今ならわかるよ大事なことは
「くっ……まさか……我が負けるとは……」
いつの間にか、元の場所。格好も戻っていていつも通り。そして、玉座の前でわたしが倒れている。
「わたしもまさかアレで勝てるとは思わなかった……」
「ガバガバやな。」
「多分初歩的なミスでしょ。」
登場まで散々焦らして、あんなにイキってたのにこれで終わり?
「ふん………そうかもしれないな。我が主である魔王ティアナに作られた反転世界の我とて、所詮はなんの力も持たぬ生まれてきたことが間違いで全く価値もないカス同然のルナに変わりはない……ならば、その本質は反転せず、同一だとすれば……こうなることは見えていたのかもしれんな。」
「え、気のせいかな……いますっっごいバカにされた気がする。」
「多分気のせいやろ。」
「最早我の肉体は保つことが出来ない……すぐに消滅するだろう。この世界を壊したいのなら……我が玉座に埋め込まれた紅い鏡を破壊するがいい。………貴様らにその覚悟があるのならな。そして忘れるな。我と貴様は常に表裏の存在。これで完全に消滅したと思わない事だな……」
そう言い残し、わたしの体は透明になっていき、そして消滅した。
「消えちゃった………わたし。」
玉座の方に歩いていき、さっきまでわたしがいたところに手を伸ばす。もちろん、そこにはなんの感覚もない。
「随分呆気なかったなぁ。せっかくルナと冒険出来ると思ってたのにちょっと残念や。」
「……勝ちは勝ちだよ!でも、独裁官ルナが消えたからって安心できないよ。ツインエースとセーラはまだ生きてる。だから……」
「……この世界を壊す、でしょ?」
わたしが消えたところで、この世界そのものや配下が残っていたら意味が無い。そもそもこの世界は、魔王が何かに使うために作ったはずだし、放置する訳には行かない。そんなことは理解してるよ、でも……
「ん、ウチか?」
振り返り、わたしの後ろに来ていたマリーの方を見て、目があう。
「マリー………」
「なんやねんそんな泣きそうな顔して。言うてもウチら出会ってからまだ1日程度しか経ってないんやで?なんでそんな長年連れ添った大切な親友みたいになってんねん。そんなふうに考えるから悲しくなるんや。ウチのことなんて偶然であった通り過がりの人程度に考えて、さくって壊してや。」
1日程度しか経ってない……なんか1ヶ月くらいの感覚はある。とにかく、それくらいもう既にわたしにとってはマリーは大切。アリスやスティアと同じで、大切な仲間。過ごした時間は関係ない。
「ルナっち……覚悟は出来てるって言ってたよね。変に時間をかけると余計辛くなるよ。」
ノルンも近づいてきて、肩に手をかけながら言う。そんなことはわかってる……けどさ。
「マリーは……嫌じゃないの?だって、自分も世界も全部消えてなくなるんだよ?」
「その質問に答える前にいっこ教えてや。…ウチのパパとかの記憶、これも嘘なんか?」
「それはあたしが教えてあげる。魔王がこの世界を作ったのはかなり最近。だから、この中で生まれたとかありえない。元の世界のマリリンを元に、それを反転して作った偽の記憶だよ。」
それを聞いたマリーは、嬉しそうに笑って言う。
「そっか、なら安心したわ。」
「何が?」
「全部嘘なんやろ?なら、ウチのパパが酷いことしたってのも嘘だし、ウチが小さい頃にみんなからされてたひどい仕打ちも嘘やん。それに、元の世界のウチを元に反転ってことは、本来のウチは親とも仲良くて、みんなから好かれてるんやろ?なら、嬉しいやん。なあ?」
「…………マリー。」
なんていい子。そんな考え方できるなんて、ますます………お別れしたくない。それに、この手で、わたしがこの世界をなんてこと出来ないよ…………。
「独裁官倒して平和な世界にして、旅する……それが叶わんのは残念やけど、ルナにはルナの世界でやることがあるんやろ?なら、こんな世界に固執せんで早く行かんとな。応援してるで。」
「そうだよ………ルナっち。この世界を壊さないとあたし達……ユイも、元の世界には帰れない。それに、時間が経てば経つほど空間にも歪みが出て、元の世界に戻った時にどこに出るかわからない。まあ多分、もう既にみんなバラバラの場所に出るけど………」
「そうだ…ユイは?ユイはどこで何してるんだろ?」
忘れちゃいないけど、忘れかけてた。
「きっと、ユイはあたしが近くにいて、出会う可能性に気がついた……というか、何かの作用でノートの効力が復活して、あそこで助けてもらわない未来を選択することが最善って見たんだと思う。多分ユイが今のあたしと出会ったら、殺してきただろうし、もしそれで神の力が失われたあたしが殺されたら、どうなってたかわかったもんじゃないし。お姉ちゃんのノート、割といい未来の選択をしてくれるよね。」
ノルンはやたらと饒舌でペラペラと喋る。少し早口なのは、早く壊せって言う気持ちの現れなのかも。
「そっか………」
「さ、ルナっち。さすがにそろそろやらないと。」
目の前にある玉座。確かに、そこには真っ赤な鏡が埋め込まれている。これを壊せば、全ては消えて、元通り………。
「ダメ……わたしは……」
「ったく、なにうじうじしてんねん。そんなの全然ルナらしくないわ。ルナならもっと勢いに身を任せて、ドカーン!といかなアカンやろっ!」
「えっ」
わたしが止めるまもなく、マリーは自分のハンマーで玉座諸共叩き壊した。激しい音が鳴り響き、鏡も粉々になる。
「これでええんやろ?」
マリーはハンマーを背負ってしれっと言う。
「なんで………」
「ルナが自分の手で世界を壊すのが嫌なら、ウチが自分で壊すしかないやろ。これならルナのせいにならんしな。」
そう喋るマリーの姿はもう既にゆがみ始めている。……マリーだけじゃない、世界全部。
「マリリンイケメン過ぎ!かっこいいよ!」
ノルンは相変わらず茶化すようなことしか言わない。
「マリー………ごめん。…………ありがと。」
視界が歪むのは、世界の歪みか、わたしの瞳の涙か………
「何泣いてんや!案外、世界なんて壊れないで全てが丸く収まって、ウチらもこっちで平和に暮らしてるかもしれんで?……せや、もし良かったら、元の世界のウチにもあってみてくれや。当然その時、ウチはルナのこと知らんけど、ええか?」
「うん……約束するよ!絶対マリーにまた逢いに行くよ!そしたらその時は……」
謝らないと。そう言い始める前に、世界が壊れて、わたしの意識も遠のいた。最後に見えたのは、歪む視界の中で微笑むマリー。
……………さよなら
ごめんね。