虚空の中で朽ち果てる
実験室から奥に進むと、さらにさらに下にくだる階段。マリーの灯りがなかったら多分真っ暗で、歩けない。
「エラい下に行くなぁ。一体どんなヤバいやつが捕まってるんやろか………」
「たしかに、そんな人ほんとに助けてあげていいのかな……」
極端な話、レナもセーラの仲間で、これも何かの罠だとか。まあ、そんなこと考えたらキリがないし、マリーは乗り気だから行くしかないかな。
その後しばらくくだると、やっと階段が終わり、その奥にやたらと厳重な扉が見えた。近づくと、その異様さがさらに際立つ。
「な、なんやねんこれ……やりすぎやろ。」
「『絶対に開けさせない』って意思をめちゃくちゃ感じる…」
牢屋って言われたから、普通に格子だと思ってたけど、全然違う。
鋼鉄で出来たやたら分厚そうな扉に、何重にも鎖が這わせてある。さらに、その鎖にはいくつもの鍵が着いてる。こんなの、いくらマリーのハンマーでも壊せそうにない。
「どうしよ?」
「んー……?なんか書いてあるで。」
「なんて?」
「『室内は時空間から切り離された虚空なため、内部からの脱出の恐れはありません。月に一度の点検以外では見回りも必要なく、看守もつけません。』……なんやねんこれ。この中が異空間にでもなってるんか?」
それにしたって、わざわざそんな注意書きするかな?まるで、ここの部屋のことを知らない人がここに来る前提かのような文章。
「なんだろうね…そんなにやばい人が捕まってるのかな…」
「ま、なんでもええわ。ぶっ壊すだけや!」
マリーは背中のハンマーを手に取る。途端に、重そうになり、ゆっくりと振り上げる。
「オラァ!どや!?」
勢いよく振り下ろさせたハンマーは、鋼鉄の扉にぶつかり、鈍い音を立てて停止した。
「……ど、どう?」
「いったぁ!こんなん素手で何回もできんわ!手痛すぎて死んでまうわ!ビクともしてへんし、やるだけ無駄やわ。」
「だよね〜……」
金属で金属を叩いたら、そりゃ痛いか。でも、どうしよう。何かほかに方法は………
「……おーい。」
「ん、マリーなんか言った?」
「なんや、ルナがなんか言ったんかと思ったわ。」
「違うけど………聞き間違いかな?」
でも、確かに聞こえた気が……
「……おーい………おーいっ!!聞こえないの!?」
「うわっ!?」
「な、なんや!?どこの誰や!?」
「ここだよ、ここ!目の前にあるどデカい扉の内側だよ!あたしはここ!聞こえてるかな!?」
やっとはっきり聞こえてきた。女の子の声だ。
「う、うん!きこえた!」
「あんた誰や!?そっちがわおるんなら、閉じ込められてるちゅうことやろ!?」
とりあえず、大きい声を出す。
「そうだよ!もう長すぎていつからここにいるかもわかんないし!……さっきの感じだと、あなたたち2人のどっちかが扉を思いっきり叩いたんだよね!?そんなんじゃ壊せないよ!あたしのこと助けに来たんだよね!?」
「そうだけど、じゃあどうすれば!?」
「その扉、フェイクなの!実際はその扉の向こうには壁しかない!ほら、よく耳済まして!あたしのこの声、どっから聞こえてる!?」
そういうこと…………………………
「うーん?」
「わからんわ。」
「そ、そっか……」
「てか、随分元気やなぁ。ずっと長いこと監禁されてたのに、平気なんか?」
「あったりまえ!あたしを誰だと……と、そんなことより!もういいや!どっかその辺の壁壊してみて!多分中と繋がるから!」
「っしゃ!そういうことならウチに任せな!ほな、ちょっと下がっててな。」
「うん、頑張って!」
一旦、階段の方まで下がる。マリーはそれを確認し、ハンマーをめちゃくちゃに振り回し、あたりの壁を破壊しだした。程なくして、言われた通り向こう側の部屋と繋がった。なんだ、見た目の割に大したことない。『時空間から切り離された』なんて書いてあったみたいだけど、全くそんな感じもない。
「繋がった!」
「なんや、簡単やな。」
「じゃ、あとはあたしの体を縛ってるこれも取ってよ。」
中に入ると、狭くてかび臭い、何も無い部屋の中に声の主である女の子が居た。長い間捕まってたって言う割には、体も服も髪も綺麗で、そんな感じ全然しない。
捕まっていたのは、わたしよりすこし年下っぽい綺麗な女の子。黒い綺麗な、短めのドレスを着ていて、吸い込まれそうなくらい綺麗な真っ黒の長い髪。見たことない子だ。
「ほな、これとってやんないとやな。」
そう、その子は壁際で変なものに縛られている。両手両足は壁から生えてきている、それこそイカの足みたいなもので縛られていて、腰の辺りには金属のワイヤーみたいなものが巻かれている。
「あ、意外と簡単に取れそう。」
「丁寧にお願いね〜」
「なんかエロいわぁ……」
「…………」
マリー…………
―――――――――――――
「あー!久々に身自由に動かせる!気持ちいい!助かったよっ!」
女の子は全身を大きく動かして、叫ぶ。
「よかった、けど………」
「あんた何者なん?こんな奥底に長い間閉じ込められてたとか、尋常じゃないで?」
「ん、それは……ってあぁ!!」
女の子は突如、わたしの顔を指さして叫ぶ。
「な、なに?」
「あなた!あなたは!!ルナっ!!だよね!?」
「え、え?なんで……?」
「ん、ルナ知り合いなんか?」
「え、知らないけど……」
「あなたは知らなくてもあたしは知ってるの!よし、ちょっとこっち来て!」
「うわ、マリーごめん!ちょっとまってて!」
腕を強引に引かれ、壊した壁から部屋の外に連れていかれた。
―――――――――――
「改めて確認だけど、初対面だよね?」
「そうだよ。会ったことは無い。でも、あなたのことは知ってるよ。ルナ。勇者シオンにクビにされた女の子。」
「うわ、なんで。」
すると、女の子は顔を近づけてきて小声で言う。
「いい?これから話すことは冗談抜きに本当に大切なこと。だから、あっちの子には絶対に内緒、わかった?」
「う、うん……」
「よし、じゃあ教えるよ。あたしが何者で、どうしてあなたのことを知ってるのか。あとついでに、『時空間から切り離された虚空』の意味も教えてあげちゃうよ。」