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夢の中をさまよい見つけた

 嬉しそうなマリーを見てると罪悪感がすごくて、何も言えない。だから、『お腹すいたから、その辺の林に食べられそうな木の実とかないか探してくるね』なんて適当なことを言って、ノルンと二人で一旦マリーの傍から離れた。マリーはその間に、自分の住んでいる場所の掃除をしておいてくれるみたい。


「ねえルナっち、わかってると思うけどさ」


 林にに向かう途中、ノルンが言う。


「ん?」


「独裁官を倒す……それってつまり、この世界を壊すことになるんだよ。」


「うん、いいんじゃないの?だって独裁官倒してこの世界だけそのままにしておいたら、魔王に利用されるんでしょ?」


「それはいいんだけど、そうじゃなくて。」


「なに?」


「だってさ、この世界無くなっちゃうんだよ?マリリン達は?みんな死んじゃうのと同じだよ?それってじゃあ、あたしがやろうとしてることと同じだよ?マリリンと旅できないどころか、結果的にいえばルナっちが自らの手でマリリンを殺してる……そう言っても、嘘じゃない。」


「…………」


「もちろん、それを悪いことなんて言うつもりは無いよ。だって、そうしないと独裁官ルナは何をするか分からないし、いずれこの世界を使って、魔王もなにかとんでもないことをすると思う。そしたらあたしも困るから、この世界を壊すことは止めないけど。でも、こっちの世界の人は元の世界には連れて行けない。いいの?」


「………………………………………わかってる。でも………わたしは壊す。それしか出来ないもん。マリー達は…………うん、そうだね。こんなのわたしのエゴだけど、夢みたいなもんだよ。一晩限りの夢の中で、偶然であった女の子。だから朝が来たらそれは全部消えちゃう………そういうこと。マリーの悲しい記憶も、辛い今も、全部全部、鏡みたいにバラバラ粉々になって、無くなっちゃう。きっと、それでいいんだよ…………」


 でも、いつか……元の世界のマリーに合って、謝りたい。もちろんその時は、マリーは別人だからわたしのことなんて知らないだろうし、こっちと逆……だから、きっと家族とも周りの人とも仲良く暮らしているはず。でも、わたしは…それもエゴだけど、マリーに謝りたい。


 わたしがそう言い終わると、ノルンは少し微笑んで答える。


「そっかそっか。ちゃんと心にそう決めてるなら、平気だよ!まあそうだよね、マリリン達は本来存在しないんだし、死ぬとか消えるって表現も少し違うかな。夢はさめて全ては元に戻る……それだけだよね。それに、ルナっちがそんな気持ちになるのも、全部こんな世界を作った魔王、それから支配している独裁官のせいだよ……だから、怒りや不満はそっちに向ければいい!」


 話しながら歩いてるうちに、いつの間にか林の中に辿り着いていた。辺りを見ると……


「うわ……全然ダメじゃん………」


「自然が完全に死んでるよ。」


 木は沢山生えてるけど、みんな枯れてるか、理由は不明だけど葉っぱが黒く変色して腐ってるかのどっちか。とても何か食べられそうなものがあるとは思えないけど、マリーはそんなふうな感じは出してなかったから、探せばあるのかな?


「うーん…………なにもないなぁ………」


 木や地面を探しても何も無い。虫とかの生き物も何もいない。土地そのものが死んでる、そんな感じ?


「これじゃあ何も無いよ。他のとこ行ってみる?もっと奥とか」


「ん、そうだね。さすがに何も見つけないで帰るのもアレだし、もう少し……………………」


 先に進もうとして、林の奥の方に目を向けると、何かいた。


「おぉ〜………モンスターかな?」


「うーん…………?」


 はっきりとは見えないけど、かなりでかい。でかいんだけど、見た目は蟹そのもので、果たして本当に凶暴なのか、モンスターなのか分からない。普通の、ただ単に大きいだけの蟹かもしれないし。


「……か、帰ろっか。」


「そうだね、帰ろっか。」


 触らぬ神に祟りなし、帰ろうとして歩き出した瞬間、その蟹は突如ハサミを激しく揺らして、こちらに向かって()()()()向かってきた。


「うわ!?蟹のクセに真っ直ぐ歩いてきた!!」


「ルナっち!危ないよ!横に避けて!」


「わっ!」


 間一髪。ノルンに突き飛ばされて、なんとか蟹の突進のルートから外れて地面に倒れこむ。どうやら、あの蟹は真っ直ぐにしか歩けないみたい。…………反転世界だから??


「………うわ、やなところに陣とってるよ……。」


 大きい蟹は、林から外に繋がる道の真ん中に居座り、ハサミを振り回している。


「もしかしたら、あの蟹のナワバリだったのかな?あたしとルナっちが勝手に入ったから、怒ってるかも。」


「え、どうしよ?」


「んー……ルナっちのその細い刀身の武器じゃあの甲殻は破れない……ってそもそもルナっちはそれ使えないか。で、あたしも今は神様の力はほとんど無くなってるから、戦闘はなーんにも出来ない。ワープで帰るって手段もあるけど、その力も無限じゃないし、こんな所で使いたくないよ。」


 隠れて蟹を見ながらそう言うノルンは、もう諦めてるようにも見える。自力で手段を考えるつもりはなさそう。


「………蟹相手にこんなんじゃ、独裁官……こっちの世界のわたしのことなんて倒せるわけない気が………」


 と、その時。蟹の背後からマリーがハンマーを構えて飛び出てきた。


「っしゃあ!ええの見つけたわ!こんなにでかけりゃめちゃくちゃ食えるで!」


 そして、ハンマーを蟹の頭部(頭で合ってるのかな?カニ味噌が入ってるところ。甲羅?)に振り下ろした。ぶつかる瞬間、まるで金属どうしがぶつかるようなすごい音がして、蟹の甲殻が砕けて、()()が少し飛びちりそのままその場に倒れた。…………よく見ると、足とか少し動いてるけど、多分もう死んだ……はず。


 ノルンと一緒にマリーの方に行くと、向こうも気が付き声をかけてくれた。


「お、なんやおったんか。ほら、見てみ!アホみたいにでかい蟹やで!足の1本だけでも沢山食うとこあるで!2人のこと迎えに行こうと思ってたこっち来てみたら思わぬ収穫や!」


 たしかに、近くで見ると思ってたより太い。足一本で普通のカニの全部の足合わせた量より食べるとこ多そう。味はどうなんだろ?


「で、マリリンこれどうやって持って帰るの?」


「そんなの決まってんやろ。ウチがこっち引っ張るから、ルナとノルンはそっち押してな。」


「荷台も何もなしで人力………」


 まあ、断る訳にも行かないし手伝うけど………


―――――――――――――


「………うーん」


 とりあえず、蟹をもってマリーの家まで帰ってきた。めちゃくちゃ引きずったから汚くなってる。


 マリーの家は言ってたとおり、ボロボロで八割くらい屋根も壊れてて実際に住める面積はめちゃくちゃ狭い。みんなのこと助けてあげて、危険を省みず独裁官に立ち向かおうとしている女の子に対する仕打ちがこれなの……?


 で、蟹は大きいから一旦外に置いておいて、足だけ数本もぎ取って茹でて、家の中で3人一緒に食べてるわけだけど…


「蟹……まあ、蟹だけど………」


「ん、大きいから美味しいわけじゃないもんね。」


 ノルンもわたしと同じこと思ってたみたいで、はっきりと言った。


「せやな〜なんか微妙や。水分多くてグチュグチュしとるし、足の中にも殻がたくさん生えてて食べにくいし、思ってたよりスカスカや。こんな大きい蟹初めて見たから期待しとったけど……」


「何より、泥臭いし………」


「よく考えたら、あんな腐った林にいる蟹だもんね〜。土に潜ったりもしてそうだし。」


「まあ、ウチからすれば食べられるものってだけで嬉しいわ。ルナ達はもっとええもん沢山食べてるから物足りんかもな?」


「そ、そんなことないよ!」


 絶対、マリーにそんなつもりは無いってわかるけど、なんか嫌味っぽく聞こえてドキッとする。


「あたしも平気だよ。それより、独裁官。倒すんでしょ?」


 ノルンは空っぽになった蟹の足を投げ捨てて、マリーに問いかけた。


「あったりまえやろ。あいつがいる限り、ウチらに明るい明日は来ないんや。……とは言っても、どうしたもんか。あの独裁官がいる場所は厳重な警備に囲まれた城なんや。どうやって内部に潜り込むか……」


「あ、それなら平気。お城の中……入口くらいの所までならあたしの力でワープできるよ。それより奥は危険を覚悟して自力で行かないとだけど。」


「凄い!さすがしゅうえ…痛い!……さすが魔法使い! 」


 殴られた。


「なるほどなぁ……うーん……でもなぁ」


 マリーは何故か微妙に嬉しくなさそう。


「ん、マリリン……なんか不満?ワープで行くのはダメ?」


「ちゃうで。別にええんや、ええんやけど……なんか、いきなり道中すっ飛ばして敵の居城の中まで行くとか、なんかそれじゃあまるでもうすぐ終わるみたいやん。打ち切りやんそんなもん。本来引っかかるはずの罠とか、戦うはずの敵無視してるんやろ?」


「うわ」


「へーきへーき。まだまだ終わんないから。ほら、そんな美味しくない蟹なんてほっといて、行こうよ。」


 ノルンはわたし達の手を握る。………ベトベトしてる。


「ってもう行くの!?」


「あかんて!そないハイペースじゃホンマに終わってまうで!?」


「ハイペースどころか、遅すぎるくらいだと思うけどね。」


 そして、ノルンはわたしの意見は無視してワープを始めた。

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