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空も海も星さえ超えて

 スティアの家に戻る途中、それぞれの家から出てきた村の人達に沢山声をかけられた。なんとなくみんな状況を察したみたいで、スティアとソフィにお礼を言っていく。特に、やっぱりスティアは扱いがすごい。もう本当に神様みたいな言われよう。そんな人たちを抜けて、スティアの家に入る。


「……どう?凄いでしょ?」


 奥の部屋で椅子に座った途端、スティアは得意げな顔でわたしに言う。


「………すごい」


「私もそう思うわ………スティアちゃんの錬金術の凄さ、直接見なくても伝わってくるレベルだわ………」


「元々はそんなつもりなんてなくて、ただ人助けでやってたんだけどね。さっきも言った通りいつの間にかこれよ。最初は流石のあたしもびっくりしたけど、慣れてくればいいものよ。あたしはいつも通り、作れるものを作ってるだけなのに村の人達はあそこまで喜んでくれる……思い返せば、あたしの錬金であんなに喜んでくれるの、アリスくらいしかいなかったし……」


 さっきまでの得意げな表情から一転。スティアは少し俯き、なんだか悲しそうに言う。


「そうだったの?」


「そうよ。アリスと同じ街で店をやってた頃は、まあ商売だから仕方ないとはいえ……みんな、『それくらい当然』って感じだったわ。すました顔で軽くお礼を言って、終わり。あたしの錬金術、結構凄いんだけどね………。」


「そうね……特に、北の地域に住んでる人、その中でも錬金術で作られたものを買う人達は『買ってやってる』なんて考え方を持っている人も少なくないわ。」


「え、じゃあソフィさんも?」


「そんなわけないでしょ。そうだったらここでこんなこと言わないわよ。」


 たしかに。


「でもね、そんな中でもアリスは……アリスだけは違ったのよ。ある日突然、お店に来たのよ。大人の常連客ばっかりの店に突然知らない子が来た上に、とんでもないことを言うもんだからびっくりしたわよ。」


 スティアはその時のことを思い出してるようで、なんとも言えない表情をする。


「……………」


「………………」


「…………なによ2人とも?なんか言いなさいよ。」


「え、あれ?」


「あら……てっきり回想が始まるものかと………」


「なによそれ………まあいいわ、じゃあそうするわよ……」


 ―――――――――――


 ―――――


 ――


 ―



 ―――――――――――――――――――


 かつて女神が降り立ったと言われ、信仰の地となっている世界の北にある聖地『ノーザンベル』。そこより少し南、『ルミナ』の街。多くの貴族の名家があり、『セクレタン』や『アイリーン』もそこに代々住んでいた。そして、錬金術師スティアもまた、その地に住んでいた。


「はい、これはいつもの薬……で、こっちが()()壊れない料理道具……どうぞ。合わせて20000ルピアよ。」


 スティアはそう言い、客に対して錬金術で作ったものを差し出す。表情は、少し無理のある笑顔で。


「……はい、ピッタリ20000ね。またよろしく。」


 どこかの貴族であろう、その男性客はお金を出し、それだけ言うとすぐに店を出ていった。


「ふう、今日の分はこれで終わりね。」


 手元の手帳を確認する。細かに書かれた依頼と予定は全て消化し終わっている。相手が貴族とだけあって、報酬は毎回悪くないことが多い。


「まったく……それにしても」


 スティアは店の奥のカウンターにある椅子に座り、カウンターに肘をつき独り言を言う。


「なーんで誰もかれもみんなあんな態度なのよ……そりゃお金のやり取りしてる商売と言えばそれまでよ、でも……」


 もう少し……とも思う。客によってはろくに言葉も発しないで、ものだけ受け取って帰る者や、後出しで注文をつけてきて文句を言うものもいる。それに、思い返してみれば『ありがとう』など、お礼の言葉を言われたこともほとんどなかった。


「貴族だから偉いなんてわけないって、未だにわかってない頭の固い年寄り貴族が多すぎんのよ……自分たちじゃ簡単な錬金術も出来ないくせに」


 とは言っても、そのような客のおかげで自分の生活が成り立っている……その事実も、スティアは理解していた。


 彼女の両親もまた高名な錬金術師だったが、それ故に世界中多くの人にその力を必要とされ、旅に出ることになってしまった。しかし店を放置する訳にも行かず、まだ子供ながらに天才的な才能があるスティアに任せることになった。


「まあ、しょうがないわね。明日の準備でもしておこうかしら。」


 カウンターから立ち上がり、店のドアをしめに向かうスティア。錬金術の調合を行う時は邪魔が入らないように、店を閉めることにしている。


 そして、スティアがドアに手をかけようとしたその瞬間、ドアが開き、誰かが入ってきた。


「うわ!?」


「きゃっ!?」


 ぶつかりそうになり、スティアは1歩引く。


「………お客さん?」


 入ってきたのはスティアの知らない少女。見たことのない、妙な帽子をかぶった薄い黄色の髪色の、スティアと同い年くらいの少女。


「は、はい!ここのお店の方がつくる錬金術の道具はすごいときいて!作って欲しいものがあるんです!」


「……なにかしら?言ってみて。」


 そして、少女は満面の笑みで答える。


「はい!作って欲しいものはどんな鍵でもすぐにあけられるような針金とか……ほかの人のすぐ後ろを歩いていてもバレないような服とか……相手が嘘をついているかどうか見極めることができるメガネとか……あとは………」


「はあ?無理よ無理。なによそれ。そんなもの、もしできても作るわけないじゃない。特に鍵なんて普通に犯罪よそれ?あたしは犯罪者の手伝いなんてしないわよ。ほら、どこの子か知らないけどお家に帰りなさい。」


 最後まで話を聞くこともせず、スティアは少女を店の外に出そうとする。しかし、少女はそれを拒み、言う。


「………ダメですか。どうしても?……お金なら、無くはないです………」


「だーかーら、そういう問題じゃないのよ………。あたしの専門は薬とか日常で使うものなの。まあたまには武器とか、少し物騒なものも作るけど。………とにかく、お金とかそういうことじゃなくて、あんたは常連客でもないし、その道具を何に使うかもわからない……作れるわけないわよ。ほら、諦めなさい。」


 しかし、その言葉が少女に謎のやる気を覚えさせてしまった。


「常連客じゃない……ということは!常連さんになればいいんですね!わかりました!!今日は帰りますけど、また明日も来ますね!明日はお薬作って欲しいです!それでは()()()はこれで失礼します、またあしたです。」


 アリスと名乗った少女は頭を下げ、店の外に出ていった。その様子を眺め、店をしめながらスティアは1人つぶやく。


「アリス……?どこの子よ。なんだかわかんないけど、変な子に目つけられたわね………明日適当に言って、諦めてもらうしかないわね。」



 





レズ

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