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絶望を劈く

 足音は確実にこちらに近づいてきて、音が大きくなり、だんだん薄暗い明るくなってくる。ライトでも持ちながら歩いてるのかな。


 そして、遂にその足音の主はわたしの牢屋の前まで来た。そして、灯りを地面に置く。眩しすぎず、相手の顔や姿もよく見える………


「………だれ?」


「誰って、そりゃあ初対面なんだから知らんのは当然やろ。」


「あ、うん。」


 実際、知らない人。青っぽい髪の毛で、すごい長い。ふわっとした感じで、腰の少ししたくらいまである女の子。服装は少し綺麗で派手目、リボンが多く着いた服でフリルの着いたのスカート。だからこそこんな所にいるのが少し違和感。……まあそれよりも、背中に背負ってるものが気になりすぎるけど………


「ちょっと下がっててな。ウチの()()()()でこんなしょぼい格子ぶっ壊したるわ。」


 そう、背負ってるのは大きすぎるハンマー。塚の部分の長さも身長の半分位はあるし、叩くためにある、樽みたいな部分は見るからに重そうで、やたらと大きい。そして、女の子はその細身の体からはとても想像できないような、大ぶりでハンマーを振り下ろし………


「うぉおらぁ!こんなほっそい鉄くず、ウチのハンマーなら1発で粉砕できるわ!」


 気合いの入った声と共に、ハンマーを振り下ろす。地響き、そして轟音。………宣言通り、牢屋の格子は粉々になっていた。


「………ずいぶんすっとぼけた顔してんなぁ……なんかあったん?」


「………うん、今目の前で。」


 少し考えるような仕草をしてから、女の子は答える。


「あ、ウチのことか。………それより、なんであんたそれはそれとして、他にもなーんか微妙に納得できないって感じの顔してん?壊されて迷惑?」


「え、そうかな?めちゃくちゃありがたいけど。」


「んー……せやな、『敵でも味方でも、知ってる人が来る流れかと思った』とか、そんなところやろか?」


「うわ、そういうこと言うんだ。」


「現実的に、そんな上手くいくことばっかりじゃないってことや。あ、ウチは『マリー』。あんたはルナでしょ?知っとるわ。」


 マリー……そうなのった彼女は、ハンマーを背中に背負いなおしながら続ける。


「んー……なんか気になること沢山あるって顔してんなぁ………言ってみ、教えたる。」


「その喋り方何?イントネーションとか、独特…」


 色々気になるけど、まずそこが気になって話が入ってこない。


「ん、これか?この喋り方な、教えてもらったんや。なんかホンマはもっとちゃんとした使い方があったんやけど、忘れたわ。だから、『エセ』……まあ、偽モンみたいなもんやなこれは。せっかくちゃんと教えてもらったのに申し訳ないわ。」


「誰に教えてもらったの………それに、なんでわざわざそれを使ってるの………」


 知りたいことが何も分からない……。


「元々な、ウチ人と話すの苦手やってん。でも、この喋り方するようになってからはなんか知らんけど、今こうしてるみたいにまあまあ上手く会話できてな、だから使ってんのよ。それと、誰からってのは………誰やろ、なんちゅうか……『女神』みたいな雰囲気の人やったなぁ。名前もどこの人かも、なーんもわからん。一時期一緒に住んでたんやけど、ある日突然、いつの間にかどっか行って、そのままや。まあまたいつか会えるやろ。」


「め、女神………」


 果たしてそれは比喩なのかな、それとも………?


「ん、せっかく牢屋ぶっ壊したんやし続きは外行きながら話さん?ここにいてもええことないやろ。」


「え、あ、うん。」


 流さるがまま、マリーについっていって牢屋を出る。マリーは本当の世界だと、どんな人なんだろ……



――――――――――――――――


「ウチがあんたのこと知ってる理由?単純な話やで、他の牢屋にいたユイって子から聞いたんや。多分、素っ頓狂な格好した女の子がどっかにいるだろうから、助けて欲しいってな。で、一目見てスグわかったわ、あんたがルナだって。でな、そのユイって子も助けようとしたんやけど、本人に止められたんや。自分はここですることがあるから、助けなくていいって。」


「へぇ…」


 地下牢の通路を歩きながらマリーに教えてもらう。なるほど、若干釈然としない部分もあるけど、一応わかった。でも……


「なんでマリーは地下牢なんかにいたの?」


「ん、まあ…なんて言うか、仕事みたいなもんや。できる範囲で、閉じ込められた人を助ける。でもまあ、このエリアに来たのは初めてやな……ここは、普段から誰も収監されてんらしいし、来たことないんや。何でも、少し特別な監獄らしいで。」


「へえ〜…」


 確かに、地下牢って言う割には空っぽだったり、明らかに長年使われてなさそうな牢屋が多いなとは思った。理由は不明だけど、そういう場所らしい。


「でもな、そろそろ危な………っと、言ったそばからや。隠れな。」


 通路が右に曲がるところで、マリーは声を潜めて立ち止まる。


「なに……?」


「今まで何度も色んなところの牢屋ぶっ壊してきたから、さすがに怪しまれてるみたいやな………それに、さっきもでかい音出したしな。ったく、普段は1人もいなかった癖に今日は看守がおる。ほら、あいつらや。このまま黙ってれば、向こうに行きそうだからちょっと見てみ。」


「どれどれ………っ!?」


 危うく声が出そうになる。え、何あれ………


「ビビってんなぁ。予想通りでおもろい反応や。」


「いやいや、だって……え、え?」


 もう一度、覗いてみる。でも、当然それは見間違いなんかじゃなかった。


 そこに居たのは2人の看守。薄暗い地下牢でも監視ができるように、腰にランタンをつけている……なんて、そんなことはどうでもいい。


 2人とも、同じような服装をしている。右手には古びた鉈を持っていて、ボロいマントの着いた服。そして…………顔。後ろからだから顔は見えない…………はずだけど、訳の分からないことになっている。片方の看守は本来顔のあるはずの位置に『○』の形、もう1人の方は『△』の形があって、浮遊している。そして、物理的におかしいけど、看守が動いて、見える角度が変わっても、その図形は常にわたしに対して正面を向いた形をしている。


「な、なにあれ…?」


「あいつらは『奪われた』者達や。牢屋に入れられるより、もっと悪いこと………街から外に逃げ出そうとしたり、反逆しようとしたり……そういうことをしたヤツらは、奪われてあんなふうになってまうわけ。で、いいようにこき使われてる。ウチらもバレて捕まったら多分されるやろな。」


「えっと……?」


 説明してくれてるみたいだけど、わたしにはその前提となる知識すらないから何の話か全く分からない。奪われた?誰に?何を?何事?


「あんなふうなふざけた顔してるけど、視覚も聴覚も通常通りや。だから、こっちみてない隙にこっそり向こうの脇道に抜けるで。準備はええか?」


「うん、分かった。静かに、でも急ぐ………だね。」


「せや、行くで。」


 隙を見て、歩き出す………その直後。


「あっ…」


 わたしの背中の刀が、積んであった木箱に当たった。それ自体の音は全然大きくないけど、その衝撃で木箱のバランスが……


「ちょ、何してんねん………」


 何とかする間もなく、木箱は地下牢によく響く、豪快な音を出して崩れた。看守達は、それを聞き逃すほど甘くない…!

 こっちを見て、とても言葉とは思えないような、妙な音を発する。あれが彼らの言語?


「アホ!何してんねん!あんたフラグ回収の鬼か!逃げるで!こっちや!」


「ご、ごめん!」


 マリーに手を引かれ、来た道を急いで戻る。振り向くと、2人の看守が体を全く揺すらずに、気持ちの悪い動きで走って取ってきている。絵面がホラーすぎるってば!



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