惹かれあった光あった
「ねえ、なんで世界を壊すの?」
「おー、ストレートな質問。」
ノルンは別に嫌がりもせず、答える。
「『なんで』、そう聞かれたら答えはひとつ。『あたしはそのためにいるから』。お姉ちゃんから聞いてるでしょ、あたしの産まれた経緯。人がそういうことばっかりお願いするから、そうなった。それだけだよ。ルナっち、あなたもそういうこと無くはないでしょ?あんなやつ居なくなれ、あいつは大嫌いだ、痛い目にあえ、みんなも嫌な思いしろ……そういう感情。」
「え、ないけど。」
「え、いやいや。あるでしょ。だってあたし対してもムカついたりしたでしょ?何より、自分のことを追い出した勇者に対してとか、ないの?」
ノルンは体を乗り出して、わたしを問いつめる。そんなこと言われても………
「ないけど………。『ムカつく』と『居なくなれ』の感情はイコールじゃないと思うし、シオンに関しては………うーん………多分わたしのせいだし………」
「ルナっちはちょっと優しすぎるんだよ。いい人過ぎる。そんなんじゃ、いつか絶対後悔するよ。もっと思い切って、人に対しての怒りを見せてかないと。」
「いや、わたしだって怒る時は怒るよ。夜中に起こされたりしたらムカつくし。」
「そんなちっちゃなネガティブパワーじゃあたしの力にならないよ。で、話戻すけど、そうやって悪い感情が集まって出来たのがあたし。だからあたしは理屈とか意味とかなく、世界を壊すよ。そういう祈りで生まれちゃったから、それがあたしの唯一の存在意義。」
「あ、じゃあノルンを信仰してる人が世界から消えたらノルンも消える?」
「そりゃそうだけど、ルナっち……考え方がバイオレンスすぎる………。終焉の神もビックリだよ。」
ノルンは呆れた様子でそう言った。
………ん?あれ、よく考えたら………
「ねえ、実際問題……ノルンが世界諸共壊して、ノルンを信仰する人もみんなも死んだらどうなるの?」
「…………さあ?あたしが最後に消えて、本当に誰も何も無くなって、かつて世界だったものは全て消え去って、完璧な終幕?」
「いや、知らないけど………」
「待たせてごめんなぁ〜話長くてなかなか抜け出せんかったわ。」
話が落ち着いたところで、ちょうどマリーが帰ってきた。
「ん、おかえり。」
「マリリンさ、なんの話ししてたの?やっぱり、みんなから頼りにされてるんでしょ?お礼とか?」
「そりゃあだって、人助けだもんね。わたしとノルンもマリーのおかげで助かったし、みんなも感謝してるでしょ。」
でも、マリーは下を向いて元気なく言う。
「ちゃうちゃう。みーんな揃いも揃ってウチには文句しか言わんわ。感謝なんてほとんどされたことないで。だからルナとノルンは珍しいんや。まあ、外から来た人っぽいし、ウチのことも知らんから当然やな。」
「え?」
「おっと、これはワケあり……あたしの本能が告げてるよ、これはそういう話だって。 」
………確かに、少し思った。周りにいる人たち、遠巻きにこっちを見てはいるけど、話しかけたり近くに来たりはしない。さっきの人たちも、いい雰囲気は感じなかったし、何かありそう。
「ま、隠すことでもないし話したるわ。場所…ここでええか。」
マリーも近くの椅子?に座り、話し出す。
「ウチな、この街の中で生まれたんや。もう随分前からあるせいで、そういう人も少なくないんや。だからウチ、外の世界とか知らんのや。」
……でもそれも、虚構なんだよね。そんな昔から、あるわけない。そういう記憶にされてるだけ、こっちのスティアが言ってた。
「でな、ウチのママはウチ産んですぐ死んでもうたんや。パパは生きとったんやけど………そのパパが癖の強い人でな。最初はちょっとした変わり者ってだけで、別に嫌われたりもしてなかったし、ウチもみんなとは仲良しやったんや。でもな、パパ少しずつおかしくなってもうたんや。」
「ふむふむ」
「『俺は独裁官を倒してみんなを解放する』なんて言って、あちこちからガラクタ集めだして、町中に放置したり、人のもの盗ってそのガラクタに混ぜて捨てたり、使えもしない魔法を使えるなんて言い張って変なことして大怪我したり、いきなりブチ切れたり、なんかもう色々おかしかったんや。でも、みんな優しいから、そんなパパのことも気遣ってくれたんやわ。でも、さすがにあれは許されへんかった。」
マリーは悔しそうに続ける。
「ウチが止められなかったもの悪いんや……!パパはどっかに出かけたと思ったら、当時みんなが住んでいた場所に独裁官の部下の兵士たちを連れてきたんや。どない話着いてたかは知らんけど『約束の通りです』なんて兵士たちに言ってたんや。で、そのあとはそのまま多くの人たちが連れてかれたり、命を奪われた。………あの丸とか三角の奴らにも、その時の人たちも混ざってるはずや。」
「どうしてマリリンのパパはそんなことを?」
「知らんわ。もしかしてら兵士たちに唆されて、自分だけは助けてもらうとか何とか言ってたんかもしれんけど、ウチの目の前で殺されたわ。で、兵士たちは帰ってたっけど、残された人達はみんな、パパの娘ってだけでウチのこと敵扱いや。何しても文句しか言わんし、住む場所も食べ物もまともに用意してくれへんから、自分で歩き回って探してるわ。このハンマーはパパが集めてたガラクタの中にあった唯一まともなもの、この服はそのあとしばらくボロボロの家で一緒に住んでた、女神みたいな人に貰ったんや。」
チラッとノルンを見ると、首をふっている。………じゃあイリス?いや、でもそんなわけないよね。じゃあこの女神ってのは、比喩?
「ま、そんなわけでウチはみんながまた仲良くしてくれたら嬉しいなって気持ちだけで、人助けもするし、喋り方も変えてみたりしたんや。ま、結果は見てのとおり、なーんにも変わってないけどな。それどころか、日を追う事に酷くなってる気もするわ。今だって、わざわざ呼び付けたと思ったら……」
「……………」
そんな話し全部嘘だよ。実在していない。だって、そんな昔からこの世界ないはずだし、女神ってのもよく分からない。全部、作られた嘘の記憶と、それに合わせた物があるだけだよ。そんな虚構の記憶に苦しめられて、人々から虐げられてるマリー……しかも、その存在自体も虚構だなんて………。
「あ、せや!いいこと考えたで!」
「なに?」
「ルナ旅しとるんやろ?」
マリーは笑顔で言う。
「う、うん。」
嘘じゃないけど、真実とも言えない。
「なら、ここの独裁官ぶっ倒したら一緒に旅してもええか!?」
「……う、うん!」
ちがう
「ホンマに!?ウチ、外の世界とか知らんし行ってみたかったんや!どうせここにいてもみんな冷たいし、だったらいっそ旅した方が楽しいやろ!」
「そうだね!旅、楽しいよ。」
そうじゃなくて
「せやろ!楽しみやわぁ。それなら尚更、早いとこ独裁官なんとかせえへんとな!旅のこと考えたらもっと頑張れるで!」
楽しそうに、嬉しそうに、満面の笑みのマリー
「うん!わたしもマリーと旅してみたいし!」
ここで言うべきことはそんなことじゃない
「……いいの?」
喜んでいるマリーを横目に、ノルンがきいてくる。
「………よくないって、そんなのわかってるよ」
「ルナっちも、そういう思考はちゃんとできるんだね。」
「だって、言えるわけないよ」
『ここは鏡の世界で、マリーも作られた虚構の存在だから、わたしと一緒の世界を旅することは不可能』…言えるわけないじゃんそんなこと!
「ん、どないしたん?2人ともそんな微妙な顔して……はっ!まさか……実はウチが同行するの嫌なんか!?」
「ち、違うよ!どうやって独裁官倒そっかなって考えてたの。」
「せやな!ウチも一緒に考えるで!」
………ごめん。