勝機をギュッと抱き寄せて
集中して………周りは気にしない。図形人間達がいくら気持ちの悪い音を発しようと、ツインエースがこちらを睨みつけていても、そしてついでにうるさく騒いで応援しているマリーとノルンも、気にしない。これは他でない、わたしが1人でやり遂げること、
顔を上げて、ダーツボードをまっすぐと見据える。距離は短いけど、感覚的には遠く、長く感じる。狙うは20のトリプルリング、ただ一つだけ。それ以外に刺されば、その瞬間敗北確定で、恐らく命も危ない。でもそのプレッシャーに負けてたらダメ。ノルンとマリーはあっさりと、すぐに決めてくれた。だったら、わたしがここで外す訳にはいかない。
「………ふぅ」
改めて、深呼吸。幸いなことに、制限時間はないみたいで、急かしても来ない。
「ルナ!焦らず自分のタイミングでええで!」
「……マリリン、さすがにちょっとうるさい。黙ろ?心の中で、静かに応援!」
「す、すまんな……」
ありがと、ノルン。応援は嬉しいけど、今だけは静かだと助かるよ。
………なかなか決心がつかない。どうしても、外して負けるビジョンばっかり思い浮かぶ。………そうだ!今まで、自分が勝ってきた瞬間をイメージして、その感覚で投げよう!
1番最近だと…スティアとの勝負?…いや、でもあれは………わたしの勝ちってよりかは、スティアが勝手に負けたって感じで、わたしが自分で勝ってないよね。
となると、その次……えーっと…うーん………ポーカー……は負けたなぁそういえば。思い返せば、あそこからわたしの旅始まったよね。つまり、敗北からわたしの旅始まったんだ………悲しい。
じゃあそれより前………なんかあるかな?シオン達といた時はモンスターと戦うことは沢山あったけど、別にわたしが勝ったって訳じゃないしなぁ。シオンとかメルリア達がトドメ刺してるわけだし。
じゃあもっと前。村にいた頃………村の子供たち、みんなと遊んでた頃…………うーん…………鬼ごっこもかくれんぼも、いつも鬼になって逃げられたり見つけられなかったりしてたなぁ……。
………あれ?もしかして…………わたし、人生においてなにかに勝利したことない?いやいや、そん馬鹿なことはっ!よく思い返して、ないわけないよ……………うー…………無いか!うん!
いやいや、それならむしろそれでいい!だって、今ここでわたしが20のトリプルリングに決めれば、人生で初めて自分の力で勝ち取った勝利、だよ!いいじゃん、こんな最悪の舞台で、人生初の勝利を決めて最高の気分でツインエースに勝利宣言!かっこいい!
「……よし、今度こそ行くよ!」
「いったれ!」
「いけいけ!」
よし!
「いけっ!!」
わたしの掛け声と共に、わたしの手から離れたダーツは、まっすぐ、まるで流星を思わせるかなような美しく、そして綺麗で勢いもよくダーツボードに向かって飛んでいく。うるさかった観客も、今この瞬間だけはさすがに黙り、その行く末を見守っている。
まるで勢いを落とさず、素直にわたしの描いた通りの軌道でダーツは飛んでいき、吸い寄せられるようにトリプルリングに向かっていく。さあ、お願い!!わたしの思い、刺さって!!
ちょっと短くて申し訳ないです。。