手にしたもの失くしたもの全て
「貴様はこのふたりと共に行動をしていて、何ひとつとして疑問に思うことは無かったのか?」
わたしはわたしとノルンに刀を向けながらマリーに問いかける。
「………ない、って言ったら嘘やな………確かに、ウチと全然違う価値観だったり、見たことも聞いたことも無いものを知ってたり、2人だけで通じてるような気配とか、確かにあったわ。でもそれがなんなんや、別にこのふたりは元々知り合いで、遠くの出身ってだけやろ?別にそんなに変なことちゃうで。」
「そうやって真実から目を背け続けることで貴様はこれからも虚構の世界で生きていくということか。」
「あーもうなんなんや!だからはっきり言え言うてるやん!」
怒るマリーに対し、わたしは冷たい目を向けながらも、薄く笑いながら言う。
「ふっ……この世界はどこにも存在していない。そしてこの世界で生まれたものも全ては偽り………貴様も、貴様を虐げている者共も、何もかもが虚構に過ぎない。」
「な、何言ってるんや……?」
「マリリン……」
大丈夫かな………止めることも出来ないし、いまはただ見守るしかない。
「我と貴様の傍にいるルナ……姿かたち、声までも同じであるという事実が何よりの答えだ。この世界の創造主は我が主。魔界の鏡を触媒にして創られた反転世界。」
「………………」
「反転世界。多くの事象は真逆になる。故に、真なる世界ではゴミ同然の力しか持たない我は、この世界においては究極の覇者としてこの場に君臨する……。かつて勇者と共にあった愚者は、反転世界で魔王の配下であり、世界を統べる独裁官となった………そういう事だ。」
「なら、このルナは真の世界っちゅうどこから来たんか…?」
「生かしておくとこの先、我が主に対する驚異となる可能性が1%でもあった以上、生かしておく訳には行かない。我がこの世界に呼び込み、直接手を下す……はずだったが、予想外の介入もあったようだ。」
そう語るわたしは、ノルンの方見る。
「あたし?」
「………終焉の女神ノルン。我が主はその力を利用し、この世界の糧とした。その力は想像を超える強さを持ち、この世界をより完璧なものにした。その反動で思いもよらぬ異界の力も混ざってしまったが、それは気にすることではない。」
なんだろう、なんの話し…ユイが言ってたことと関係あるのかな………文字がどうとか。
「そして、力を奪い地下に幽閉した………が、貴様らがそれを解放した。力が無いとはいえ、女神は女神……厄介なことに変わりはない。貴様もまとめてここで潰してやろう……!」
「ちょ、ちょっと待ってや!なんや?ノルンはルナとはまた違う感じなんか?女神って何の話や?」
そして、わたしは立ち上がりこちらに向かって歩いてきながら言う。
「死にゆくものに教えることは無い。貴様が理解するべきことは一つだけ。己は作られた存在で、この偽りの反転世界で死ぬまで苦しんで生きるしかないだけだ。とは言っても、その命もここで終わりだ。」
「……なんやねん、それ。」
マリーは俯き、小さな声でそれだけ呟いた。
「そしてたとえ貴様らが我を倒したとしても……マリー、貴様に待っているのは逃れなれない破滅のみだ。我の命と共にのこの世界も消滅する……つまり、我と共に貴様ら偽りの存在も消滅する……救いなどないっ!」
追い打ちをかけるようにそう言い放ち、わたしは刀を振る。
「そんなら、ルナはそれ全部知ってて、この世界も壊すつもりでここまで来たんか……?ウチに言いにくそうにしてたことってそれなんか?」
「そ、それは………」
「ここまで来て何を隠す必要がある。我を倒し、この世界を壊しそして、神器を集めるための旅に戻る……それが目的だろう。そのためなら、この世界の人間の犠牲など厭わない……真なる世界の我はその覚悟がとうに出来ているはずだ。マリー、貴様の運命は最初から決まっていた……残念だったな。」
「マリリン!ルナっちはそんなつもりは…」
「ええんや、別にええで………」
マリーは下を向いてつぶやく…………そして、顔を上げてわたしを指さしながら大きな声を出す。
「あのなぁ!そんくらいのやっすい真実でウチがショック受けて自暴自棄になるとでも思ったんか!?甘い、ホイップクリームたっぷりショートケーキの100倍甘いわ!!あんま舐めんなや!この世界が偽物の反転世界?ウチらが存在しない?ルナがこの世界壊そうとしてる?ノルンが女神?だからなんや!関係なくウチはあんたはぶっ叩くだけや!えらそーに難しい言葉つかってでかいこと言えるのも今のうちや!ルナ、ノルン!行くで!!」
そしてマリーはハンマーを振りかざしてわたしに向かう。振り下ろされたそれに対し、わたしは右手で持った刀を差し出し、それ1本でハンマーを受け止めた。
「嘘やろ……!?」
マリーは弾かれるような形になり、こちら側に戻ってきた。
「我に勝ちたいなら最後の『ゲーム』に参加してもらおう。こことはさらに別の、我が作った仮想の世界へ入り込み、その世界の中で我を倒してみるがいい………!」
「なんでもこいや!どんなクソなゲームでも絶対勝ってやるわ!」
「マリリンどんどん口悪くなってる。」
ノルンが小声でつぶやく。
「まあそうなる気持ちはわかる……。」
……いや、わかるなんていうのはわたしの思い込みだ。だって、今のマリーの気持ちが想像出来るわけが無い。そんな真実をいきなり言われて、どんな気持ち………。
「さあ始めるぞ……ファイナルゲームだ。」
わたしが指を鳴らすと、いきなり目眩かまして立っていられなくなった。周りを見ると、ノルンとマリーもその場に座り込んでいた。そして、だんだん意識が………