アリス&スティア 1
タイトルの通りです。ルナ達が鏡の世界にいる間に…
「こ、この怖いモンスターは一体どこまでアリス達のことを追いかけて来るんでしょうか!?」
「そんなの知らないわよ!とにかく走るのよ!はやく!」
どこかの平原。スティアとアリスのふたりは魔界のモンスター『キメラ』に追いかけられていた。
「合成獣キメラ……さすが魔界のモンスターだけあって、すごい外見してるわね……!」
「色んな生き物が混ざっちゃってますよ!きっとあのライオンみたいな顔にくっついたドラゴンみたいの凶悪な牙でアリス達のことを貫いて噛み砕いてボロボロにして飲み込んで」
「そういうのは今いいから!クスリならあとでいくらでもあげるから、とりあえず走るのよ!」
逃げ続ける2人、しかし
「あっ………」
「ちょ、アリス!?」
足がもつれたのか、アリスは体制を崩し平原に倒れ込む。そして、そのすぐ背後にキメラが追いつく。
「アリスのことはいいので、スティアちゃんだけでも………」
「なに馬鹿なこと言ってんのよ!あんたがいなかったら、あたしだって…!」
しかし、キメラに対抗できる手段はない。アリスの持っている『ドレッド・ブレード』も、スティアの『霊脈活性錬金』も、全く効かず、キメラは追いかけてきた。
「ああもう!どうすれば……」
キメラが体勢を低くし、アリスに食らいつこうとしたその刹那。
「……!?」
突如、地鳴りのような大きな音が響く。それは、どこからか舞い降りた『ドラゴン』の咆哮だった。
「青い龍……何よこいつ…」
そのドラゴンは、鋭く大きい爪でキメラを引き裂く。体に対するダメージこそ小さなものだったが、本能的に勝てないことを悟ったのか、キメラはワープホールのようなものを作り出しその中へと逃げ、その直後ワープホールは姿を消した。
「魔界に帰ったのかしら……ってそれより!アリス!平気!?」
スティアはアリスに駆け寄る。
「はい!平気、元気です!……ドラゴンさん、ありがとうございます。」
アリスは貴族の名残か、礼儀正しくドラゴンにお辞儀をする。
「………別に、あたし達を襲ったり……はしないのね。」
そのドラゴンは、小さな声で鳴くと、突如光に包まれた。そして、光が収まると、そこには一般的な文化から少し離れたような服を着た、1人の男性がいた。………しかし、その体にはドラゴンのような鱗が存在している。
「あ……」
「竜人……初めて見たわ。」
その瞳は片目が青、もう片方が緑。そして、髪の色も複数の寒色が混ざっていた。
「……なるほど。どうやら、原種にしては珍しく他種のことも知っているようだな……。ならわかるだろうが、竜人は普段人目につかないところで生活をしている。本来なら、こんなふうに通りすがりに人を助けたりはしない……が、少し事情がある。」
竜人の男は低い声で呟く。
「なにかしら?」
「人……俺と同じ、竜人を探している。レヴィという女だ。竜人でありながら、その血の半分は魚人であり、竜化も不完全、そして体にも鱗がなく、外見は人間と同じだ。鱗のような鎧を着ている水色の髪の女だ。何か知らないか?」
「……アリスは知りません。」
「助けて貰っておいて悪いけど、あたしも特に提供できる情報はないわね……。それにしても、そんな変わった竜人もいるのね。ハーフってことかしら?」
「原種の感覚でいえばそうなる。あいつはそういう経緯もあり、里から追い出された……が、訳あって連れ戻す必要がある。」
男は遠くを見つめ、そう語る。
「なによ、随分勝手なはなしね。」
「アリスもそう思います。自分たちの都合で、自分たちと違うからって追い出しておいて、必要だから連れ戻す……そのレヴィって人がなんだか可愛そうです。」
「………俺に言われてもな。俺も、頼まれただけに過ぎない。しかし、知らないのなら仕方ない。俺はもう行く。」
「待ってください!竜人さんなら、少しききたいことがあります!」
竜になろうとしていた男を、アリスが引き止める。
「答えられることなら教えてやる。」
「深淵古都『オーロラバレー』って知ってますか?」
「ルナが言ってたヤツよね。『峡谷の鱗』だったかしら?」
『オーロラバレー』、その名前を聞いた途端、竜人の男は険しい顔になり、言う。
「やめておけ。あそこには……近づくな。何が目的かは知らないが、命が惜しければ絶対にな。峡谷の鱗…たしかに、それはあの場所にあるが、諦めろ。」
「な、なんでよ!?人間なんかには渡せないってこと!?」
「勘違いするな。協力できるものならしてやる。……しかし、そういう次元を超えている。人間が着けた名前はあたかも幻想的で神秘的なような名前だが、実態はまるで違う。西の地にあるあの谷は………生き物が住むことどころか、侵入すらできない死を司る谷……『奈落の谷』としか言いようがない。」
「ひえ〜…」
「な、何よそれ…」
とても冗談を言っているようには見えない雰囲気に、アリスとスティアも強く言い返すことが出来なかった。
「俺がまだ産まれる前……竜人はあの地に住んでいた。……しかし、ある時生まれたアレのせい……いや、やめておこう。偶然であっただけの人間に話すことではない。忘れてくれ。」
「でも、あたし達はいずれ行かないといけないのよ。世界を救うためには、それしかないのよ。」
「行くな、危ない……だからといって、止まれないんです。そうしないと、もっと大変なことになるかもしれません。」
「世界を救う……そんなことは、勇者達が成してくれるだろう。俺たちのような、特別な力を持たない、選ばれなかった者共はただ普通の生活をし、世界の行く末を見守ることしか出来ない。それに、魔界のモンスターから逃げることしかできない原種の雌2人に、何が出来る。」
「な、何よその言い方!」
「た、助けて貰ったのは事実ですけど……」
「俺はもう行く。もしレヴィを見かけたら里に戻るように行ってくれ。それを言った程度で戻ってくるとは思えないが、念の為だ。」
「あ、待ちなさいよ!」
しかし、男は竜と化し空へと羽ばたいていった。
「なによ、勝手な男ね。モテないわよ。」
「………多分竜人さんも人間からモテても嬉しくないんじゃないでしょうか。」
「いや、それは知らないわよ………。」