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たったひとつ見つけた情熱

 次の日の朝。目を覚ますとソフィさんがベッドのすぐ横に椅子を持ってきて、座っていた。


「……?」


 そして何故か、わたしを無言で見つめてくる。


「え、なに?」


「………もうお昼よ。」


「はい、全部理解しました。」


 窓の外を見ると、太陽は1番高い位置。いい天気だなぁ。


「……ごめん。」


「別にいいわよ……起こそうと思えば起こせたけど、起こさなかった私も私だし………」


 …………え、じゃあずっとわたしの寝顔みてたのかな………変なことするなあこの人。


「ま、いいわ」


 ソフィさんは少し息を吐き言う。


「今からでも街までなら全然間に合うわ。仕方ないから、砂漠に出発するのは明日。今日はしっかり準備をしましょ?」


「……うん、ごめん。」


 優しいな、やっぱり。怒るどころか、優しい笑顔でそんなこと言ってくれるなんて。………呆れてるわけじゃないと思いたい。


―――――――――――――――――――――


「この辺りはこんなに緑豊かなのに、ホントに砂漠なんてあるの?」


 宿を出て、ソフィさんの後ろを歩きながら景色を見ていると、そう思わずには居られなかった。草も木も沢山で、川まで流れてる。どうしていきなり砂漠?


「そうねえ、不思議よね。でも、そういうものなのよ。これは別に人間が環境を壊したとか、モンスターがどうだとか、魔王がどうとかじゃなくて、自然の力なの。」


 前を歩くソフィさんはわざわざこっちを向いて答えてくれる。


「そうなの?」


「確実な説ではないけど、一説によると………これから行く街の近くに生えている木が特定の地域の水や養分を沢山すいとって、不毛の地に変えてしまうらしいわ。現に、あの街の近くには異常に発達した妙な形で、やたらと水分を多く含んだ木が沢山生えている……ありえない話では無いわ。」


「でもそうだとしたら、どうしてこっちの方は砂漠にならないのかな?」


「根っこの方向かしら?どういう訳か、南の方にしか根を伸ばさないらしくて、その方向だけが砂漠になった………らしいわ。私も本部の資料をみただけだからよく知らないけど………。」


「へぇ……ソフィさん、色々知ってるし頭いいね。」


「………そんなことないわ。私は恵まれていただけ。私みたいな環境にいれば、きっと誰だって私みたいになれたわ。知識も、強さも………。」


 うわうわ、かっこいい。わたしもそんなこと言える人になりたいなぁ。


「ソフィさんって貴族なんだよね?どういう家系?」


 アリスは代々探偵だって言ってたし、ソフィさんも何かあるのかな?


「……明確に何かあるわけじゃないけど、ざっくり言えば…『冒険家』かしら?世界の色々なところにいって何かを見つける………だから私は世界統括団体に入ったの。今の時代、単独での行動よりは組織に属した方がメリットが大きいものね。だからこの仕事は私に向いていると思うわ。実際、とても楽しいわ。」


 前を向いちゃって顔は見えなくなったけど、ソフィさんの声は嬉しそうだし、きっと笑ってる。


「きっと、私のやりたかったことはこれだった……そんなふうに感じているくらい、今の仕事は私に合ってるわよ。」


「……貴族って、大変?」


「そうでも無いわよ?少し厳しいけど、言われたことをちゃんと守れば別に何も不自由は無いわ。別に貴族だからって常識がないなんてこともないし、街のみんなとも仲も良くて………ああ、でも。」


 ソフィさんはいったんそこで言葉を区切り、少し間を開けて続ける。


「同じ町の他の貴族…基本的には友好的な関係だけれど……ひとつだけ、私は理由は知らないけど、絶望的に仲が悪い家があったわね………たしか、『アイリーン家』……探偵だったかしら?なんて、ルナちゃんに言ってもわからないわよね……」


「あーーーーーーーーそうなんだーーーーーへーーー知らないですねーーーーはい」


「………??」


 そっかそっか、そういえばアリスも挨拶がわりのキスとか言ってたような…………同じ街だったんだ……ふーん……そう……。


 どーしよ、仲悪いんだ……でも、今の感じだと、ソフィさん自身はなんとも思って無さそうだし、アリスがアイリーン家の人ってことも知らなそう。じゃあ黙ってればいいかな………うん。


「……北の地域って貴族多いのかな……?わたし行ったことないから知らないけど……」


「そうね、かなり多いと思うわ。なにより、北の地域は工業地帯。この辺りじゃまず見かけないようなものが沢山あったり、馬車より全然早い乗り物があったり、すごい建物が沢山あるのよ。貴族が多いから発展したのか、発展したから貴族が多いのか……はわからないわね。いつか一緒に行けるといいわね。」


「…楽しそう。」


「……………まあちょっと空気が汚いけど。」


「あ、そうだ。もうひとつ質問……なんで剣2本持ってるの?」


「質問を質問で返して悪いけど、先にきかせてくれるかしら。ルナちゃんの背負ってるその立派な刀………」


「あ、これは飾りだよ。別に何か謂れのある凄いものでもないし、わたしは全くこれ使えないし。でもなんかかっこいいじゃん?ね?」


「………………良かったわね。」


 あれ、なんか変なこと言ったかな。ソフィさん黙っちゃった。質問の答え、きけてないよ。




「……この2本の剣はね」


 しばらく歩いていると、不意にソフィさんが喋りだした。


「片方の、紫のラインが入ってるのは元々わたしのもので、もうひとつ……黄色のラインが入っているのは私の兄のものだったのよ。この2本は昔、有名な鍛治職人の人に一対で作ってもらったの。兄と私、離れていても一緒に、そういう気持ちを込めて。」


 ……それを今1人で持ってるってことは………


「私の兄は1人で世界中を冒険していたわ。でも、それには危険が付きまとう……だからあの日………帰ってきたのは、この剣だけだったわ。兄は…………。だから私は盾を持ったり、1本の剣を両手で持ったりはしないで、2本を同時に扱うのよ。」


 そして、ソフィさんはクロスさせて背中に背負っている2本の剣の持ち手をそれぞれ撫でた。


「そうだったんですね…………」





「………まあ、今の話は全部嘘よ…………本当は単純に2本使うとかっこいいから………それだけ。そもそも私に兄弟も姉妹もいないわ…………。」


「えぇ…………」


 うーん、ソフィさんも少しおかしい人かもなぁ。


――――――――――――――――


 他愛も無さすぎる話しながら歩いていたら、やっと街が見えてきた。疲れはしてないけど、何故か遠く感じた。日は少し傾いているけど、まだ明るい。近づくにつれ、人の行き来が多くなる。馬車に荷物を詰んだ人、布に包んだ大きな荷物を自分で担ぐ人、手ぶらなひと…様々。遠目でもわかる、大きい街だ。


「あら、そういえば……ルナちゃんって荷物とかないのかしら?私はこれに入れてるけど……」


 ソフィさんの腰周り、ちょっと大きめのポーチがある。あれにものを入れて調査活動をしてるみたい。ちょっと重そう?


「わたしはこれ!見てよこれ、凄いから!」


 かつてメルリアに作ってもらった最強最高魔法のポーチ!物理法則とか色々無視して、小さなポーチの中にめちゃくちゃ広い空間がある。重さも感じない便利すぎるアイテム!今は宝石とかおやつしか入ってない。腐らないしまじで便利だよ。


「えっと……どうなってるのかしらこれ………」


 中を覗いたり、手を入れたりしながらソフィさんが困ったように言う。


「さあ?」


「魔法……だとしても、こんなもの見た事ないわよ……。永続的に狭い空間に魔力を保ち続けて、持ち運ぶなんて……通常の式じゃあ絶対に導き出せないありえない魔法………それこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……それがないと無理よ、こんなの………一体どこで手に入れたの?」


「あ、あはは……ちょっとね………色々と。」


 完全にメルリアはその条件を満たしてるよ………世界最強の天才的魔法の使い手で間違いない。賢者だしね。スーパーノヴァ、また近くで見てみたいなぁ。


「まあ深くは聞かないわ………さて、そろそろ着くわね。この国で1番大きい街よ。」


「…………」


「あら、どうしたの?」


「…………国って、どういう仕組みになってるの?よく考えたらわたし、そういうのも全然知らなかった…………」


「え、そこから………」


 表情にはできるだけ出さないようにはしてるけど、これはすごいひいてる感じだね…………でも知らないものは知らないし………

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