広い世界で1人だけ
キンベルから歩いていた30分くらい。ちょっと高い山の山頂に着いた。山といっても本当に大したことなくて、全然疲れない。でも眺めはすごい良くて、キンベルはもちろん、その周辺まで見渡せる。キンベルの周りは一面の草原。遠くに見える山が霞んで見える。
「うわぁ〜!!こんなふうになってんだ!すごい!」
キンベルに来るまでにも色々なところに行ったけど、それでもシオンが言うにはまだこの世界にの10分の1くらいなんだって。
魔王が住んでいるのは世界でいちばん高い霊峰、『マウント・ローゼン』。雲よりはるか高くて、天気が良くても山頂が見えないんだって。(って、流石にそれは嘘でしょ。だってここからその山みえないし。)
で、そこに行くには5つの道具が必要。ひとつは勇者の剣で、シオンはそれを手に入れてはいるけど、まだ力が足りないんだって。あと4つの道具あれば真の力が出るんだとか。
で、あと4つのうちの一つはアイギスの盾……つまり、ルルちゃんが持ってる。ルルちゃんの故郷に古くから伝わるもので、最強のパラディンにだけ与えられるんだとか。
3つ目は大賢者の杖。これはメルリアが持っている。これもアイギスの盾と同じで、代々受け継がれていたらしい。
ここまではいいんだけど、問題はあと二つ。『至宝魔術書』と呼ばれるグリモワールと、『万能霊薬』と呼ばれるエリキシル。このふたつがないと、剣やら盾やら杖があってもなんの意味もない。全部が揃って初めて魔王への道が開かれるんだって。
だからシオン達はそれを探すために、世界を旅してる。わたしもずっと一緒だと思ってたんだけどなぁ。
「グリモワールをアルト君が、エリキシルをわたしが手に入れればバランスいいと思ったのに!!」
誰も居ない山頂で色々考えて叫ぶとスッキリする!じゃ、帰ろっかな。
「…………って、違う違う!依頼!」
忘れるとこだった。木の実を5ことってくる。それだけの簡単な依頼。
「……ん、あったあった。これだ!」
近くの背の低い木に生えている真ん丸な黄色い木の実。この木の実は『ルナの実』って名前!わたしと同じ、だから昔から大好き!甘酸っぱくて美味しいの。
「……あ!これ面白い形してる!ねえねえ!みんなみてー!これ……ああ……、そうだ……何やってんだろわたし……。」
改めて1人だってことを実感するのと同時、また昔のことを少し思い出した。
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ルルちゃんが仲間になってすぐの頃。休憩中に川で釣りをしてたことがあった。
「さあ……こいこい!」
そこは平原を流れる川で、流れは緩やかでそれなりに深いから、大物の予感がする川だった。
「おい……釣りより飯作るの手伝えよ。」
「待って待って。今からわたしが釣った魚も料理するんだから!」
「はぁ……」
「………来た!」
さっきまで軽かった竿が一気に重くなり、激しくしなる。想像してたより遥かに重く、一瞬持っていかれそうになるけどなんとか気合いで釣り上げた。
「……ん?……おぉー!ルルちゃん!見てみて!1個の針に2匹かかってたよ!」
重かった理由はそういうことだった。普通くらいの大きさの魚がひとつの餌を取り合うように、同じ針にかかっていた。
「…おぉ…!凄いです!こんな釣れ方初めて見ました!ルナさんって釣り上手なんですね!」
今でも、あの時のルルちゃんの楽しそうで嬉しそうで、それにキラキラした顔はよく覚えている。
「まあね!村でもよくやってたから!」
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また別のとき。メルリアと一緒に大きい木の上にある果物をとろうとして、木に登ってたこともあった。
「よいしょ……ふぅ。わぁ……結構高いね。」
わたしはなんとか登ったのに、メルリアはひょいひょいと軽く登っていき、上で待っていた。
「そうだね、高い!私は谷に住んでたから高いところ大好きなんだよ!」
ちょっと言葉が足りないんじゃないかな……。谷みたいな低いところに住んでたからこそ、物珍しく感じる高いところが好き……そんなところかな。
「でも、こんな高いところにできる果物なんて珍しいね。メルリアは知ってた?」
「うん!知ってるよー!これはね、高いところに木の実をつけて、落下の衝撃でわざと砕けるようになってるんだって!それで種を飛ばして、子孫を残すの!」
こういう所も、メルリアの賢いってところがよく出てた。こんなの普通知らないよ。
「……!!ねえこれみて!めちゃくちゃおっきいよ!すごくない!?」
その時わたしが手に取ったのは、普通の2倍はありそうな果実。どう見たって美味しそうだった。
「わぁ!ほんとだ!……ね、ルナと私で食べちゃおっか?」
「いいね、賛成!」
本当はシオンとルルちゃんの分もってことで取りに来たけど、バレないしね、そう言って、二人で食べたこともあった。メルリアは歳も同じくらいだし、何となくわたしとフィーリングが似てるから、一緒にいるといつも楽しかった。
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「……ルナ、わかってるな?この先の運命はお前が握っているぞ……。」
「う、うん………」
なんだかんだ言って、アルト君もよく一緒に遊んだ……いやいや、遊びじゃなくて………そうだね、旅の途中で色々した。
「……今だっ!!」
「………よし、いい働きだ……!お前のその一手が、オレたちが望むものを手中に収めた……!」
何してたかって言うと、木に止まっていて虫を捕まえていた。アルト君が虫がよってくる餌を吊るして、わたしがそれを捕まえてカゴにぶち込んだ。カマキリとか軟体動物は嫌だけど、それ以外のかっこいい虫は好き!
そして意外なことにアルト君も興味があるらしく、休憩中に一緒に捕まえたことがあった。
「ね、これかっこいいけどなんの虫?」
「なんだ、知らなかったのか。こいつは『デスカブト』……わかるか?この地獄の底から這い上がってきたかのようなおぞましい、魂諸共貫きそうな角の禍々しさ……。」
………たしかに、そう言われると普通のカブトムシとは違って見えた。大きいのはもちろん、ツノの形がえぐい。先っぽの方が大きくて、三又に別れている。さらにその一つ一つには小さな返しが着いていて、溢れ出る殺意を感じる。これがもし犬くらいの大きさだったら絶対人間の脅威になってた……。
「でもなんか意外だなぁ。アルト君も虫とか好きなんだね。」
「それ自体は否定はしないが……他の奴と同じだとは思うな。オレはこいつらの、まるで異世界から来たかのような奇っ怪なフォルムに興味があるだけだ。」
「ふーん………」
「……なんだその顔は。」
「ううん、別になんでもない!」
「……おい、いつまで遊んでんだよ。行くぞ?」
遠くでシオンが呼んでいる。
「……ふん。」
「……ふふ。」
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「うーん………?」
なんか思い返すとわたし、いつも遊んでたような……?
「ま、いいや!帰ろっと」
木の実もとり終わり、ここにいるようもないのでさっさと帰ることにした。木の実は5個もあるとおもいけど、それは心配いらないの。なんてたって、わたしのポーチは沢山ものが入る上に重さも増えないから!メルリアに作ってもらっておいて良かったなぁ。これだけは絶対なくちゃダメだもん。
少し日が落ち始めた山道を、わたしはゆっくり降りていった。