3発目「イレギュラー発生!?」
ゴーレムは大きな人型の魔物だ。体内にある弱点のコアを破壊することによって倒すことができるが、それを探り当てるのが難しいため、討伐難度Bランクの魔物として認定されている。
それがEランクのダンジョンに出現したということは、協会によるランク設定が間違っていたということになる。
「どうする? 逃げようか?」
二人で倒すのは若干厳しいが、このまま放置すれば他の冒険者にも被害が及びかねない。ここは討伐しておきたいところだった。
「いや、ここで倒そう。クロウは行ける自信ある?」
「もちろん!」
クロウは不敵な笑みを見せると、身の丈が倍ほども違うゴーレムに果敢に向かっていった。
ゴーレムはクロウを敵として見定めると、手のひらを地面に叩きつけた。クロウはそれをサイドステップで避けると、懐に潜り込んだ。
「はああああっ!」
クロウはどうやら、数打ちゃ当たるの乱れ突きで、どこにあるか分からないコアにダメージを与えるつもりらしい。ゴーレムはその勢いに押されてよろけたが、与えた傷はすぐに修復されてしまった。クロウの目論見は失敗したようだ。
ゴーレムは左手で下からすくい上げるようにしてパンチを放った。クロウはそれをガードするが、受けきれず吹っ飛んで壁に叩きつけられた。
それを見た私は、すかさず呪文を叫ぶ。
「レメディ!」
「痛……くない?」
「ダメージを受けた瞬間に治したからね。なんともない?」
「え? ああ……」
「傷ならいくらでも治してあげる。思う存分戦ってきて」
クロウは目を丸くしながらこちらを見つめた後、自分の頬をパンパンと叩いた。
「そんな風に言われたら、頑張るしかないよな!」
クロウは再びゴーレムに挑みかかっていった。今度は回り込むようにして背中に張り付き、剣の切っ先をざくざくと突き立てるも、すぐに振り払われて地面に落下する。
背中につけた傷は致命傷には至らなかったようで、やはり修復されていった。
これでは埒が明かないとみたようで、クロウは私に声をかけてきた。
「セシル! 俺が引きつけてる間に、攻撃魔法を撃てないか!?」
「私、白魔道士だよ!?」
「そうだけど! やっぱり無理か……!」
駆けずり回るクロウを見ながら、私は考えた。自分の着ているローブに手を突っ込んで、かき回す。
確かこの内ポケットに常備して――あった。
「一度だけなら撃てるかも!」
「本当か!?」
私は非常時の護身のために、いつも黒魔法の触媒用の魔晶石を持ち歩いているのだ。
安価な使い捨て用の石だが、持っておいてよかったと思う。
「俺が合図したら、ゴーレムの背中めがけて水魔法を撃ってくれ! 泥が弾けたところを狙う!」
「分かった!」
私は杖を背にしまうと、紫色の魔晶石を手に持ち、ゴーレムへ向けてかざした。
攻撃魔法を撃つのは久しぶりだが、上手くできるだろうか。
クロウはゴーレムの足元を斬りつけてヘイトを稼ぎながら、その周囲をぐるりと回る。
「いまだ!」
「ヴァ・ラウル!」
次の瞬間、私は絶句した。それは撃つのに失敗したからとか、ゴーレムに効かなかったからではない。
自分の魔法が予想以上に強かったからだ。
魔晶石から放たれた太い水流の束はゴーレムの全身を包み込むと、途切れることなく流れ続け、その体を構成している泥をごっそりと押し流した。露わになった多面体のコアが、カチンと音を立てて地面に転がる。
クロウはあまりの出来事に、その場で固まっている。
「いまの、中級魔法だよな……?」
「う、うん……そうだと思いたい……」
私は自分自身が撃った魔法の威力、特にその継続力にドン引きしながら、クロウに歩み寄った。
クロウは足元のコアをそっと拾い上げると、その表面に貼られている紙の札をはがした。これでゴーレムはもう起動できないはずだ。
「なあ、一つ提案したいんだけど」
「なに?」
「帰ったら、赤魔道士にジョブチェンジしないか?」
「うん、私もそうしようと思います……」
この数年、白魔法しか使っていなかったので、自分の黒魔法の実力がこれほどまでに上達しているとは思わなかった。
おそらく、レメディの無理な連発を繰り返すうちに、保持魔力量や魔法への変換効率が底上げされたのだろう。あのギルドで苦労した経験は、無駄にはなっていなかったということだ。
それにしても、中級魔法でこの威力となると、上級魔法はどれほどの威力になってしまうのだろう。考えるのがちょっぴり恐ろしかった。
「そ、それはともかく。ゴーレムのコアが手に入ったし、戻って報告した方がいいかな?」
私が尋ねると、クロウはこくりとうなずいた。
「そうだな。早めに協会に伝えた方がいいと思う」
このダンジョンのボスはすでに討伐された後だから、最深部まで潜る必要はない。
私たちの初陣は、私が放った黒魔法によってあっけなく終わりを告げたのだった。
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