魔王ティアナ
別の場所でのお話です
世界のどこか、暗い部屋で残された最後の一人の四天王『アルカナの支配者』はローブを纏った人物と向かい合っていた。
「あーあ、もう俺1人だけかよ。最初のふたりは実質裏切りだし、ルナはくだらねぇミスで自滅………なあ魔王サマ、こんなんでいいんか?」
魔王サマ、そう呼ばれたのはローブを纏った者。その者は複数の声が混ざりあったような奇妙な声で喋る。
「何も問題は無い。反転世界は時間を稼げばそれでいい。果たすべき役目は十分に果たした。ワレの大願へと至る力も日毎に増していることを感じる。」
「ならいいけどなー。」
『アルカナの支配者』は身にまとった黒いマントを翻し、大袈裟な仕草をして続ける。
「でもどうなんだ?こうなると次は当然、俺の出番だ。ホントはこのままあの場所にいたいけど、まあ魔王サマが行けって言うなら行くさ。……もっとも、俺が貰ったこの力があれば、あんなガキンチョども一瞬で終わりだぜ。」
「……まだその時ではない。泳がせるべきだ。神器を集め、さらに力をつけてきた時こそ、汝の出番だ。その力は強き者にこそよくきく。」
「なるほどな。アイツらが今よりもっと強くなって、その時にこそ俺の真の力が出るわけだ。」
そしてアルカナの支配者はローブを纏った者………魔王に背中を向ける。
「でもなあ、よくやるわほんと。元々は普通の人間だった俺からすればあんたの目的は理解出来ねぇよ。………いや、目的そのものだけ見ればわからなくもないが、そのためにこんなことをするなんてな。だってアレだろ?この間もそのためだけに東の村3つもぶっ壊してさ。しかも、結果的には何も得るものはなかったように見えたぜ。無駄に殺してるだけじゃねえのか?」
「ワレとて人間ごときに理解を得られとは微塵も考えてはいない。意味の無いことに見えても、それは大願へと至る意味を持つ。」
魔王は抑揚のない声で答える。
「不思議なもんだわ。なんであんた魔界からこっち来る時に、魔界の奴ら、知能の低いモンスターしか連れてこなかったんだ?現地の人間捕まえて四天王なんて名乗らせるくらいなら、魔界の有能なやつ連れてきた方がいいだろうに。」
「汝に教えることではない。」
「はいはい、じゃ俺は帰る。俺を待っててくれる奴らもいるしな。」
アルカナの支配者はニヤニヤとした笑みを浮かべ、どこかへと消えていった。
「………待て。」
その声に反応に、アルカナの支配者は面倒そうな表情で再び現れる。
「なんだ?」
「経過や動向にだけは常に気を配ることだ。現状ではまだ力をもたぬ者だが、彼女の周りに集うものたち………奇妙な因果を持つ。何かの拍子にそれらが繋がり、増幅する可能性もないとは言いきれん。」
「わかってるって。………まあでも確かに、偶然とは思えないレベル………かもな。認めたくはねぇけど、天才錬金術士に女神共、それに加えて勇者達や世界統括団体の人間……」
「更には複数の種族との交友関係………ワレにも完全な予測は出来ないところがある。」
「魔王サマでも……ねぇ。なるほど、それなら因果の中心の『トリックスター』もあながち過剰評価でもねえかもって所か。じゃ、今後こそ俺は行くわ。」
アルカナの支配者が居なくなり、静かな部屋。魔王ティアナは一人つぶやく。
「トリックスター……たとえ何者だろうとワレの邪魔はさせん。世界を闇に落とし、ヘブンズマウンテンに護られし世界の中心………その力を手にするのみ。」