仲間を探してるか、まだ言ってなかったよね」


 私がこくりとうなずくと、クロウは神妙な面持ちで語り出した。


「俺、小さい頃にはぐれた友達を探してるんだ。強い仲間を集めて、もっと有名になって、俺の名前を世に(とどろ)かせれば、見つかるかもしれない」


 あの突っ込むような戦い方には、ちゃんと理由があったのだ。焦りと功名心が生み出した、捨て身にも見える戦法は、クロウの不安定な心情を表しているかのようだった。


「だから、セシルの力を貸してほしいんだ! 改めてギルドを組んでくれ! 頼む!」


「いいよ」


「えっ?」


 私が快諾すると、なぜか勧誘したはずのクロウの方が驚いていた。


「あんなに俺と組むの警戒してたのに、どうして?」


「クロウの戦い方、見てると危なっかしいから。ヒーラーの私がいれば安心でしょ」


 不思議なことに、一番の理由はそれだった。前のギルドであれだけこき使われて嫌な思いをしたというのに、また自分から振り回されに行くなんて、根っからのヒーラー気質なのだと気づかされた気分だった。


 ただ前と一つ違うのは、クロウは自分の実力を見誤って無様に被弾しないし、パワハラも無茶ぶりもしてこないってこと。

 クロウはそんな私の複雑な心境を知ってか知らずか、にかっと笑った。


「よっしゃ! 仲間一人目、ゲットォ!」


「声が大きいって!」


 はしゃぐクロウをたしなめながら、私は受付の方へ向かう。


「あの、ギルドを作りたいんですが」


 前回対応してくれた女性スタッフに話しかけると、彼女はにこやかに出迎えてくれた。


「かしこまりました。やっぱり自分のギルド、組みたくなっちゃいました?」


「あはは。まあ、なんというか流れで」


 女性スタッフはくすりと笑うと、書面を手渡してきた。私とクロウはそこに必要事項を記入していく。


「ギルド名、どうしよう」


「俺、決めてるのがあるんだけど」


「言ってみて」


「ドラゴンテイル」


 ちょっと無骨すぎる。難色を示す私に、クロウは頭をかいた。


「私の案も言っていい?」


「どうぞ」


「バードソング」


 クロウは微妙な顔をしている。ちょっとかわいすぎたかもしれない。


「それじゃあ、間を取って『スウィングテイル』なんてどうでしょう。『たなびく尾』と『詩を吟じる』をかけてみたんですけど」


「「それだ!」」


 女性スタッフの折衷案に、私たちは大きくうなずいた。

 そうして必要事項を書き込んだ書面を提出すると、女性スタッフはにこやかに告げる。


「おめでとうございます。ギルド『スウィングテイル』成立です」


 クロウと私は互いに拳を突き合わせた。

 新たな門出に、私の胸は高鳴った。


「それにしても、私がギルドマスターでよかったの?」


「ああ。俺よりセシルの方が経験は上だろ? その方が色々と都合がいいと思うんだ」


「まあ、雑用なら嫌というほどこなしてきたからね。慣れたものよ」


「あ、悪い。また前のギルドのこと思い出させちゃった?」


「いいのいいの、気にしないで。事実だからね」


 散々こき使ってきたカイルのことを思い出すと今でも虫唾が走るが、もう私には関係のないことだ。

 クロウと一緒に活躍して、鼻を明かしてやる。


 これからする報告が、そのための第一歩だ。


「それじゃ次に、ある報告をしたいんですけど」


「なんでしょうか?」


 私が目配せすると、クロウはポケットからゴーレムのコアを取り出した。


「EランクのダンジョンにBランクの魔物がいるって、おかしくないですか?」


 女性スタッフは目をぱちくりさせた後、恐る恐る伺ってきた。


「詳しいお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか……?」


 私たちは、潜ったダンジョンに隠し扉があったこと、Bランクのゴーレムが隠しボスとして配置されていたこと、それをたった二人で討伐してきたことを告げた。


 女性スタッフは血相を変えると、立ち上がって頭を下げてきた。


「こちらの調査不足で危険な目に遭わせてしまい、大変申し訳ございません! 実地調査の上、すぐに掲載情報を修正いたします!」


「いや、謝らなくてもいいんですよ。ただ、その危険に見合う報酬くらい、くれてもいいんじゃないかなって思ってね?」


 私が問い詰めるように言うと、女性スタッフは冷や汗を浮かべながら私たちに背を向けた。


「ただいま確認して参りますので、少々お待ちください」


「あんまりいじめたら可哀想じゃん」


「いいのよ。こういうときはガツンと言ってやらないと、無駄に損するよ」


「そういうものなのか……?」


 私の豹変ぶりに、クロウは若干引いている。

 だが、大人の駆け引きというのは得てしてこういうものなのだ。弱みを握られた方が押し負けるのが世の常である。


 戻ってきた女性スタッフは恐る恐る口を開いた。


「まず、貴方がたお二人を本日付でCランク冒険者に認定いたします。それと少しお時間を頂くことになってしまうのですが、『スウィングテイル』をCランクギルドとして認定いたします。それでよろしいでしょうか……?」


 冒険者もギルドもみんなEランクからスタートする。実績を上げることで、少しずつランクアップしていくのだ。

 現在、私は前のギルドでの活躍が評価されてDランク。クロウは冒険者になりたてだからEランクだ。

 本当はBランクまで上げてほしいところだったが、それでもかなり破格の待遇といえた。


「分かりました。今回はそれで手を打ちましょう」


「ありがとうございます。それでは、カードをお借りできますでしょうか」


 私たちが冒険者登録証を手渡すと、女性スタッフは手早い作業でそれを銅色の背景のものに差し替えてきた。うん、なかなかに良い色合いだ。


「ゴーレムのコアは、調査のためこちらでお預かりいたします。調査が終わり次第、早急に返却させていただきます」


「はい、できるだけ早くお願いしますね」


 私たちが立ち去るのを、女性スタッフは丁寧にも入口まで見送ってくれた。

 

「やったね、クロウ! いきなりCランクだよ!」


「そうだな。セシルをギルマスにしてよかったよ」


 ウキウキとはしゃぐ私を、クロウは苦笑しながら見つめるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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