見渡す世界が未完成でも
ちょっと長いかもしれないです………
………ああ
ここは
見慣れた世界
そらは青く明るく、太陽が照らしている
辺りには草木が生い茂り、緑が目に優しい
鳥の声も聞こえて、そよ風が気持ちいい
人の姿は見えないけど、馬車のようなタイヤの後があるから、人の営みも感じる
だから、帰ってきたんだ。
―――――――――――――――――
「うぅ……どうして……マリー……」
そんな在り来りな平凡な世界。わたしは一人泣いていた。木々の生えた木漏れ日の綺麗な街道。そんな平和な空気でも、わたしの涙は止まらず溢れる感情も無くならない。地面に座り込んで、動く気もしない。
「これしか無かったのかな……どうしてもっと他に……」
考えたって仕方ないし、きっとマリーならまた怒る。『なに泣いてるんやアホ!』って。ノルンがいたら、笑いながらおちょくってくるかな。もしもユイがいたら、きっと本に目を落としたまま、冷たいことを言ってくるだろうね。でも、3人とも居ない。ノルンとユイはきっとそれぞれ別の場所だし、ユイは多分ノルンを探すんだろうね。マリーは………マリーは………もうどこにもいない。こんな時に1人なんて、どうしたって悲しい。
「………どうするのわたし。」
ここはそもそもどこ?南にある蒼海の入江には近づけた?スティアとアリスは今どこ?鏡の世界に行ってから何日たった?何もわかんないし、やる気も出ない。せっかく独裁官ルナを……つまり、四天王の3人目を倒したのに(ていうか他の2人がやる気無さすぎでしょ)、どうしてこんなに悲しい……。
「あらあら、悲しい声を出しているのは誰かしら?」
「……?」
不意に、背後から声が聞こえた。振り返ると、知らない女の人がいる。
「誰ですか………」
「うふふ、私は貴女みたいな困っている子の味方よ。」
「胡散臭………」
と、涙をふいて改めてその人をよく見てみると、全く知らない人で、見たことも無い服をきているのに、謎の既視感がある。
全体的には白と赤の短めで、フリルのついたふわふわなスカートに、綺麗な生地で作られた上半身部の服は宝石の装飾が多く着いていて、なんとなく特別な感じがする。
膝くらいまである長めのストッキングは黒で、肩の少し下まである綺麗な、ゆるふわセミロングなクリーム色の髪につけている花の髪飾りには、中心に緑色の宝石がついていて………うーんなんだろう……。
あと、そんな服装なのに背中には長めの片手用の剣を2本をクロスさせて背負っていて、なんかミスマッチ。
「あら、そんなにジロジロ見て……この服装が気になるの?」
「…………あっ思い出した………あの人が着てたやつににてる……」
林の中の宿で話した世界統括団体のお兄さん……あの人が着てた制服にデザインが似ている。つまり、男性用が女性用かの違いってことかな………
「世界統括団体……ですよね?」
「正解。世界統括団体調査隊兼研究チームのソフィ・セクレタンよ。」
「…………もう一回いいですか?」
長い。
「世界統括団体、その中にある組織の一つである『調査隊』、私はそれに属しているけど、それと兼任して『研究チーム』にも入っているの。それと、私の名前は『ソフィ・セクレタン』。北の方の街に住む貴族『セクレタン』家の娘……これで平気かしら?」
優しく、ゆっくり説明してくれた。
「はい、わかりました……」
そして、何故か人の優しさに触れた途端また、とめどなく涙が溢れてくる。
「ちょ、ちょっと……どうしたの?何があったか、聞かせてもらってもいいかしら……?」
「え、嫌です…」
「あ、え、そ……そう。ま、まあ……無理には聞かないけど………」
うわ、ソフィさんちょっと引いてる。
「あ、ごめんなさいソフィさん………」
涙を拭きながら謝る。すると、ソフィさんは優しく笑って答える。
「いいのよ、別に誰にだって話したくないことくらいあるものね。……それと、敬語とか、丁寧な呼び方とかしなくていいわ。偶然私の方が貴女より年上ってだけで、そんなふうに扱われるような人間じゃないもの。」
「あ、そうなの?わかった、よろしくねソフィ………うーん……。」
「あら、どうかしたのかしら?」
「なんか、呼び捨てはわたし的に違和感………『ソフィさん』でもいい?」
「いいけど………なんか、その口調で名前だけ『さん』をつけるなんておもしろいわね。」
「わたし変わり者だから………」
「そんなこと…………」
突然、ソフィさんが喋るのをやめて静かになる。なんだろ?
「どうしたの?」
「静かに………」
口の前で指を立てて、それ以上喋らないで、仕草でと伝えてくる。そして、ソフィさんは背中の剣に手を伸ばし、近くの茂みを睨みつける。
「…………なにかいるわ。」
たしかに、よく見ていると……道の脇に生えている木の根元の茂みが変に蠢いている。カサカサと小さな音を立てて、なにかが動いているような………と、その時。
草木をかぎわけるような大きい音と共に、なにかが飛び出してきた。
「わっ!?」
飛び出してきたのは、大きめの犬くらいの大きさの生き物。だけど、その見た目はとても普通じゃない。確かに大まかな形も犬っぽいけど、足は6本あるし目は3つ。さらにしっぽには変なトゲが生えてるし、口からのぞく牙も三又に別れていて相手を殺すことだけに特化してるようにしか見えない。その気持ち悪いなにかはわたしとソフィさんの方を見て、どうにも表現出来ないような唸り声を上げている。
「これは……確か、『ガルトルク』……だったかしら。在来種のモンスターではなくて、魔界のモンスター……でもどうしてこんな田舎の何も無い地域に魔界のモンスターが………きいたことがないわ。」
うーん、だとすると100%わたしが原因じゃん。魔王に目つけられてるらしいし、鏡の世界も壊したし、わたし狙い撃ちで魔界からモンスター出てきてそう。
「何とか出来そう?」
「そうね………さがってて。」
わたしを手で制してから、ソフィさんは背中の剣を右手と左手で、それぞれ抜く。鞘から抜かれたその剣は、右手に持った方は綺麗に輝く白銀の刀身で、中心に紫色のラインが入っている。左手に持ったのは、中心に緑色のラインがある以外は同じ剣。
そして、その2本を構えて言う。
「いいのかしら?私、こう見えても強いのよ?魔界のモンスターでも直ぐに倒しちゃうのよ。」
しかし、そんな言葉をモンスターが理解出来るはずもなく、『剣を構えた』…その行動を見て敵対してると判断したようで、ソフィさんに向かって飛びかかってきた。
「……遅い。」
そう呟き、ソフィさんは右側に飛び、モンスターを軽くかわす。ガルトルクは爪をたてていたことが災いして、地面にそれが深く刺さり、その場から動けずにいる。
「あらあら、なんにも考えないで飛びつくからそんなことになっちゃうのよ?」
ソフィさんはガルトルクに近づき、右手に持った剣の切っ先をガルトルクの顔に向けた。
「別にあなたに恨みはないけど……ごめんなさいね、ここで出会ってしまった以上、こうするしかないわ。恨むなら……あなたをこんな所に派遣した、魔王を恨む事ね。さようなら。」
そして、右手の剣を振り上げ、左手の剣を水平に振るった。ふたつの斬撃で切り裂かれたガルトルクは、血……はふきでずに、代わりに黒と紫色の混ざったような、見るからにヤバそうな色の霧が体から吹き出し、消滅した。
「………慣れてるの?」
モンスターを倒したソフィさんは、特になんともない様子で武器をしまっていた。
「そうね、そういう仕事だから。」
「そうなんだ………。」
最初見た時の印象は、服装とか髪型、喋り方とかでなんとなく『綺麗だけど可愛い感じの人』って印象だったけど、まるで変わった。それに加えて、まさに『かっこいい女の人』って感じだ。わたしが男だったら好きになる、とかじゃなくて女でも好きになるレベル。
「ふふ。」
すると、ソフィさんがわたしの顔を見ながら不意に笑った。
「え、なに?」
「すこし、さっきよりは元気そうね。何があったかはわからないけれど、せっかくそんなに素敵な顔なんだから、泣いていたら勿体ないわよ。素敵な笑顔の元に、素敵な未来も待っているの。ほら、もっと笑って?」
「………う」
顎に手を当てられて、顔を近づけられる。な……なんなのこの人………人を惹きつける天才……?
「で、でも………やっぱりダメかな……。わたしは……」
「…………」
「……詳しくは言えないんだけど、なんて言うか………大切な人と、離れ離れ……みたいな感じかな。別れちゃったんじゃなくて、もう二度と、永遠に……絶対に会えない。それも、かなりわたしのせいかもしれない………。」
「あっ………」
小さな声を漏らすと、ソフィさんは手を引き、わたしから少し離れた。
「それは………私もごめんなさい……。少し無神経だったかもしれないわね。」
悲しそうなかおでそう言うソフィさん。あ、すこし勘違いしてるかも………でも、詳しく言うのもなぁ………。
「ねえ、もし良かった……どんな人だったか、聞いてもいいかしら?」
ソフィさんはすこし姿勢を落とし、わたしに目線を合わせてくれる。
「うん……。きっと、今の、こんな落ち込んでるわたしを見たら……『アホ!そんなんルナらしくないわ!もっとやる気ださなあかんで!何泣いてんや!バカ!アホ!マヌケ!█████!!』とか言うと思う………」
「………ず、随分強烈な人ね………。」
「ごめん、ちょっと盛ったかも。でも、いい子だったよ。………うん、そうだね。そんなふうに言われないように、もう立ち直らないと。……よし!ソフィさん!ありがと!話し相手になってくれて気持ちもスッキリした気がする!もう平気!また頑張れる!」
「そう、なら良かったわ。」
一方的に喋っただけなのに、ソフィさんは文句も言わずに受け入れてくれた。
正確にはまだまだ心の中では割り切れてないし、整理もついてない。でも、こんな所でグズグズするのなんて、それこそマリーが1番望んでないはず。それなら、できることやらないとね。
ソフィさんは優しいなぁ。でも、確認しないと。
「ソフィさん、ちょっといい?」
これはきいておかないと。
「何かしら?」
「ソフィさん、何かしらの団体から追い出されたとか、家族から嫌われてるとか、他のものとのハーフだったりとか、異世界の出身だったりとか、歪んだ愛を向ける相手がいたりとかしない???」
「は?」
うわ、すごい顔されたよ。
「ない?」
「い、意味わからないわよ………ないに決まってるじゃない……」
「実は○○、みたいなのも無い?」
「少なくとも自覚してるものは無いけど………どういう意図?」
もう完全に呆れてる。
「こ、これは……!」
すごい、やばい!欠点なしの完璧人間!?初めてじゃん!強いしかっこいいし可愛いし綺麗だし優しいし欠点ないし………
「ソフィさんすごいなぁ。」
「あ、ありがとう?……やっぱり、ソフィさんってなんか引っかかるわね……どうしてさん付けなのかしら?」
「それはもう………言う必要ある?察してよ。」
さんを付ける意味。………デカいから………。たぶん、大きいと思ってたメルリアよりも少し大きいし、トップクラスだと思う。レヴィもまあまあアレだったけど、どうだろ。
確実なのは、アリス、スティア、わたし、ルルちゃん、セーラよりはでかい。マリーよりもデカいと思う。…………ノルンは………虚無。そういえば、イリスもなかなか悲しい感じだったけど、女神姉妹はそういう感じなのかな?まあとにかく、ソフィさん。
「な、なにかしら?……そんなに見つめて……」
「選ばれし者と持たざる者についての考察をしてた………。」
「???」
なんて、そんな話をしていたらいつの間にか曇ってきたいた。木漏れ日もなくなって、少しくらい。
「あらら……少し移動しましょ?この近くに私が泊まってる宿があるの。」
ソフィさんはわたしの手を握って提案してくれた。
「うん、いくいく。早く行こっ!」