奥深く岩窟で
「いや……全然暑いよこれ……」
「わがまま言わないの……そんなに遠くないから……」
着替えたけど、そんなに変わらなかった気がする。面積減っただけじゃん。
とにかく、いまはソフィさんについて歩くしかない。靴のおかげで歩きやすくはなってるけど。対してソフィさんはさっきと何も変わってないのに、さっきより平気そうにしている。気持ちの問題?
「………盗賊団見つけたら、どうするの?」
「どうするって……倒すわよ。捕まえて、目的とか他に仲間がいないかきくわ。そのあとは……本部に送ることになるのかしら。」
「?」
「罪の重い人は街や国ごとに管理している収容施設じゃなくて、世界統括団体本部にある施設に送られるのよ。あっちの方が厳重だから、脱獄の恐れもないの。今回のケースも、恐らくそうなるかしらね………。」
「そっか。」
良かった。安心した。それがきけたなら、わたしが心配することは無い。ソフィさんならきっと、勝てるし。
「……あったわ。あそこよ。あそこから地下に行けるみたい。」
見据える先は、不自然な大きな穴。自然にできたものらしいけど、不思議なかんじ。
近くで見ると、中はゴツゴツした岩肌で、ハシゴなんてなくても昇り降りは簡単そう。先陣を切るようにソフィさんが下っていく。
「ルナちゃん、気をつけてね。」
わたしが降りている途中、どうやら下まで降りきった様子のソフィさんが声を出す。
「うん、平気!こういうの慣れてるから!」
……下に向かって叫ぶとよく響く。なんか面白い。
「あーーーー!!!!」
「な、なに!?どうしたのよ!?」
「……響くから楽しいなぁって。」
「………気が付かれるかもしれないから、もう絶対やらないように。」
下に降りると、呆れた様子のソフィさんと目が合う。
「ごめん。」
「村長さんの話によると、この岩窟はそんなに大きくない……らしいわ。だからいきなり出くわすかもしれないから気をつけて。わたしの後ろから絶対に離れないで。………だからと言って背中掴むのはやめて欲しいわね。いざと言う時に剣が抜けないわ。」
「はい」
「足音も、できるだけ殺して。あと、極力声を出すのも控えてね。…じゃあ行くわよ。」
「…………」
無言で頷き、ソフィさんに続く。
盗賊団が潜伏してるだけあって、岩肌には燭台が着いてきて明るい。それに、何かのゴミや樽や木箱の破片も落ちている………ここにいるのは間違いない。
「…………」
不意にソフィさんが足を止め、こちらを振り返り耳に指を当てる。………?
「……………」
………………
「………か?」
……あ、声が聞こえる。なるほど、『耳をすまして』の合図だ。先を少し除くと、ボロい木の板が立てかけられていて、その向こうからひときわ明るい光が漏れていて、声もそこから聞こえる。……そういうこと。
「なあ……今夜か?」
「……い。それが良い……」
「…った……な。…いないか?」
「……ああ、たぶん………だ。」
さすがによく聞こえない……しばらく待っても、特に何も進展もない。何か話してるけど………たとえそれが聞こえても、どうしようもない気もする。
「………!」
ソフィさんの方を見ると、両手にそれぞれ剣を持っていて、声のする方に右手の剣を向けている。……突撃、そういう意思だ。
足音を立てないように、姿勢を低くしてゆっくり板に近づく。一応耳を澄ますと、さっきよりハッキリ声が聞こえて、どうやら『2人で会話している』みたい。
そして、ソフィさんは立ち上がり板を蹴破って中に入った。わたしもそれに続く。
「……なんだ?」
「侵入者か!?」
部屋の奥、盗んできたと思われるものの近くにいた盗賊2人は手に武器……短剣をもち、こちらを見る。
「侵入者……それはむしろあなた達よ。村に押し入ってものを奪う……最も頭の悪いバカのやることよ。」
「なんだと!?」
盗賊の片方、太っている男が過剰に反応した。
「すぐそうやって叫ぶところが頭の悪さの象徴よね。なにかしら、大きい声出して相手を睨めば威圧できるとでも思ってるの?」
ソフィさんはわざとらしくため息をついて言う。
「……女2人か?そんなことでオレ達を何とかするつもりか?バカはどっちだ。」
もう1人の盗賊……長髪で髭を生やした男が冷静に言う。
「……女だから何かしら。男も女も関係ないわ。……見せてあげるわよ、弱いもの相手にしかでかい態度取れないバカ2人に、私の強さを……ルナちゃんは下がってて、ここは私1人で十分よ。」
征されて、わたしは部屋の入口横の岩壁に背をつけて見守る。ここなら背後も壁だから安全。
「剣2本か!?それで2人同時に相手するつもりかよ!」
「ふん……おまえこそ盗賊団だからといって舐めないことだ……どっちがバカか思い知らせてやろう……!」
そして、2人同時にソフィさんに襲いかかる……けど、どーみても弱そう。わたしから見ても武器の持ち方とか、相手に向かう姿勢悪いって思うし。
「……バカ未満ね。」
案の定、ソフィさんの剣さばきであっさりと2人の短剣は弾き飛ばされ、丸腰になった2人のことをソフィさんは思いっきり蹴飛ばした。そして、動けなくなった2人を見下して言う。
「もう少し上手に生きられたら、こんなことにはならなかったのに。あるかどうか知らないけれど、もし次のチャンスがあったらもう少しどうにかできるといいわね。」
「なんだてめぇ……自分がちょっと才能あるからって調子乗りやがって………」
「……才能なんてないわよ。ただ、努力した人間が……あなたみたいな人間を見下して何が悪いの?」
「そういう所が気に食わねぇな……オレ達みたいな人間の気持ちなんてわかんないだろう……」
「だから何?わかるわけないわよ。人に文句ばっかり言って、犯罪まで……そんな気持ち、死ぬまでわかりたくないものね。」
と、その時。なにか嫌な気配。
「……はっ、死ぬまで……ね。なら今がその時だ!やっちまえ!」
長髪の男は倒れたまま、苦しそうに叫んだ。
「ソフィさ……!」
気が付かなかった…!天井に1人、ずっと張り付いてたんだ!天井から降りてきた女の盗賊が、長い剣でソフィさんの背中を切りつけた……ソフィさんはその場に倒れる。
「………っ!!」
「アタシに気が付かなかったようだね……二人で来たくせに、あんたは何も出来てない。この女はまあ後でいい。先にあんたを殺してやるよ。なんの目的か知らないけど、ここで暴れた以上、生きては返さない……。」
その女盗賊は、ソフィさん、それから倒れた2人の盗賊のことも蹴飛ばし、わたしに近づいてくる。見たところ、ソフィさんの傷は深くはない…けど、すぐに動くなんて無理。あとの二人の盗賊はもう動けなさそうだけど、今目の前にいる女盗賊が無傷……わたしに何ができるの?戦う?どうやって?この刀?
「立派な刀だ、せめてその刀だけはあんたが死んだ後も大切にしてやんよ。……さあ、終わりだよ。」
長い剣の切っ先をわたしに向けてくる。あと一歩踏み込むか、少し手を伸ばされたら刺さる………