崇め讃えて祀りあげ
第一部の所にあるメモも少しだけ更新しました。
「さて……ちなみに、あたし誰だと思う?」
階段の方まで来て、女の子は楽しそうにきいてくる。
「え………えっと、わたしを知ってるなら……元の世界にいた人?でも、初対面だし………わかんない!」
「あったことなくても相手のことを知り得ることが可能な存在、なおかつルナっちのことを知ってる可能性がある……いるんだよ、そんな存在も。」
「うわ、変な呼び方された。」
いや、それはそうとして全く心当たりないけど。ホントに誰?この子。
「ヒント、あたしの双子のお姉ちゃんとルナっちは知り合いだよ。」
「双子……お姉ちゃん………今まで会った人で妹がいた人は………」
どっかで誰かから聞いたような………だいぶあとから生まれたけど双子、その理由は時間の感覚が違うから、その本人たちにとっては些細な誤差でしかなくて…………
「あぁ!女神イリス!!の双子の妹!?じゃあまさか……!」
「お、ルナっちでもさすがにわかったかな。そうだよ、あたしのお姉ちゃんは始まりの女神イリス。で、あたしは……みんなからは終焉の女神だとかなんだとか呼ばれて崇められている神様、ノルンだよ!お姉ちゃんも言ってたでしょ?あたしのこと『終焉の女神』って。」
言ってた。正確には、イリスに見せられた記憶の映像の中で、イリスがユイにそう言っていた。確か、イリスと同じ、複数の世界の願いから生まれた存在。でもそれはイリスと対極で、『自分や他人の死や不幸、世界の終わり』の願い。
「え、えっと……なんというか………」
「あ、もしかしてルナっちビビってる?へーきへーき。別に何も、自由の身になったから今すぐ世界を無にしたりなんてしない………ていうか、出来ない。」
ノルンは笑いながら言う。その顔を見ていると、とてもこの子が終焉の女神だとは……
「あ、そうなの」
「うん、今は力が足りないし。そもそも、こっちの世界じゃあ誰もあたしのこと知らない。信仰や認知がないってことは、このままじゃあたしが消えちゃうよ。だから何としても、この世界から脱出しないとだよ。」
「ていうか、なんで終焉の女神ともあろう存在がこんな場所に捕まってたの………」
「なんでだと思う?」
「……質問を質問で返すのは良くない癖だと思うよ?」
「わ、ルナっちのくせにまとも。」
こういう所も、やっぱりただの子供にしか見えないよ。ていうか、わたしのクセにって……。
「じゃあ教えるよ。独裁官……反転世界のルナ………じゃなくて、それを作った大元の存在、魔王に捕まった。」
「魔王……」
「本来、あたしはお姉ちゃんと同じで複数の世界で女神として信仰されてる変な存在で、世界に対して直接大きな干渉は出来ないの。だからあたしは基本的には眺めるだけ、たまに嫌いな人とか嫌な人に対してちょっとしたイタズラはしてたけど、そんなもん。」
多分そのイタズラ、人間からしたら大惨事な気がする……
「でも、やっぱり見てるだけじゃつまんないから、お姉ちゃんの真似して世界に降り立って、こっそり歩き回って人と話したり、遊んだりしてたんだよ。でも、そしたら………」
ノルンは変な間を開けてから続ける。
「いきなりあいつが目の前に現れた!変なローブで姿は見えなかったけど、お姉ちゃんから聞いてたからすぐわかった。こいつが魔王だって。本来なら相手がどんなに強くても、神様であるあたしが負けたりすることは無いんだけど、あいつ、あたしの前で周りの生き物とか植物の生命力を吸い始めた!しかも『ここでワレを殺したら不浄の力が拡散し、辺り一面は闇に包まれる』なんて脅してきたの!だから仕方なく、捕まってあげた。」
「………じゃあ、世界を守るためにわざと……?」
「違うよ、魔王なんかに闇に包まれたら、あたしが壊す世界が無くなっちゃうでしょ。あたしは元の世界のまま、きれいさっぱりなんにもなくなるくらいに壊したいだけ。そのためには、魔王は邪魔だし好き勝手させたくない。」
「あ、そう………。」
怒ってるけど、その怒りの方向性、なんか変だよ……さすが、終焉の女神。じゃあ、ノルンを助けてなんやかんやで一緒に魔王を倒したとしても、そしたらそれはそれで今度はノルンを何とかしないとじゃん。って言うか、ユイはそれが目的だったけ。
「んー……もっと詳しく教えてあげたいけど、今は無理かな。」
「なんで?」
「ほら、耳すましてみて。」
言われたとおり、静かにして耳を澄ます。……微かに、階段の上のさらに先の方から、なにか妙な音………声が聞こえる。
「うわ、これ………あの変な図形人間の声………」
「そ、さすがにバレちゃったみたい。あと1分くらいしたら来ちゃうかもよ。どうする?」
「え、どうする?」
「質問を質問で返すのは良くないよね?」
「うっわ……」
ムカつく!