勇者パーティを追放されたけど、鏡の異世界で勇者になれました。 第1話 新しい旅立ち!ここから始まるわたしの物語!
「…………おお。」
気がつくと、さっきとまでとはまた違った感じの狭い部屋にいた。石で作られた、大きい火の灯った燭台がある部屋。でも、そんなことより……
「お、なんやこれ?ウチらみんな服装も変わってるやん。」
そういうマリーの格好は、さっきまでの綺麗な服とはまるで違う。ルルちゃんが来ていたような少し薄い青っぽい鎧を着てきて、背中には大きい剣の鞘がある。『パラディン』だもんね。
「マリリン似合ってる!」
ノルンの方を見ると、こっちも変わっている。賢者と言っても、こちらはメルリアとは全然違う服。短めの黒のワンピースに、宝石が着いたティアラを被っている。で、背中には長い杖。
「2人ともだいぶ変わったね。」
「あれ?ルナはぜんぜん変わってないやん。」
「ほんとだね、なんでかな。主人公だから?」
「ちょ、ノルンってば………」
そう、わたしは何故か全く同じ格好。変わったとすれば、背中の刀がなくなった代わりに、腰に短めの片手剣がある所かな。
「………ねえノルン、これなに?なんか数字が書いてある。」
持ち物を確認していると、腰に着いたポーチに変なカードが入っていた。どうやら、みんなそれぞれ1枚持ってるみたい。
「それがいまのあたし達の強さ。数字が高い方が強くて、モンスターとか倒すと上がるよ。ほら、例えば……これ、『攻撃性能』これ今5だけど、これが高いほどこの世界では力が強くなって、『魔法性能』これが高いと魔法が使える、『防御性能』これは受けるダメージがへる……かな?」
「ちゅうことは、これが高くなれば本来のウチらよりと強くなる可能性もあるんか?」
「あるよ、でも……そんなタダで強くなって、独裁官に勝てるとは思えない。どうせこの数字をいくら上げても簡単には勝てないよ。」
ノルンはカードを眺めながら言う。どうやら最初はみんな弱いみたい。
「でも、この世界ならルナっちも強くなれるし魔法も使える。だから、頑張ろ!」
「もちろん!勇者の名にかけて頑張るよ!」
「ウチも最高のパラディンになるで!!」
………と、部屋の外に出ようとすると出口と思われるドアの横になにか置いてあった。近くで見ると、それは箱。大きい箱で、なにか入っている。
「わざわざアイテム用意するとか………わなかもしれないけど、開ける?」
「うーん……」
「悩んでも意味ないわ!どうせ結局開けることになるんやこういうのは!」
そしてマリーは勢いよく箱を開ける。中を除くと、装備らしきものが入っている。
「お、使えそうかな………どれどれ。」
取り出してみると、まあまあ数がある。ノルンがそれらを手に取り、しばらくしてから言う。
「うわ……単なる嫌がらせか………」
「なに?」
「どうやらアイテムを手に取ってしばらくすると、その効果がわかるみたいなんだけど………全部ゴミ。使えないどころかマイナスだよ。」
「逆に気になるやん。どんなんなん?」
「じゃあまずはこれ。」
ノルンが見せてくれたのはふたつのボロボロの剣。
「これ、装備すると攻撃性能がマイナス10される。何もいい所なしの鉄くず。素手より弱いよ。次は……」
続いて取り出したのは、水着。ビキニタタイプ。水色のとピンクのが1つずつ。
「コレ見てよ、こんなもの着て戦うって発想がまず無いでしょ。これは装備すると『防御性能』がマイナス10。むしろよく10だけで済むよ……あとは………」
「ちょっと待ってや。」
話を続けようとするノルンを、マリーが遮る。
「どうしたのマリー?」
「それなんや?今の防御性能マイナスになる装備のやつ。」
「何って………水着でしょ?海とかで着るやつ。」
「………?人前で着るんか?嘘やろ、こんなんどう見てもパンツやん。ブラやん。下着やん。人前でこんなん着るとかアホやろ。ルナの世界では普通なんか?」
「え、うーん……普通だけど、いざそうやって言われるとなんだかなぁってかんじ。」
水着は水着だしなぁ………。ていうかそっか、マリーの中ではそういう概念も無いんだ………なんか、悲しい。
「マリリン、気になるのはわかるけど、後々。話が進まない。最後はこれ。」
ノルンの手にあるのはこれまたふたつある、綺麗な指輪。ダイヤモンド???
「見た目に騙されないでね。これは最悪。付けると外せなくなる上に、全部の能力マイナス20。なんにもならない所の話じゃないよ。ゴミより酷い。……一応持ってくけど、間違ってもつけちゃダメだよ、特にルナっち、いい?」
なんか念を押された。別に平気だし………
「これで終わりかな。この時点でわかるよね、勝たせる気ないって。ここから1歩出ればきっとたくさんの罠とモンスター……油断したら、本当に死んじゃうから気をつけて。」
ノルンは箱を蹴り捨てて、扉の前に立ってわたしに言う。そして、マリーはそれに対して力強く答える。
「安心してええで!ウチは絶対死なん!そいで2人のこともしっかり守るで!!ルナがこの世界諸戸もぶっ壊せるように、ウチはルナのこと守ったる!」
「マリー……ごめんね。でも………ありがとう。」
「ちょ、ルナよしてや。そういうのは全部終わってからや。ほな、行くで!待ってろや!独裁官ルナ!!今すぐあんたの城まで行ってるで!!」
そして、3人で一緒に扉を開く。どんな世界でも、どんな場所でも………マリーと一緒なら、きっと……!
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「あー……」
扉の向こう。その景色を見てつい声がでてしまう。
「結局そういうことかいな!ふざけやがって!」
マリーも怒ってる。
「……まったく、最初から1%も勝たせる気はないってことね。ゲームが成り立ってないよ。」
うん。その通り。まさか……
「スタート地点の目の前が独裁官の城とかずるいでしょ……わたし達、強くなる術ないじゃん。」
ノルンの説明だと、この世界のモンスターを倒すことでわたし達は強くなれる。でも、今のこの感じだと、恐らく1匹たりとも倒すことなくわたしの元へ乗り込むことになる。便利な道具もなく、あるのは謎のマイナス装備だけ。一応、初期装備の剣とかあるけど、見たところほぼお飾り。ノルンに至っては賢者なのに魔法ひとつも使えないみたいだし。
「え、ウチら詰んだ?」
「まあ、今のあたし達で勝てるわけないよね。向こうは最高レベルの強さだろうし………せめて、強い装備でもあればいいけど、それもないしね。」
そうだよ、ほんとせめてもう少しまともな装備が……………あれ、待って……。
「……………ねえ、ノルン。これさ……これって何が起きる?」
ふと思ったことがあり、ノルンにそれを伝えてみる。
「んん?それは………ルナっち、その着眼点は………もしかすると、ありかもしれない。」
「お、ルナなんか思いついたんか?ウチら詰んでないんか?」
「どうなんだろ………わたしもわかんない。けど、今できることってこれしかなくない?もう目の前が城で、脇道もないし。」
「そうだね、ほらどうかな?」
すると、ノルンはわたしに対してそれを試すように促してきた。それを試すために、一旦さっきの部屋に戻り、準備をして再びノルンの前に出る。
「………体的には変化なし。」
「うわ、ルナなんちゅう格好やねん……」
「………いや、多分これいけるよ。しかも数は2つ……ちょうどいい!」
どうやら、上手くいったみたい。
「はい、マリリンもこれ!恥ずかしがらないで!」
「ちょ、なんの意味があんねん………」
「ルナっちが見つけてくれた虫………多分これが、独裁官を倒す鍵になるからさ。」