コント「ラーメン屋」
店主:
いらっしゃいませ!
客:
(あたりを見回す)
店主:
空いてる席へどうぞ。
客:
……なんだよこの店。不安なるなあ。
店主:
……は?
客:
特に内装とかヤバいよこれ。どうなってんの。
店主:
ちょっとお客さん!入っていきなりそれは失礼でしょ!
客:
え?何がですか?
店主:
とぼけないでくださいよ!うちの内装を馬鹿にしたでしょ!
客:
いや、してないですけど?
店主:
いい加減にしろよ!ちゃんと聞こえてたんだからな!?
内装を見て、不安なるだのヤバいだの言っただろ!
客:
いや、『不安なるなあ』じゃなくて『ファンなるなあ』って言ったんですけど。
店主:
え!?そう言ってたの!?
客:
素晴らしい内装だからヤバいって言ったんですけど……。
店主:
めちゃくちゃ褒めてたんですね!?
すみません、聞き間違えました!
客:
いや別にいいですけど……。
特製海老蟹ラーメンをください。
店主:
ありがとうございます!
……
へい、特製海老蟹ラーメンお待ち!
さっきはごめんね。おまけでチャーシュー入れといたから。
客:
え?『食えねえよこれ』……。
店主:
あ、ごめん!チャーシュー嫌いだった?
余計な事しちゃったね。皿に避けといていいから。
客:
あ、違います。『増えねえのこれ?』って聞いたんですけど。
店主:
どういう意味!?増えねえのって何が?
客:
あまりに美味しそうだったんでチャーシューもう一枚貰おうかと。
店主:
追加注文って事!?
ごめん、ちょっと独特な頼み方だったから聞き間違えちゃったよ。
じゃあもう一枚。これもサービスでいいよ。
客:
店主さん、きめぇな。
店主:
おい……。人が良くしてあげたのに『きめぇな』だなんて、どんな教育受けてきたんだ!
客:
いや、『気前いいな』って言ったんですけど……。
店主:
またやっちゃったよ!ごめんね!
あと、何でさっきから褒める時だけ急激に滑舌悪くなるの!?
いい事なんだから堂々と言ってくれていいからね?
客:
じゃあいただきます。
……うわ。『マジぃ…うぇ……』。
店主:
……あのなあ。そういう事は思っても口にするなよ……。
客:
え?いいじゃないですか。『マジうめえ』って言っても。
店主:
うん!どうせ聞き間違いだろうと思ってた!
もう次はどんな間違いなのか楽しみになってきたよ!
海老と蟹の香りがして美味しいでしょ?
客:
うーん……。正直、『海老蟹臭え。微妙!』
店主:
……いや、これは無理だわ。どう考えても酷評してたもん。
はっきり聞こえたよ。臭え、微妙って。
客:
いや、『エビバディセイッ、美味ー!』って言ったんですけど。
店主:
どんな聞き間違いだよ!ありえないでしょ!
エビバディセイッてなんで他の客達にも言わせようとしたのよ!
しかも『美味ー!』って。言いにくいでしょ!『美味しいー!』とかでいいでしょ!
客:
……ちょっと!何なんですか、さっきから。
人がこんなに褒めてるのによく分からない事ばかり言って!
店主:
あのね、お客さん。ずっと聞き間違えてたのは謝りますけどね、馬鹿にされたように聞こえたら良い気持ちしないでしょ。
この店、お台場月光を、俺は誇りに思ってるんですから。
客:
……そうですよね。こっちもすみませんでした。
ではご馳走様でした。
(出口に向かう)
店主:
ちょっと待ってお客さん。会計まだでしょ?
客:
え?さっき言ったじゃないですか?『この店、お代は結構』って。
店主:
……それ『この店、お台場月光』って言ったんだよ!逆パターンもあるのかよ!
ボランティアでラーメン屋やってる人いないでしょ!
お金は払ってくださいよ。
客:
ああもう意味わかんない。はいこれちょうど千円ね。
……こんなん二度と来ねえよ。
店主:
ちょっと待ってよお客さん!
そんなこと言わずにまた来てくださいよ。
客:
え?そりゃまた来ますよ?
店主:
だって『こんなん二度と来ねえよ』って。
客:
いや、『こんなに良いとこ無えよ』って言ったんですけど。
店主:
最高の褒め言葉だよ!最後まで聞き間違えちゃったよ!
客:
なんなんだよ本当に!
『ちゃんと聞き取れバカ野郎!』
(店を出る)
店主:
ちょっとお客さん!帰り際にそんなひどい事言わなくても。
…
…
…
店主:
あ、今のは本当に言ったんだ……。
-終わり-