アリス&スティア 2
「ねえ、アリス」
竜人と別れてからまたしばらく。スティアは立ち止まり、後ろを歩いているアリスに声をかけた。
「はい、なんでしょうか?」
「………なんでしょうか、じゃなくて。」
「?」
「前、見てみなさいよ。」
「…………!」
立ち止まったスティアの横に並んだところで、アリスはようやく言葉の意味を理解し、またスティアの行動にも納得した。
平原も終わり、草木の少ない荒野になってきた中で、目の前には一際大きな岩がある。……いや、『岩に見えるもの』がある。
「……動いてませんか?」
「よかった、あたしの目がおかしいわけじゃなかったわね。」
外見こそ茶色い大きい岩だが、よく見るとその岩はかすかに振動し、移動している。
「何かの生き物でしょうか?」
「だと思うけど、こんなの初めて見たわよ。へんなモンスターとかじゃなければいいけど……」
「……………ぁ」
スティアが岩の横を通り抜けて行こうとすると、アリスは小さな声を出した。
「ん、なによ?」
「ダメです……この岩の周り……危ないです。すごーく遠くから迂回しないと………」
「は?何言って………」
と、その時。岩のようなものは急に激しく振動し、その正体を現した。
「う、嘘でしょ!?何よこいつ!!」
「お、思った通りです!岩のように見えたのはおおきな卵…!その本体は……!」
その本体は、巨大なカマキリ。岩に見えたものは、その巨体に相応しい、巨大な卵。その卵を背中に乗せ、地面に潜っていた。
「鎌を振りかざして……い、威嚇のポーズよね…?」
「は、はい!怒ってますよ!きっとアリス達が卵を奪うと勘違いしてるんです!」
今にも飛びつき、襲いかかってきそうな姿勢を見せるカマキリ。攻撃しようにも、武器を用意する姿勢を見せた瞬間にでも、襲ってくる可能性がある。
「ま、また逃げますか…?」
「それが無難ね。卵を背中に乗せたカマキリ、そんなに素早く移動できるはずがないわ!ほら、行くわよ!」
「はい!」
2人が走り出そうとした瞬間、カマキリは鎌を伸ばし、スティアの足の前に鎌を構える。
「…………」
「………い、意外とお利口さんですね………」
あと一歩でも動いたら、足を斬る……そんなように見えるカマキリを前にし、何も出来ない2人。
しかし、その硬直も長くは続かなかった。その時は不意に訪れる。
「うわ!危ない状態の人達発見!!いっけぇ!『スーパーノヴァ!』」
突如響く少女の声、そしてそれに続く爆発。瞬時に、カマキリは爆風に巻き込まれ、立ち込めた砂埃が収まった時には塵すら残っていなかった。
「な、何よ今の………」
「あ、あの人…ですか?」
アリスの視線の先には、青い衣を身にまとったポニーテールの少女。その少女は、早足に2人に近づき言う。
「怪我とかしてない!?あのカマキリ……『デゼルトシザー』はこの時期産卵と子育てて気がたってて、近くに来る生き物全てに好戦的だよ!……カマキリには悪いけど、あれの子供は作物でも何でもかんでもくいあらすから、今みたいに一気にやるのが鉄則だよ。」
少女は手に持った杖……大賢者の杖を背中に収めながら、明るく喋る。
「………あ!あんたもしかして賢者のメルリア!?」
「……ああ!アリスも知ってます!……そうでした、確かにその杖も……それは大賢者の杖!」
驚く2人。しかし、メルリアはそれに対して
「あれ〜?私、2人と会ったことあるかな?知り合いだっけ?」
と、悩みつつかえす。
「そうじゃなくても知ってるわよ!勇者シオンの仲間で大賢者の力を受け継いだ賢者!」
「自分自身の知名度とか、気にしないタイプでしょうか?」
「うーん、そうだね!私は私でしかないし、周りのこととか気にしないよ!ね、それよりさ。」
「ん?」
メルリアは近くに残っていた、そこそこの大きさの岩に腰掛ける。
「ちょっとお話しない?私、シオン達と一緒にいたはずなんだけど、いつの間にかはぐれちゃってて。下手に動き回るとすれ違って逆に会えなさそうだし、ここで待つ!だから、話そうよ。」
「別にいいわよ。あたしたちも急いでないし。」
「はい!アリスもお話したいです!勇者の仲間の人から話を聞く機会なんて、めったに…………………」
「………………」
「あれ、どうしたの?2人とも?」
――――――――――――――――――
「あ〜!そうだったんだ!2人とも、ルナのお友達!ね、私のことなんか言ってた?」
アリスとスティアの話を聞き、納得するメルリア。
「仲が良かった……みたいなことは言ってたわね。」
「何となく、自分と似てる感じがするから一緒にいると楽しい……とかですかね。言ってた気がします。」
「そっか。よかった。」
「何がですか?」
「そんな子じゃないって分かってはいるけど、もし、もしも……ルナが私達のこと、めちゃくちゃに言ってたりしたら悲しいなって思って。たしかに、シオンの判断で追い出したわけだし、特に誰も止めなかったけど………」
「うーん………多分、アリスがシオンさんの立場でも同じことしたと思いますよ。」
「そうね、いや、多分あたしだったら……もっと早いかもしれないわ。むしろ、勇者シオンはよく頑張った方だわ。」
「あ、あれ……?ここでもめちゃくちゃ評価低いんだね……」
メルリアは意外に感じたのか、目を丸くして困惑する。
「まあ、あんなんだしね……。でも」
「はい、それでも……アリスには、ルナちゃんが必要です!今は別行動ですけど………。」
「そうね、バカでアホで変なやつだけど、それでも悪いやつじゃないし、あの子がなにか大きなことするって言うなら、あたしだって手伝ってやってもいいわ。もちろん、アリスがいるんならね。」
「そっか、そうなんだね……よかった。ルナ、いいお友達できたんだね。」
示し合わせた訳では無いが、何故かスティアとアリスはメルリアに対して、『ルナのやりたい大きなこと』が何なのかは伏せていた。
「はい!」
「お友達………。」
「あ!そうだ!」
メルリアは突然立ち上がり、杖をもち言う。
「いいもの教えてあげる!さっきみたいな時でも、何とかできる技だよ!うーん………アリスちゃん!アリスちゃんに教えてあげる。はい、これ持って!あげる!」
メルリアが差し出したのは、小さなつつ。アリスの手にそれを握らせ、少し離れた場所に立つ。
「いくよ!これをこうして……」
「なにかしら…?」
メルリアはアリスに渡したものと同じような筒を手に取り、それに着いた蓋を開く。そして、その中に入っていた液体を地面に垂らす。
「さあ出て来て!私の……えっーと……うーん……使い魔……は違うなぁ……幻魔?これも違う………まあいいや!えいっ!いでよ聖炎の不死鳥!」
その叫びと同時に、液体を垂らした地面が赤く輝き、地面から生まれるかのように、燃える炎に体を包んだ鳥…フェニックスが現れ、アリスを乗せて羽ばたき、空に上がった。
「な、なんですかこれ……」
「どうかな!?私の考えた、魔法とも錬金術とも違う完全に別次元の術、『召喚』だよ!!」
メルリアは上空からそう叫んだ。