2発目「クロウ・ファミリアはあんよが上手」
私たちは、簡単なEランクのダンジョンに潜ることにした。危険度が少なく、腕試しには打ってつけだ。
迷宮の廊下を歩きながら、クロウは私に話しかける。
「俺一人で全部片付けるよ。セシルは後ろから見てるだけでいいから」
「そんな無茶なこと、できるわけないでしょ」
「ま、そのうち分かるって。俺、強いから」
そんな会話をしていると早速、曲がり角から敵のゴブリンたちが現れた。
「行くぜ!」
クロウはそう叫ぶと、ゴブリンの群れに突っ込んでいった。
ああ、またこれだ。前のギルドにいたときと何ら変わりない光景に、私は頭を抱えた。
前衛職が敵陣に突っ込んでいき、無駄に被弾する。そうして被弾すればするほど、私のヒールワークが重くなっていくのだ。
私が諦めの境地で杖を構え、回復魔法を唱えようとしたそのときだった。
クロウは華麗な足捌きでゴブリンたちの打撃を回避した。まるでダンスを踊っているかのような、軽い身のこなしだ。
「言っただろ、セシルは見てるだけでいいって!」
アピールするようにこちらをちらちらと見ながら、クロウはゴブリンの群れをいとも簡単に片付けていく。
私はあんぐりと口を開けながら、その光景を呆然と眺めていた。
そうして戦うこと十数秒、クロウは本当に一人で全てのゴブリンを片付けてしまった。
華麗に残心を決めたクロウだったが、最後に跳ね上げたゴブリンのこん棒が落ちてきて、頭にごちんと当たった。
「痛って!」
私は思わず吹き出してしまった。それを見たクロウも、恥ずかしそうに笑う。
「どうだった、俺の剣捌き」
「うん、少なくとも前にいたギルドのギルマスよりは上手いかな」
「よっしゃ。これで少しは認められたな」
「まだ序盤でしょ。調子に乗ると怪我するよ?」
「そのときのためにセシルがいるんだろ?」
「まあ、そうだけど……」
クロウは意気揚々とダンジョンの廊下を進んでいく。私はやれやれと首を振ると、その後をついていった。
やがて、私たちは小部屋にたどり着いた。これ見よがしに宝箱が置いてある。
「注意して、罠かもしれない」
「オッケー。俺に任せて」
クロウは宝箱に近づくと、その蓋をゆっくりと開けた。その瞬間、両脇の壁からクロウに向かって矢が飛んできた。
身を翻してそれを避けるクロウだが、死角から脚に向かって飛んでいる矢がいまにも当たりそうだ。
私はとっさに呪文を唱えた。
「ドムール!」
「おっ?」
クロウの太ももに当たった矢が、固いものに当たったかのように跳ね返される。
私はほっと胸をなでおろした。
「気をつけてっていったでしょう」
「ありがとう、セシル」
クロウは私ににかっと笑いかけると、箱の中身を物色し始めた。
「ガラクタばっかりだ。はずれかな」
踏破済みダンジョンでは結構こういうことが起こる。お宝はすでに持ち去られてしまった後で、中身が空っぽだったり、いまみたいにガラクタだけが残っていたりするのだ。
「しょうがない。気を取り直して進みましょう」
「ちょっと待って」
クロウは私を引きとめると、部屋の中を観察し始めた。
「どうしたの? もうこの部屋には何もないと思うけど」
「いや、何か変だよこの部屋」
クロウは手を当てながら壁伝いに歩いていく。やがて、矢が飛び出してきた穴をいじくりはじめた。
「何してるの? 危ないよ」
「例えば、これをこう……」
穴の奥の方から飛び出している矢の発射口を、クロウは手で押し込んだ。かちりという音がして、筒が奥へと引っ込む。
「反対側の筒にも同じことをしてくれないか?」
「しょうがないなぁ」
もし怪我をしたらレメディで治せばいい。私は乗り気でないながらも、反対側の壁に近づいて矢筒を押し込んだ。
すると、両側の仕掛けが同時に押し込まれたことによって、大掛かりな仕掛けが発動した。
壁が大きな音を立てて両側に開き、新たな通路が出現したのだ。
「すごい……」
「やっぱりな。宝箱があるだけだなんて、そんな無駄な部屋を作るわけないと思ったんだ。さあ行こう」
クロウは自慢げに言うと、先を促しながら通路に入っていった。
私は慌ててその後についていく。
通路を通り抜けると、そこは大部屋になっていた。
天井は高く、中央が吹き抜けになっている。一番奥の壁にあるくぼみには、宝石できらびやかな装飾が施された宝箱が置かれている。
「お宝、ゲットだぜ!」
「慎重にね」
「分かった」
スキップしながら近づいていくクロウ。全然分かっていない。
「危ない!」
私が叫ぶのが早いか否か、クロウの頭上から大きな泥の塊が落ちてきて、彼はすんでのところでそれを回避した。
「っとっと。なんだこれ?」
クロウは剣でつんつんと泥塊をつつく。すると、それはうねうねとうごめきながら立ち上り、みるみるうちにゴーレムの姿を形作った。
「おい、マジかよ……!」
「嘘でしょ……?」
私たちの間に、パーティを組んでから初めて緊張が走った。
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