終焉を迎える始まり
「なんて、意地悪してる場合でもないよね!ほら、こっち来て!」
「わっ」
ノルンはわたしの手を引いて元いた部屋……『時空間から切り離された虚空』に戻る。ていうか、これの説明されてないじゃん!
「なんや、そんなに慌てて走って、どないしたん?」
部屋で待っていたマリーは、当然状況を知らないから、特に慌てている様子もない。
「説明はあとだよ!ルナっち!マリリン!あたしの手握って!」
「……………んあぁ、ウチのことか?」
「早くっ!」
「ホイ、これでええか?」
マリーが左手、わたしが右手を掴む。部屋の外を見ると、顔が✕と◻️の人間が階段をおりてきていた。
「き、来ちゃったけど!?」
「うわ、でよった!こんな行き止まりで看守たちに襲われたらめんどいで……なんか方法あるんか?」
「平気!ほら、行くよ!…………やぁっ!!」
―――――――――――――――――――
「はい、大成功!」
ノルンの掛け声を聞いた次の瞬間。何故かわたし達3人は地下牢ではなく、外にいた。夜はあけていたみたいで、曇り空の向こうに少し太陽を感じる。
「………ここは………」
「あれ、なんでウチらこんなところに………ってここ、ウチらの住んでる場所やん。ほら、ルナに言ったやろ?助けた人とか、捕まってない人達が固まって住んでる場所。このへん一帯がそれや。」
「あぁ……なるほど」
『真実を知った世界』。いまのわたしの目に写っているのはそれ。最初に見たようなオシャレ世界なんて何処吹く風。ここに広がる世界は正しく『街そのものが監獄』。
開けた場所に、廃屋同然のボロボロの建物がいくつもある。中には屋根すらまともに着いていないものまで。そして、まばらに目につく人達もまた、怪我をしていたり、座り込んでいたり、まるで元気はない。………見たくもないけど、もっと奥に目を向けると、この街の人間の行く末らしきものまで。
「ここが……」
「せや、ここで暮らす。暮らすしかないんや。食べ物もまともにないから、畑作って育ててはいるんやけど、ほらみてみ。こんな腐った土ばっかりや。まともに育つわけがないわ。育っても、極わずかな量をわけなあかんしな。それでもみんな、文句も言わずに頑張ってるんや。いつか絶対、あの独裁官をぶっ倒すやつが現れて、全ては過去になるってな。」
「…………そっか。それと………気になったんだけど、マリーはどうしてそんな格好してて、ハンマーなんて持ってるの?みんな、服もボロボロなのに、マリーは綺麗だし武器まで………」
「あー、まだ話してなかったな。でも、ちょっと待ってや。ウチの気になることもあるんや。………あんた、何もんなん?」
ここに来てマリーはやっとノルンに話を振る。
「おお、あたしこのまま無視され続けるかと思ったよ。」
「無視できるわけないやろ。あんたの力やろ、ここに来れたの?なんや、ワープでも使えるんか?」
「うん、そんな感じ。」
「あのね、ノルンは終え」
「バカ!!」
「いたっぁ!?な、なに!?」
本気で殴られた。頭。なんで??
「お、なんや喧嘩か?」
「あのね…」
ノルンはわたしにだけ聴こえるように耳元で言う。
「マリリンはこっちの世界で生まれた虚構の存在なんだよ。本来の世界の存在である終焉の女神の話とか、していいわけないでしょ。混乱招くし、ルナっちが1番警戒してた『あなたは作られた存在ですよ』っていうのにも繋がっちゃうよ。」
「そ、そっか……そうだよね。ノルンが終焉のめ」
「だから!!わざとなの!?」
「ごめんて」
「さっきから何しとるんや?」
「き、気にしなくていいよ……」
「そうそう!で、あたしのことね。名前はノルンだよ。あたし実は『大魔法使い』なんだよ。すごい強い力を持ってて、その力を恐れた独裁官に捕まったの。さっきのワープもあたしのすごい魔法のおかげってこと。だから独裁官はあたしをわざわざ『時空間から切り離された虚空』なんていう大層な場所に封じた。あの場所、マリリンがやったみたいに外から無理やり壊さないと、絶対外に出られないし、時間も止まったまま。」
ノルンは全く嘘のことを、あたかも本当かのようにスラスラと喋っていく。
「それでね、あなた達が来てくれなかったあたしずっとあのままだったわけ。時空間から切り離された虚空だから、死ぬことも出来ないし………ね。あくまでもあたしは普通の人間なのに。」
「結構えぐいことされてたんやな……」
普通の人間………まあいいや。
「で、結局ノルンとルナは知り合いなんか?」
「あ、えっと………」
「んー、あたしは覚えてたんだけど、ルナっち忘れてたみたい。まあ、あたしは魔法使いだから記憶力も普通の人よりいいからね。別に忘れてても怒んないよ。」
「あ、ありがとう……?」
よくもまあ、そんな嘘をスラスラと。でも、マリーは納得した様子で頷いている。これでいいんだ…………。
すると、向こうの方の家から声が聞こえてきた。
「おーい、マリーか?戻ってきてたんなら、こっち来てくれ。」
声のするほうを見ると、数人の大人の人達がマリーを呼んでいた。
「あー……すまんな、ちょっと行ってくるで。すぐ戻るから、その辺の椅子でも座っててな。ほな行ってくるわ。」
マリーは走って呼んでいた人達の方へ向かっていった。周りを見ると、椅子………椅子?……とにかく、座れそうな何かがいくつかあった。
とりあえず、ノルンと向かい合って座る。
「うーん………」
「なに?どうしたの?」
「………ユイのことは知ってるの?」
「ユイちゃん、知ってるよ。お姉ちゃんに頼まれて、あたしを殺そうとしてる子だよね。まあもしこの場にいても、殺せないよ。」
「どうして?」
「だって、ここから脱出するにはあたしの力も必要だし。殺すなら、その後でしょ。ま、無理だろうけどね。」
「でも、いつかは………」
わたし自身はノルンに対してなんとも思わないけど、でも、本当に世界を壊す気なら…
「魔王がいる以上あたしも世界を壊すのは無理かなぁ。だからまずは一緒に魔王倒そうよ!で、そしたら、その後で改めてあたしとみんなは対立して、ぶつかり合って、戦う。それでいいでしょ?まあ、勝てないだろうけど。」
「いいのかな………」
魔王を放置すれば世界は闇に包まれるけど、崩壊はしない。魔王を倒すと、世界は闇に包まれないけど、近いうちに世界が壊される…………詰んでるけど…………。