36話 愉快なところに目をつける
「・・・そいつはいい夢を見たな、少年。」
「エンレイが見せたものじゃないのか?よくあるだろ、狐に化かされる的なアレが。」
「私の霊力が作用してしまったのだろうが、あれは少年自身が望んで見たものだよ。少なくとも君はもう、その夢を見るきっかけをたくさん持っているんだ。」
清涼感と静けさ漂う早朝、俺の寝袋に潜りこんでいたミニ狐は、胡坐をかく俺の膝の上で目を細めている。俺がその毛並みを堪能しようと手を伸ばした瞬間、ボンと煙を立てて変化した人型エンレイは過去を懐かしむように語り始めた。
「『四天の空』、堅物で口うるさい竜。『四天の左』は、欲張りだが気配り屋な兎。『四天の地』、柔軟且つ芯の通った良い奴だが、運命のいたずらによく弄ばれる不運な蛇ときて、『四天の東』、諦めが早く逃げ足も速い狐の私。君が見た四つの影は、その娘に懐き、すぐに死んでしまうその人間のためにとせわしなく動き回った、残念な四匹の人外のものだろう。」
「陸海空、上下左右、東西南北に、天地。なんだか統一感がないな。・・・四天の地に至っては、思いっきり食い違ってんじゃねえか。」
俺と向かい合い、同じように胡坐をかいて膝に手をつくエンレイは、声を上げて笑った。
「はっはっは!やはりお前は愉快なところに目をつける!・・・そう、皆各々が自分勝手であったがために、人共にそうあだ名をつけられてしまったよ。あの蛇に関しては、誤解が誤解を生んだ結果、不遇極まりない名をつけられてしまったようだな。・・・私が蛇のあだ名に笑い転げ、女の蛇は涙目で怒り、それを止めるために小言を並べて火に油を注ぐ雄の竜と、本末転倒な竜に怒って喧嘩を始める雌兎。そして、最後に皆を鎮めたのは、いつもその娘だった。」
遥か遠くを見るようなその瞳から、懐古の情と切なさが伝わる。
「・・・幸せだったんだな。」
「・・・ああ。愉快も愉快、あの娘がふわふわと纏う空気に、私たち四匹は魅了されていた。」
どうやってあの女性と出会ったのか、その人のためにどんなことをしたのか、・・・どうしてその人は、すぐに死んでしまったのか。疑問は山ほどあるが、幸せな思い出を懐かしむエンレイに、それ以上聞こうとは思わなかった。
「俺はそいつらと会うかもしれないんだろ?その先はおいおい聞くさ。」
俺の言葉に小さく笑い返したエンレイは部屋を見渡し、呆れ顔でため息をこぼす。
「ああ、秘密の話は、またその時に。どうやら、この娘たちがみな聞き耳を立てているようであるしな。」
寝袋に入った三人がピクリと動いたのを見る限り、エンレイの言葉に間違いはなさそうだ。ラウラとアリスにとっては初対面だから、ずっと狐の姿でいてもらった方が良かっただろうか。
「娘たち、今の話はお前達への自己紹介も兼ねていたから、心配する必要はない。試すような真似をして悪かったな。・・・いやしかし、驚いたぞ。この少年への信頼だけで、顔も知らぬ男への猜疑心をなくせるとはな。まあ、警戒心はまだ、解けてはいないようだがな?」
観念したようにこちらを向いたアリスとラウラは、怯えこそしていないが、なにか少し気まずそうだ。
「そりゃそうっスよ。そんな化け物じみたマナを纏わせておいて、警戒するなって言う方が無理あるっス。」
「え、そうなの?・・・なんとなくすごいくらいに思ってたけど、アリスが言うってことは、もしかしてエンレイ・・・」
「マナの量で言ったら、アリスちゃんも相当だけど・・・エンレイさん?のはもう、見れば人じゃないって分かるレベルだから。・・・シオト、こんな神様みたいな狐、何処で拾ってきたの?」
俺は精霊やらマナやらは視認できないが、エンレイはやはり規格外な奴のようだ。ハイトロールを一撃で氷漬けにする魔法を何発も放てるアリスを、遥かに凌駕する実力。実際に神様の一部だと言われても、十分に納得できる。エンレイ自身が驕り高ぶることはないが、四つの天聖、そう呼ばれるにふさわしいほど、特別な存在なのだろう。・・・そんな奴が、
「君たちには伝えていなかったが、私はそこの狐娘と共に、お前たちの旅に同行することにした。そう気負わず、愛くるしいペットだと思ってくれ。」
どうして、俺達についてくるなんて言い出したんだろうな・・・。
「シグ姐さんはもちろん大歓迎っスけど、こんな神々しい人、ペットだなんて思えるわけ───」
「──この姿なら、たいへん愛くるしいだろう?・・・撫でてもいいぞ。私は元々人懐こい狐だから、撫でられるのは嫌いではない」
「・・・これはー・・・、ありかも。」
俺の疑問に答えは出てこないが、そんな因果によって、狐少女と天聖の妖狐の二人が仲間に加わった。
ここまでお読みいただいた皆様、心より感謝申し上げます。誠に勝手ながら、しばらくこの作品には手を付けず、『スキル弱化オーバードライブ』にて執筆活動に励もうと考えております。差し当たりいい感じは不定期の連載中止となりますが、今までこの作品を愛して下さった方への感謝と共に、これからも気張って書いていこうと思います。是非、宜しくお願い致します。




