そんなカードなんていらない
「あ…それなら」
セーラが何かを思い立ったようで、口を開いた瞬間、部屋の奥の扉が開き、声が聞こえてきた。
「いい加減待つのも飽きた……今すぐに我の眼前へ来るがいい。セーラ、貴様は退け。」
「あ…ルナ……」
セーラはそれだけ言い残し、水槽に潜って姿を消してしまった。そして、声も聞こえなくなり静寂だけが残る。
「なんや…?」
「大富豪は無し?」
「そうみたいだね。さすがに向こうも待ちくたびれちゃったのかな?まあラッキー!早く進もう!」
まあしても、ノルンに押されるようにして次の部屋の扉へと向かう。
「今の声……ルナと似てへん?」
「そ、そうかな………」
誤魔化しても、対面したらすぐバレるけど…………
「あ、そうだ……ねえマリリン。」
次の部屋へ向かう扉の手前、ノルンが言う。
「なんや?」
「あのさ……なんだろ、なんて言うか……この先、独裁官とご対面……で、戦うと思うんだけどさ、もしかしたら……あたしとルナっちにとっては大したことなくても、マリリンにとっては受け入れ難いことがあるかもしれない。……一応、ここの準備だけはしておいて。」
ああ………この世界のことだよね………。そう、こっちのわたしのことを見たら、マリーもなにかおかしいって気がつくだろうし、きっとこっちのわたしもその事実をマリーに告げてくるはず。その時に、マリーがそれに耐えられるか………
「えらい脅してくるな……ウチは平気や、何があっても絶対折れたりせんで?ま、心配してくれたのは嬉しいで!」
そしてマリーはハンマーを手に持ち、少し重そうに掲げて言う。
「さっさと行くで!この先にいる独裁官ぶっ倒して平和な世界にするんや!」
勇ましく踏み込んでいくマリー。その姿を見ていると、悲しくなってくる……だって、この先に待ってるのは……。
「ルナっち、行こう。」
ノルンに手を引かれる。
「うん、わかってる。」
―――――――――――――――――――
「お望み通り来てやったで!姿を見せろや独裁官ルナ!」
最深部と思われる部屋。いよいよ真っ暗で、隣にいるマリーとノルンの姿も見えない。罠とかないよね………。
「ふっ……自らの運命の行き着く果ても知らずにここまで来る蛮勇……それだけは認めてやろう。だが、貴様はここで真実を知り朽ち果てる………さあ刮目するがいい………我の姿を!」
そして、部屋の壁に取り付けられていた燭台にいっせいに青と赤の火が灯る。正方形の広くは無い部屋。その奥、若干の高台に設置された玉座に座るものの姿は……
「出たね………わたし……」
身体的特徴は完全に一致。服装も同じで、わたしのお気に入りに帽子も被ってて、刀も持っている。唯一違うのは、髪型。わたしはツインテールだけど、あっちはストレートヘア。それだけの違い。そのわたしが、玉座で人を見下すような目をして座っている。
「る、ルナ…?いやでも、ルナはウチの隣に……あ、でも名前はルナなんやっけ………????」
「ま、マリリン!落ち着いて!」
マリーは絵に書いたような焦り方をして、わたしとわたしを交互に見比べている。そんなマリーを見て、わたしをバカにするように言い放つ。
「終身独裁官ルナ………我が真名だ。そして貴様の横にいるマヌケなアホ面の女……そいつも間違いなく、我と同じ存在のルナ……この意味が貴様に理解できるか?」
「わからんわ!アホ!知らんわ!そうやって自分だけ知ってることで相手にマウントとるとかしょーもないで!とっとと言えやボケ!」
「いいね、いうねぇマリリン。」
ノルンは相変わらずマイペースで変なノリ。
「ふん……」
わたしは立ち上がり、刀をわたし達に向けて宣言する。
「いいだろう、全てを聞かせてやる。『真の世界の我』と『終焉の女神ノルン』の2人……そして哀れな虚構の運命に囚われた貴様……1人。3人で力を合わせていつもりだろうが、貴様は常に独りだということに気がついていなかったようだな……マリー。」
「だから!そうやって答えはぐらかして意味深な言い方が気に入らない言ってんや!はよ言えやボケ!」
「これより語るは世界の真実………そして、貴様の終わりを告げる福音となるだろう……!」
マリーとわたしはまるでこの場に二人しかいないように睨み合っている。
「ねえノルン」
気が付かれないように、小声で言う。
「なに?」
「なんで終わりを告げるのに福音なの?」
「…………しらないよ、それに今それ言う?」
「………ごめん。」