贋物の城
「はいっと到着!」
気がつけば、そこは薄暗い建物の中。
「声響くなぁ……」
なんの材質かは知らないけど、そんなに大きい声じゃなくても響いちゃう。バレちゃいそう。
「くらいなぁ……ウチ灯りとか持ってきてないで。」
どうやら、牢屋の時に持っていた灯りは、家に置いてきちゃったみたい。
「あたしもここ初めて来たけど、意外と狭いね?」
たしかに。薄暗いのに、今いるエントランスらしき場所は全体が見えるくらいの広さしかない。奥には階段があって、その先にやたらと大きい扉がある。
「とりあえず、あっち行く?」
「せやな、ここにいてもなんにもならん。せっかく色々無視していきなりここまで来れたんやし、進まんと損やわ。」
「気をつけてね。こっから先何があるか、あたしも予想できないし。」
「りょうかいやで〜」
マリーを先頭に、エントランスを抜けて扉の前まで行く。床とか壁にワナがあったりもせず、すんなりと扉の前までたどり着いた。
「………閉まっとるで。」
マリーは扉を押しながら言う。そりゃそうか。
「壊す訳には行かないよね。音がやばいし。」
「あたしのワープももう無理だし、さてじゃあどうする?」
「どないする………ん?」
「あれ?」
3人とも何もしてないのに、突然扉がゆっくりと開き出した。軋むような音を立てながら、ゆっくりと。
「なんやねん……」
「開けてくれたのかな………」
「そうだね、あたし達のことを正面から迎え入れるつもりなのかも。」
ってことはわたし達がワープしてきたこと、もう既にバレてるんだ。やばいね。
「でも、立ち止まる訳にも行かないよね。マリー、ノルン、行こっ!」
「あったりまえやろ!」
「そんなに熱くならなくてもいいのに〜。」
扉が開き、向こう側からあかりが差し込んできている。でも、臆することなく3人で中にも踏み込む。さあ待っててよ、わたし……!
―――――――――――――――
「え?」
踏み込んだ先の部屋、そこは……
「う、うわ気持ち悪っ!?なんやねんここ!?」
「襲ってくる……わけじゃないね。ここは……舞台?」
扉の先は、かなり広い部屋になっていて、わたしがたっている場所は少し高くなっていて、左右と上側にカーテンが着いている。たしかに、舞台上って感じ。でも、問題なのはそこじゃない。ここが舞台と思った理由はもう1つ。観客が沢山いる。客席は満席、どころか後方には立ち見まで。でもそのお客さんはみんな、○とか△とか□とか×とか図形人間。襲ってくる様子はなく、それこそ、舞台の開演をまつお客さんのように、みんな動かず静かに待っている。
そして、さらに奥には…………………奥には………………奥にいるお客さんの顔は………………………
「ねえマリー、奥の人たち」
「………あれ、絶対作る方もめんどなってテキトーに作ったやろ。」
奥の方にいるお客さんの顔、『ڡ』とか『๑』とか『ง』みたいなのばっかり。
「まあいいや………それより、何ここ?素通りしちゃっていいのかな?」
舞台の向こう側にも大きい扉があり、少し開いている。このまま舞台を通過して向こうに行けば、さらに奥に行けそうだけど……。
「行けるんならどんどんいかなアカンで!いつ何が起きるかわかったもんちゃうわ。」
マリーは先陣を切って舞台の上を歩き出す。わたしもそれに続き、大量のお客さんの前を通過していく。そして、ちょうど舞台の真ん中に差し掛かった時、不意に声が聞こえてきた。
「お集まりの皆様方。大変ながらなくお待たせ致しました。今宵の素敵なショーの開幕でございます。」
その声で、お客さんがざわつき出す。あの声とも言えないような、奇妙な音で。そして、部屋が暗くなる。
「誰や!?」
「い、今の声は……」
間違いない、アリス……怪盗ツインエースだ。
「今宵のショーのゲストは豪華に3名。1人目……愚かにもわたくしのゲームから逃げた異界の旅人ルナ」
その声に合わせ、わたしにだけスポットライトがあたる。ゲームから逃げた………むしろ、そっちが勝手に追い出したんじゃないのかな。ルール説明不足だったと思うよ。
「2人目、虚構に囚われ虐げられ、それでもなお人を信じる哀れな少女……マリー」
続いて、マリーにもスポットライト。
「……虚構?何言ってんやこいつ?」
「そして最後。………説明不要の大罪人。全てを奪い破壊する虚無の神、ノルン………」
当然、ノルンにもスポットライト。
「いやー、ちょっと説明盛りすぎだよ?あたしはただの魔法使い!」
あくまでもノルンは、自分が女神ということは隠すみたい。
「そしてもちろん……ショーの進行、そして主役はこのわたくし……怪盗ツインエース!さあはじめましょうか……」
ツインエースは天井?からわたしたちの前に降りてきて、それに合わせて部屋も明るくなる。
「今宵のショー……『断罪のパーフェクトゲーム』!」
その声に合わせて、会場は大いに盛り上がる。不快な音が響く。
……ゲーム……ツインエースらしい。
「さて」
ツインエースはこちらを向いて言う。
「残念ですわ。あなた方なら運命にたて付き、自らの力だけで真実にたどり着く……そう信じておりました。」
「なんやなんや?ルナと知り合いなんか?あんた独裁官の仲間やろ?」
「ツインエース……わたし、あなたのことよくわかんないよ。言葉が全部嘘にしか聞こえない。」
結局、あのお屋敷でわたしとユイに行ったことも、本気か分からないし。
「ええ、そうですわね。わたくしの紡ぐ言葉は全て虚構。もしかしたら、最初からこうするつもりであの時、『ゲーム』に挑戦させた……そういうことだって有り得ましてよ。でも、最早そんなことは関係ないのです。あなたはわたくしの希望にそぐわない、さらに言えばそんなことではルナちゃんを倒すことなんて絶対不可能。それなら、ここで………殺すまでですわ。」
「………わかんない。」
何言ってるか全然わかんない。言ってることに一貫性がないし、なんかおかしい。
「ルナっち!まともに話聞いても無駄だよ!ツインエース……アリスは……!」
「ノルン……!あなたはまたそうやってわたくしに……!」
な、なになに?なんかこの2人関係あるの?もう全然何もわかんない!
「なあ、ウチ置いてきぼりで勝手に話進めんのやめてくれへん?ウチも混ぜてや。」
睨み合うノルンとツインエースの間にマリーがわって入る。
「……そうですね。もう全ては終わること。終局を飾るに相応しいゲームで、全てを終わらせる……それだけでしてよ。さあ、これで戦いましょう……!」
ツインエースはそう言いながら、指を鳴らした。