深き水から
3日くらい前の更新のお話の続きからです。(水槽を倒したところ)
「なんや?水たまりがそんなにあかんのか?」
マリーは離れた位置から、不思議そうな表情で水たまりを見つめている。
「多分…………」
「よーわからんことばっかりやわ………うお!?なんや!?あの水たまり、なんかぶくぶくしとるで!?」
「や、やっぱり……」
セーラ……水たまりがあれば、誰にも呼ばれなくても出てこれるんだ……でも、離れた場所にいれば……
「………ふぅ、やっと出られた………」
「あれ?」
「うわ、水たまりから人出てきたで!?」
誰?セーラじゃない?
こっちのせかいだから、ある程度見た目とか違うってことはあるかもだけど、それにしたって全く違う人……人っていうか、まあ魚人が出てきた。
髪の色は紫だし、髪の長さもとても長くて顔も違うしセーラとは似ても似つかない。あれ、予想外れたかな。
「えっと、誰?セーラじゃないよね?」
わかんないから、直接本人にきく。一応、まだ距離は詰めない。
「はい。わたくしはレナ、という名前です。あなた達は……?」
「あ、わたしはルナ。色々あって捕まって、こっちの子……マリーに助けてもらって、流れでここまで来た感じ。」
「ちょ、何勝手に話進めてんねん!?なんやこの人!?なんで地面にできたうっすい水たまりからいきなり出てきたんや!?なんかの魔法か!?」
「あ、いや……そうじゃなくて。」
「見てのとおり、わたくしは『魚人種』です。近くにある、ある程度の表面積がある水にならワープをして移動することができる力があり、あちらの汚い水槽から移ってきました。」
「ちゃうちゃう!そこじゃないわ!魚人ってなんやねん!?ウチそんなん知らんで!?」
「あ、そこから。」
「………そうでした。と言うより、通常は知らないはず。むしろ、わたくしのことを……魚人種、どころかセーラのことを知っていたあなたは……」
「…………その話は事務所NGなんで。」
「はぁ?何言ってんねん。」
――――――――――――――
「そ、そんなん知らんかったわ………下半身が魚だとか、竜に変身できるとか、デカいとか小さいとか、色んなのがいるんやな………」
隠すことでもないから、マリーに原種以外の種族のことを話してあげた。魚人のレナがいるおかげで、話が通じやすい。
「んで、じゃああの独裁官の仲間にはセーラちゅう強い魚人がいて、桁外れのワープ力で人をさらってんのやな。」
「はい。そして……セーラは捕まえた人間の一部をここに連れてきて、研究者たちと共に『実験』をしていました。」
なるほど、ここは実験室………なんの?
「人を使った実験?どう考えても、イヤなことしか思い浮かばんな。」
「セーラは原種の人達を愛しすぎるあまりに、外部から手を加えて強い体にし、水の中でも生きられるようにしたり、不老不死にしようとしたりと、無茶なことを繰り返していました。もちろん、人の体はそんなことには耐えられずに……。逆に、自分以外の魚人のことは酷く嫌っていて、ここのきたない水槽に閉じ込めました。そして、わたくし以外の仲間は既に………」
「……エラい自分勝手で残虐なやつやな………。愛がズレすぎやろ」
………ああ、そうなるんだ。原種だけが大好きで、他の種族は大嫌い……そん感じだ。そうなると、性格も基本は大人しいのかな?完全に狂ってるけど。
「ん、ちょっと待ってや。今偶然ウチが水槽から倒したからあんた出て来れたけど、そうじゃなかったら…」
「その心配はないです。天井のシミにイカを転送させ、そのイカをこの水槽に入れてもらい、中の綺麗な石に手を伸ばしたときに貝に噛み付いてもらう………想定内です。」
「うわ」
「うっそやろ?」
ていうかなんでシミにイカ転送できるの?水があった跡があれば身近なものを転送できる力でもあるのかな。それにしても、どこかひとつでもわたし達が想定外の動きしたら詰んでたよね?まあいいや。
「ということで、あなた達にお願いがあります。」
「なんや?」
「この部屋のさらに奥、長い間閉ざされている最奥の地下牢があります。恐らく、あの牢屋の中には、セーラや独裁官達にとって『最も重要な存在』が幽閉されているはずです。」
「助けてあげてってこと?」
「はい、きっと、それが………現状を打破することにつながるはずです。」
レナは頭を下げている。
「よっしゃ!ウチに任せといてや!ドカーン!と牢屋なんてぶっ壊してきたるで!ほら、行くで!」
「わ、わかったからて引っ張らないで!それじゃ、行ってくるね!」
「頼みました……」
そして、レナは水の中に姿を消した。
再奥に閉じ込められた、もっとも重要な存在……誰だろ?元の世界で知ってる人かな?
ブクマ74、ポイント300、ユニーク約10000でした。とても嬉しいです、いつもありがとうございます。