5話 閃光の剣姫
「そういえば森の化け物の名前、『トロール』で合ってたんだな」
と独り言をこぼすシオト。シオトを口に出して読むと『ショート』みたいな響きになります。
シオトとラウラは今は同い年ですが、シオトは五月五日、ラウラは三月三日が誕生日なので、ほぼ一歳差です。今は四月で季節は春、城下町のあちこちで桜が咲いています。
ラウラに連れられて、剣術学校にやってきた。朝の空気が心地よい。
「ここの奴らは全員君ぐらい強いの?」
「それはついてからのお楽しみ。ほら。あの人が先生だよ。」
雑草生い茂る広場に『ルーン黒板』とイスが十数脚、そこに人が集まっている。
いかついおやじが先生をやっているようだ。
「バラクさん、こんにちは!」
「おお、ラウラ殿、今日も来てくださったか。おっと、そちらの方は?」
「シオト=カザマです。ラウラさんに命を救ってもらって、その上いろいろやってもらっちゃってる最中です。」
「はっはっは!ラウラ殿のお人よしが出ましたな。今日は見学ですかな?まあ、見学でも剣は振ってもらいますがね。はっはっは!」
豪快だが、礼儀正しい人だ。俺が一般人と分かっても、敬語をたもっている。記憶喪失のことを話したが、色眼鏡で見られることはなかった。
「今日もやりますぞ。みんな大好きエキシビションマッチ。さあラウラ殿。舞台へ上がってくだされ。」
「了解です。あ、シオト、これあげる。もう使わないから、君が自由にしていいよ。訓練するときは『ルーンソード』を使うけどね。あたると吹っ飛ぶけど痛くないの。便利でしょ?」
ラウラはロングソードを俺に渡し、石でできた舞台にかけていく。その後ろをついていく影はごついのからひょろいのまで様々だ。
ラウラとごついあんちゃんが舞台上に立ち、『ルーン笛』の合図で戦いが始まった。というかルーン何でもありだなオイ───
───あ、終わった。ラウラ、やはりとんでもない強さだ。ごついあんちゃんはいきなり吹っ飛んでいった。およそ人が出せる域を超えている激しさの風圧の中、息をつく暇もなく、次々と人が吹き飛んでいく。みんながみんなばか強かったらどうしようと思っていたので少し安心したが、彼女の圧倒的な実力に追いつける自分は想像できなかった。
「バラクさん、ラウラさんはどれくらい強いんですかね?かなり強いのは分るんですけど、なにぶん記憶喪失なもんで。すいません・・・。」
「かなりなんてもんじゃありませんよ。私も剣術だけなら大陸最強と言われていますがね、彼女の『霊技:閃光』を使われたらひとたまりもありませんな。閃光の中美しく舞い、ついた異名が『閃光の剣姫』、この町自慢の女剣士ですな。」
「霊技?彼女は魔法みたいなものって言ってましたが、実際」
「ではまず『精霊』の話からいたしましょう。世界には精霊と呼ばれる神様の化身がたくさんいて、火の精霊や剣の精霊など種類は多々ありますぞ。私たちは精霊の加護によっていろんな恩恵を受けることができるわけです。」
バラクさんは教えるのが上手いようで、口頭でスッと内容が入ってくる。そのため、この人が只者じゃないと思うのに、そう時間は要らなかった。
剣の精霊に認められれば鉄くずは剣となり、剣の精霊に認められた人が装備することで剣技を扱えるようになる、というように、精霊は俺たちの生活に強く結びついているらしい。で、精霊が呼応して、いろんなことをする石がルーンなのだそうだ。ルーンの便利さの正体は精霊だったのか。いやーありがたい。
ラウラの『霊技』はかなり特別なもので、彼女を認めた閃光の精霊が、自分の力を分け与えているらしい。精霊のひいきが霊技ってことか。
彼女、眩しいもんな。わかるぞ閃光の精霊。あとさっきから物理的に眩しい。本人にはダメージがないようだし、ぶっ壊れだな、精霊の力。
大陸最強の剣士を凌駕する、閃光の剣姫ね・・・。
ちょっと俺の目標高すぎやしないか。
・・・でも俺は決めたんだ。妥協するつもりはない。
次は、俺の番だ!
決意を新たにし、俺は舞台に上がった。
ラウラと対面し、笛の合図を聴く。
「・・・いくぞ!」
走り出した俺はかりたルーンソードを鞘から引き抜き──
──思いっきり転んだ。・・・顔から。
ラウラは驚いた顔で立ち止まっている。観衆の視線も痛い。
俺は急いで立ち上がり、剣を構える。
「あーいや、何というか、今のは演技的なあれだ。気にしなくていい」
全く筋の通っていない言い訳を主張する俺だが、今はそんなこと気にならない程、俺はテンパっていたのだ。再び剣を構えるも、緊張のせいか、視界がグラグラ揺れている。
あ、あれ?剣ってここまで重かったっけ?
というか体、こんなだるかったか??
・・・けど、これ以上醜態をさらすわけにはいかない。俺はよろける足でラウラに近づき、持てる力を全て注いで、勢いをつけて剣を振り上げる。
「・・・こんのっ!!───」
──すっぽ抜けたんだが・・・?
彼女は少し困った顔をして、
「ええと、ごめんね?」
俺を場外に吹き飛ばしたのだった。




