スフィアの森で
「………??」
「こうなると思ってた……けど、こんなに早くとは……。」
うーん、おかしいなぁ。こんなはずじゃなかったのに。
完全に迷ったよこれ。スフィアの森は抜けるだけなら示されている通りの道を通ればいいんだけど、魔法使いの里はそういう場所じゃなくて、普通人が行かないようなもっと奥にあるはず……多分ね。だから、道をはずれて奥に入ったんだけど………まさかこんなに複雑とは!
「……どうする?」
「立ち止まらない!進もう!多分そのうちどっかに着く!」
「いいよ、ボクは君の決定を信じる。あとは危険なモンスターが現れないことを祈ろう。」
―――――――――
「うーん……?」
「ここはさっきも通った。この木に着いている傷はボクがつけたものだよ。」
「なるほど〜………困ったなぁ。」
あれから数時間。さまよっているけど全く進んでないし、かと言って入口まで戻れた訳でもない。グルグルしてる?
「ぅ〜…………お腹すいた!」
「はぁ………じゃあ少し休もう」
「うん!……じゃ料理!……レヴィは料理できる?」
その辺の倒木に座り、料理の準備をしながらレヴィにきいてみる、
「悪いけど、ボクは出来ない。……原種の人や他の種族からは想像出来ないかもしれないけど、竜人の食事は文化的では無い。」
「?」
「はっきり言ってしまえば、野生の動物とそう変わらない。特に竜の姿をとる雌は………うん。」
「へぇ〜……」
ってことは生の肉とか生きたままの魚とか食べるのかな?
「ああ、でも………君が料理をしてくれるのなら、もちろん喜んで食べるけど。調理されたものが苦手という話じゃないってこと。」
「あ、なるほど。じゃあ作るね〜。…………あれ?」
「………もう既に嫌な予感しかしないけど。」
うーん、おかしいなぁ。ちゃんと買ったと思ってたのに、食材が見当たらない。器具はあるのに。………あ!そうだ思い出した!もう食べたんだ!そりゃあるわけないー!
「………ってことで、釣りをしまーす!」
「………釣り、ね。」
近くにあった池に魚がいる可能性にかける。村から持ってきたこの竿で!
レヴィは少し離れたところでなにか言いたそうにしているけど、なんだろ?まあいいや。
「餌はその辺にいた変な虫でいいや。よしっと。」
カマキリとか、危ない虫じゃなきゃ平気。さあいざ!魚と真剣勝負!
近くの切り株に腰かけ、ゆっくりと池に糸を垂らす。
「……だいたい、本当にこんな場所に食べることの出来る魚がいるのかな?」
「それはわたしもわかんない……。でも、水が綺麗な割には底が見えないから何かいてもおかしくない……はず。」
「まあ、やるだけやってみて。ボクは見てるから。」
――――――――――――――――
「う、うぅ……」
「1時間たってかすりもしない……じゃあ望みは薄いね。」
一瞬たりとも竿が動かないまま、1時間が経ってしまった。もうこうなってくると、お腹すいたとか、ご飯食べたいとかじゃなくて、意地でも釣りたい!そこそこ大きくて深い池なんだから、何もいないわけない……はず!
「時間をあまり無駄にしたくはない。そろそ…」
「ああっ!待って!来たと思う!いや絶対来た!おっも!?」
「……確かに、その竿のしなりは尋常じゃない……すごい大物、もしくは……」
「くっ……あっ!?うっそ……切れた………。」
いきなり竿が軽くなり、反動で後ろに倒れた。糸を見ると針の方が無くなっている。………引きちぎられた?
「いやー…まさかそこまで大きいとは……悔しい……。」
わたしは起き上がらず、倒れたまま呟く。けど、レヴィは池の方を見つめたまま動かず、何も言わない。
「うん?どうしたの……んあ!?嘘!?」
体を起こし、池を見ると………!?
「え!?ひ、人!?何!?どういうこと!?」
池から顔だけ出した状態で、赤い髪の少女がこちらを睨んでいる。長い髪は水に使っているけど、それを気にする様子はない。
「え!?へ、へいき!?いや、ていうか誰!?」
わたしがめいっぱい近づいて声をかけると、少女は低い声で小さくつぶやく。
「は?どの口が言うんだよ……お前の垂らした針に引っかかり掛けてムカついてんだよ。なんとか引きちぎれたから良かったけど」
「……え?」
「……君はまさか……。」
いつの間にかすぐ隣にいたレヴィが、なにか思い当たることがありそうな言い方をする。
「んー?……あぁ、あんた………。」
対する向う側もなにか思うところがあるらしい、レヴィを睨みつけてため息をついてから言う。
「あのさ……釣りしてたおまえ、原種でしょ?」
「え、あ、うん。そうみたい。」
なんか、男の子みたいな喋り方だなぁ。
「迷惑なんだよね。相手の事情も考えないで、自分の利益のためだけに好き勝手やってさ。私のこと考えてないでしょ?」
「えっと……?」
「あーもう!物分りも悪い上に相手の気持ちを考えられない…なんでどいつもこいつもそんなバカばっかりなんだよ……!ほら、見せてやるよ。これで分かるだろ?」
そう言うと、一旦潜り、再び顔を出した……と思ったらそのまま高く飛び上がった……その姿は……
「………あ。」
上半身が人間で下半身が魚………それはおとぎ話に出てくる人魚……じゃない。きっと彼女こそ、『魚人種』なんだ。
ぶっちゃけそんなに大切でもないです。