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わたしといれば笑っていられるの?

「まず、元々わたし達は魔王に立ち向かうために必要とされる道具の中でも、存在が知られていないもの…神器とか言われるものを探してたんだよね。」


「そうよ。あんたが言い出したことよ。で、まずはそれがこの村の近くの蒼海の入江から行けるところにあるんだとか言ってたわよね。」


 スティアがそう言い、続けて今度はソフィさんが言う。


「でも、それはシオン君たちもいつの間にか知ってきて、この近くにある道具も見つけていた。さらに、邪魔になるからやめろ…なんて言われてしまったのよね。」


「なるほど……じゃあどうするんですか?」


「とりあえず、わたしはソフィさんと一緒にもうしばらく行動して、勇者の伝承を調べるよ。何とかっていう古いお城にいけば、またなにかわかるみたいだし。」


「そうね、私もそうしてくれると助かるわ。1人よりも2人の方がいいもの。」


「……って訳で、『魔王を倒すための道具集め』はシオンに譲った!今後のわたしの旅の目的は『かつての勇者の伝承を調べる』に決定!目指すお城がどこにあるかは知らないっ!」


「………ところで、アリスはどうしましょう?」


 アリスは何故かオドオドして言う。


「わたしは一緒に来て欲しいな……ソフィさんはどう?」


「別にいいわよ。ルナちゃんのお友達なら断わる理由なんてひとつも無いもの。それなら、スティアちゃんも一緒よね?」


 スティアに話を振ると、すぐに返事…はせずに、少し考えてから口を開く。


「あたしは……どうしようかしら。正直、ここの人達にここまで頼られて、それを無視してどこかに行くなんてのもなんか悪い気がするのよね……。」


「あー」


 それはたしかに。元々不本意だったんだろうけど、根っこは優しくていい子なスティアの事だから、そんなふうに考えちゃうのもしょうがない。まあ本人も頼られるの喜んでそうだし……。


「でも……まあ」

 

 スティアが何かを言おうとした瞬間、外ですごい音がした。その直後、部屋の人が入ってきた。


「スティア様アリスさん、失礼します……!外に……外になにかが……!」


「な、なんでしょうか!?」


「はっきり言いなさいよ!……ああ、もういいわ!ほら、あんた達も来て!行くわよ!!」


「あ、うん」


 何が何だかわからないまま、みんなで家の外に向かう。



「……!」


 外に出ると、すぐに異変に気がついた。さっきまでいい天気だった空は真っ黒な雲におおわれて、嫌な音で鳴っている。


「なんなのよ……!?」


 村の人たちも外に出てきて、心配そうに何か話している。すると、アリスが叫ぶ。


「皆さん!気になる気持ちはアリスもよくわかります!でも、危ないので家の中にいてください!お外にいると何が起きるかわかりません!」


 それをきくと、ほとんどの人たちはすぐに家の中に入っていった。すごい、みんなアリスのことを信頼してるんだ………。


「嫌な空気……こんなの私も初めてだわ……一体何が………」


 すると、村の奥……海のすぐ近くに突如人が現れた……ローブを纏った奇妙な姿………え、あれって………


「だ、誰ですか!?……ま、まさか!」


 叫ぶアリスとは対照的に、スティアは小さくつぶやく。


「……ティアナ」


 ティアナ……魔王ティアナ。あの姿はアリスと一緒に前に見た事がある。あれ以降、1度も姿は現してなかったけど、いきなりどうして………


「魔王ティアナ……どうして………」


 ソフィさんも全く状況が理解出来てない。もし、理由があるとすれば……わたしとスティア……だよね。特にスティアかな?


「裏切り者、ワレを討とうとするもの、忌々しい伝承を調べるもの……全ては不要な存在。ならばまとめとワレが消しさればいい。偶にはワレが自ら赴くのも悪くない。……愚かな結末を恐れぬ者、自らの浅はかさを地の底で嘆くがいい。」


「ふーん、魔王直々にきて()()()なんて、もしかしてわたし達って凄いの?ね、ソフィさん?」


 しかし、ソフィさんはわたしの方を見ず、魔王に目を向けたまま言う。


「ルナちゃん……こんな時でも同じノリなのね……ある意味すごいわね。」


「へ?」


「ティアナ!あんたの姿見て少し思い出したわよ!まあどうでもいい……今更なんの用!?大体、部下に裏切られるなんて魔王としての威厳がないんじゃないかしら?」


「……好きに喚くがいい。もはやそれも過ぎたこと。……さあ深き水底から現れよ……メルビィー」


 魔王ティアナがその名を呼び、指を鳴らすと突如、海の中から巨大な『なにか』が現れた。


「す、すごいのが出てきちゃいました……」


「そ、そうね……なによあいつ……」


 魔王が呼び出した『メルビィー』。そのモンスターは巨大な蛇…とも少し違う。全身青い鱗に包まれていて、側面や背面に鰭が着いている。さらに、翼なんてないのに浮遊して、開いている口の中にはすごい牙がある。そして、複数の生き物の声が混ざったような、すごい声で唸っている。


「やれ、メルビィー。」


 それだけ命令し、魔王は消えた。なに、色々言っておきながら、自分はそうやって逃げるき………


「うわっ!?!」


 そんな文句なんて言う暇もなく、メルビィーは口からすごい圧力の水を吐いてきた。球体になっていたそれが地面に当たると、大きな穴が空いた…こんなの死ぬって。


「スティア、アリス、ソフィさん!!どうしよ!?」


 困って3人の方を見ると、どうやら3人ともやる気のようで


「どうしよって……そんなの、決まっているわよね?」


「はい!アリスだってやります!この村を守るんです!」


「あたしのことを信じて頼ってくれる人たちを……1人たりとも、傷つけさせないんだから!行くわよ!!あんたはそこで見てればいいわ!」


「はい」


 そして、まずはソフィさんが2つの剣をもって、浮遊しているメルビィーの下に走り込む。でも、どうするの?届かない。


「行きますよ……ドレッド・ブレード!」


 アリスは例によって、自由にうこぎ回る剣を出し、それをメルビィーに向かって飛ばす。それだけかと思いきや、さらに何かを取り出し、地面に垂らす。


「まだまだ!さあ力を貸してください…アリスのトリックスター・プロメテウス!」


「うわ、なになに!?アリス、こんなことできるの!?」


 アリスは突如、地面から巨大な『腕』を生やし、それも自在に操る。大きな拳を作り、激しく暴れるメルビィーの頭を殴り付けた。その衝撃で、メルビィーは地面に叩き落とされる。


「さあ、私も行くわよ。」


 地面に落ちたとなれば、ソフィさんの斬撃も余裕で届く。ソフィさんが斬りつける度に、メルビィーのからだからは紫色の霧が吹き出す。さらに、ドレッド・ブレードも加わり、かなり一方的に攻めている。


「……この地域は海の近くで地下にも水がおおい……と。それなら………」


 そして、近くにいたスティアも杖を地面に刺し、攻撃の姿勢。



「地脈に眠る激しき冷たき流れよ……あたしの力とともに目覚めて!『霊脈活性錬金』!」


 前みたいに、杖に液体をかけると……今回は炎じゃなくて、杖を包み込むほどの勢いと太さで地面から水が吹き出した。そして、スティアはその中に手を突っ込み、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 水から生まれたモンスターに水は効くの?とか思ったけど、それ以前に、さっきメルビィーが吐いた水と同じで、スティアの放ったそれももはや水とかそういう問題ではなく、高圧の凶器となってメルビィーに突き刺さる。


「……つっよ」


 わたしはただ眺めてるだけだけど、ソフィさんは2本の剣を巧みに使い最高率で相手を切り裂く、アリスはドレッド・ブレードとよくわからない腕を使いとにかく手数で相手を攻撃、スティアは錬金術の応用の技で一撃必殺並の威力………その3人に襲われたメルビィーは、その巨体を持ってしても全く何も出来ないみたいで、死ぬ間際の蛇みたいに力なく横たわって、少し体を痙攣させて……そのまま()()した。


「なによ、もう終わり?」


 杖を回収し、スティアが言う。


「終わっちゃいました……プロメテウスさん、ありがとうございました。」


 アリスはそう言って、腕をまた何かの中に戻した。なにあれ


「………強いのね、2人とも。」


 そんなふうに言って剣を鞘に収めるソフィさんだって、十分に強いよ。


「またわたし見てるだけだった………ん!?」


 いや、これまずくない??勝ったのはいい事だし、3人が強くて頼りになるのも嬉しい、それはそうなんだけど………でも。


『わたし以外の人達がめちゃくちゃ強い』→『わたしは後ろにいて何もしてない』→『この4人で旅をする』→『わたしの役割は?』→『クビ』


 シオン達の時と同じ流れになりかねないよね!?


「ね、ねえ!ちょっとみんな…」


 不安になってみんなを呼ぶと、すぐに来てくれた。


「なによ?」


「いや……なんていうか……わたし、何もしてなくて……なんか悪いなぁって思って………。」


 思ったことをそのまま言うと、アリスが驚いたように言う。


「え、()()()()()?」


「??」


「アリスだって別に、自分ひとりじゃ何もできないんです。ドレッド・ブレードはスティアちゃんに作ってもらったものですし、プロメテウスも借り物の力です。ルナちゃんも確かに、戦闘に関しては全く何も……かもしれませんが、他にできることがあると思うんです。1人で出来なくても、みんながいるからできることが……」


 フォローしてくれてるの?微妙じゃない?


「ていうか、そんなことで悩むとか、あんたらしくないわよ。いつもみたいに頭空っぽで騒いでくれてた方がこっちとしても助かるわ。ソフィもそうなんでしょ?ルナのそういう所が気に入って、一緒にいる……でしょ?」


 スティアにきかれたソフィさんは、迷いなく頷いて答える。


「ええ、そうね。たかがそんなこと……って思うかもしれないけど、それでいいの。ルナちゃんのそういう所に救われる人も、いるってこと。ね?」


「は、はぁ……?」


 喜んでいいの、これ? なんかいるだけでいいんだよ、なんて言われて、褒められてるのか微妙………って、だからこういう風に考えるのが余計なんだよね!うん、いいじゃん!みんながいいって言ってるんだから、それが答えだよ!


「…3人とも、ありがと!」


「元気が出て良かったです。……なんだか空も晴れてきたみたいですし、村の人達にもう平気だと伝えてきます!スティアちゃん達は先にお家に戻っててください!」


 アリスは手を振って元気に走っていった。言われたとおり、わたし達はとりあえずスティアの家に戻ることにした。

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