アリス&スティア 3
「な、何よそれ!?はじめてきいたわよ!」
「うん、だって私が独自に考えて、誰にも教えてないもん!とうっ!」
メルリアは不死鳥から飛び降り、笑いながら、得意げに言う。
「よし、とりあえず戻っていいよ!」
メルリアが筒をふると、不死鳥は少量の液体に戻り、筒に吸い込まれた。
「どう?」
「ど、どうと言われましても……」
「理解が追いつかないわよ………。」
「えっとね………魔法って『魔道方程式』……数式みたいなものがあって、それにその場に応じて、瞬時に数値を入れて答えを導くでしょ?で、錬金術は………まあ、2人には説明しなくてもわかると思うけど、一応ね。」
「まあ、あたしはそれが本業だし、アリスもあたしのおかげである程度はりかいしてるものね。」
「うん、しかも、スティアちゃんは錬金術師のなかでもかなり凄いって話だしね!……で、まあ……錬金術は複数のものを釜に入れて、1度バラバラになったもの達を、特殊な薬液とか触媒を入れて、再結合させて別のものを作り出す………だから、魔法と比べるとまだ理屈っぽいのかな?」
そこまで喋ると、メルリアは手に持っていた筒を高く掲げ、また喋り出す。
「そしてこれ!既存のものとは全く違う方法で生み出された『召喚』!この筒に入っている液体、『召喚液』は地面に垂らすと、この液体に込められたものが呼び出されるんだよ!凄いでしょ!」
「えっと……」
「理屈が全く分からないんだけど……?」
「んーとね?まず……この液体には魔法のなかでもさらに高度な魔道方程式を解いた先にのみ使うことが出来る最高位の魔法の力が込められてて……あ、力を込めるためにはまず『深淵石』っていう錬金術で作れる石が必要……あ、違う!その前に、それを作る錬金術は普通の術とは違って、『ルミナス』っていう術式の…」
「………もういいわ。」
「はい、『なんかすごい技』という認識でいきましょう。」
あまりに複雑、そして長くなりそうな説明に対し、2人はすぐに諦めの姿勢をみせる。
「でね、結局のところ、何を呼び出すか、何を出せるかって言うのは本人次第だよ!別に力とか素質じゃなくて、祈りの強さ。どんなものを出したいか、どうしたいかっていうのを強く強く祈れば、きっと凄いのが出せるよ!ほら、アリスちゃんもやってよ!」
「は、はい!」
メルリアに促され、アリスも手に持った筒をあけ、中身の液体を地面に垂らす。
「えっと……アリスの祈りに答えて、力を貸してください!」
アリスが叫ぶと、荒野に垂らされ、地面に染み込んだ液体が光を放ち、その場から何かの影が現れた。
「わ、ほんとに出ました!」
「やったね!」
「………でも、なによこれ。」
地面から現れたもの。それは不死鳥のようなものとはかけはなれた……と言うより、生物の一部と思われる部位。
……巨大な手のみが地面から出てきていて、手首より下は地面の下にある。しかし、その手は少しづつ、這い出てこようとしてきる。
「えっと……?」
「わ、わあー!だめ!これはダメ!戻して!一旦戻して!ほら!」
「え、あ、はい!」
メルリアに勢いに押され、慣れない手つきで筒に『それ』を戻すアリス。戻してしまえば、なんの痕跡もない。
「で、何よ今の?どう見てもあんたの不死鳥と同じものとは思えないけど……」
「今のは『炎の巨人』だと思う。手だけでもあの大きさ、全身が出てきたら大変なことになっちゃう!でも、その分……もしそれが使いこなせたら、きっとすごい力に……」
「ふーん……でもなんでそんな凄いもんがアリスの祈りから出てきたのよ?アリス、なんか変なこと祈った?」
「い、いえ……アリスは小さくて可愛らしい生き物がいいと思ってました………」
「んー」
メルリアは少しわざとらしく考える仕草をしてから言う。
「もしかして、本人も意識できてない超潜在意識に……?だとしたら、『トリックスター』の素質があるのかもね!プロメテウスはトリックスターの具現化みたいな存在だし!」
「トリックスター……?手品師とか奇術師です?」
「違うよ、トリックスターは物事の展開における重要な存在。道を開いたり、なにか凄いことをやって見たり、そんななかでもどこか掴みどころがなかったり、時には悪いこともしたり……。とにかく、世界を開くようなすごい人!あとは……二面性があったり……とか?」
「そ、そんな……アリスには、そんな力………」
「そうね、さすがにあるわけないと思うわ。もちろん、あたしやルナもだけど。あ、でも二面性は間違いなくあるわね。」
「ううん、きっとすごい力があるよ!!」
メルリアは大きく手を広げ言う。
「たしかに、アリスちゃんやスティアちゃん、それにルナ。個々だけじゃそうだけど………その3人……だけじゃなくて、きっと、ルナが出会ってきた人、それにこれから出会う人達、そういう人たちみんなの力がそれぞれみんなに繋がって、すごい力になる!ルナ自身は……うん、まあ……大したことないけど、きっとそういう『運命』を持ってるんだよ!だからつまり、みんなのそういう力がルナに集まって、『トリックスター』になる!」
「うーん?」
「ちょっとよくわかんないわね………。」
「私は今のルナがどうしてるかはわからないけど、きっとあの子の周りには……自然と、色んなタイプの人が集まってくるんだと思うよ。それこそ、いつか世界をひっくり返すような、すごい力が生まれるような……そんな感じ?例えば、アリスちゃんの今の。無意識にそんな力があるからこそ、きっとルナと惹かれあって、出会えたんだよ!そうに違いない!」
「……まあ、ルナの周りに人が多いってのは何となくわかる気がするわ………。」
「ですね。きっと今この瞬間も、新しいお友達が出来てるはずです!」
「じゃ、私そろそろ行くね。この感じだと多分、シオン達もどっかで待ってそうだし、私が動かないと何も起きなそうだし!あ、そうだ。アリスちゃんのそれ、次使う時は『プロメテウスの腕』のイメージでやって見てね!腕だけでも充分強いと思うし、腕なら多分制御できるから!じゃあね!」
早口に言いたいことだけを言い、メルリアは走ってどこかに行ってしまった。
「………トリックスター…ねぇ。」
「いきなり言われてもって感じです。」
「そうね、別にあたし達がそんなこと考えても仕方ないわ。ほら、あたし達も行くわよ。」
「はい!蒼海の入江まで頑張りますよ!」
そして2人は、広い荒野に向かって歩き出した。
「それにしても………」
「あ、アリスも多分同じこと思いました。」
「あ、そう?」
「はい!……ルナちゃん、トリックスターってよりは…」
「トラブルメーカー、よね……」
―――――――――――――――――
「うーん、まあ……」
1人になったメルリア。シオン達を探しながら、呟く。
「トリックスター……プロメテウスを見て咄嗟に適当に言っちゃったけど、信じちゃってたなぁ。冗談って言い出せなかった!」
秘められたちから、トリックスター。それはメルリアのでまかせであり、そんな力が本当にあるかなど、誰にもわからなかった。
次からルナ達です。