表裏の自分
屋敷から追い出され、とりあえず街の方に戻ろうとすると、ドアが開きスティアが出てきた。
「あ、良かったまだいた………」
「どうしたの?」
「アリスの話は聞いていました………『真実』を掴み、ルナを倒すんだとか……。」
「そうよ。とめるつもりかしら。」
「い、いや違います!アリスが許可したのなら、あたしが止めるなんてことは絶対にありません。これを渡して置こうかと思って……どうぞ。」
スティアが差し出してきたのは、ふたつのネックレス。わたしとユイの分かな。
「これをつけていれば、正式にこの街の住民と認められます。なので、その大きい刀があっても不審がられないかと……あと、これもどうぞ。」
「なにかしら。」
「…………うわ、これもしかして……………」
差し出されたのは、どうにも見覚えのある注射器と錠剤。
「これは…………その、なんというか……困ったら使え、としか言われてないので、あたしにもよく分かりません………とりあえず、どうぞ。」
「あ、ありがと…………」
これは使いたくないなぁ……………
「………あなた、向こうの世界の自分がどんな人間かは知ってるの?」
行こうとすると、ユイがそう呟く。
「え………アリスやルナ達、一部の人は向こうの世界のことも知ってますが、あたしは知りません…………どんな人なのでしょうか………」
「…………そうね。私から言えば、今のあなたの方がまだ可愛げがあると思うわ。」
「わたしはどうもあっちのイメージが強くて違和感が凄いよ……」
「じゃあもうひとつきくけど、『自分は魔界の鏡から作られた世界の存在でしかなく、現実には存在しない人物』ということは知ってるのよね。それはどう考えてるのかしら。そもそも、生まれるより以前の記憶はどうなってるの?」
「ちょ、ユイ………」
なかなかすごいこと聞くよね…………
「………本来、この世界の人々は『自分は○年前に生まれ、今の歳まで普通に生きてきた』と思っています。あたしはアリスから教えてもらったから知ってますが、普通は知りません。なので、何も思っていないかと思います。…………と言ってもあたし自身も、特になんとも思いません。偽りの記憶だとしても、幼少期からアリスと仲良くしていたこの記憶は、あたしにとっては宝物です。………それに、この理屈は………あなた達も可能性はあるんじゃないでしょうか。」
「そうね。『世界は5分前にできた』なんて戯言、よく言うわ。『証明できないから可能性はある』、謎をとき、真実を追い求めるなら確かに必要な視点。『どんなにありえないと思っても、最後に残った可能性がひとつならそれが真実』………どうかしらね。」
ユイとスティアはなにか通じあってるかのように、難しい話をしてる。ぜーんぜんわかんないよ。長いし。
「………ききたいことはまだまだあるわ。でも、やめておくわ。ここで『真実』を知るあなたに聞きすぎるのはきっとルール違反………せっかく与えられたチャンスまで奪われかねない。」
お、なんか一区切り着いたかな?急かすのもなんか申し訳ないから、それとなくゆっくり歩き、なんとなくアピールをする。早く行こうと。
「私達はもう行くわ。」
「は、はい………あ、最後に1つ。ルナとアリスは今回みたいに『ゲーム』が好きなんですが……それは『自分たちが絶対勝てる時』だけの提案です。つまり、これにのった時点で、あなたたちの負けはもう決まって………」
「なるほど。あんなふうにいい言葉吐いて、私達を乗せただけって事ね。でも、決まってる……どうかしらね。アカシックノートがない今、暫定の未来ですら不明瞭。それならむしろ……」
「嘘だとしても、演技だとしてもアリスが言ってたよ!『運命にも楯突いて』って!わたし達はそのつもりだから!未来とか、運命とか、知らない。わたしの未来はわたししか作れない!『運命』なんて結果論!最初から決まってるわけがないよ!起きたことに対してそれを『運命』なんて言ってるだけじゃん!だから見ててね!わたし………わたし達はこのゲーム………絶対勝つよ!!」
「あら、珍しく難しいこと言うのね。」
「本のセリフ。」
「はぁ………」
と、今度こそ話も終わり、スティアに手を振って屋敷をあとにした。
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「お腹すいてたの忘れてた。」
「そういえばそうだったわね。」
街に戻り、どこからかいい匂いがしてきたせいで思い出してしまう。
「お店、ある?」
「あるにはある………けど、はたして同じお金が使えるかどうか。」
「あ、それは平気。さっきお金拾ったんだけど、ほら、同じやつ。」
「………あなたのそういう所が役に立つこともあるのね。」
どういうこと?
近くを見ると、あかりのついた、そこそこ人のいるお店があった。あそこ良さそう。
「ね、行こうよ。食べてから考えよ。」
「それは賛成。私もさすがに何か食べたいわ。」
「……………??????」
店の中に入り、席に座った…………のはいいけど、メニューが読めない。なにあの文字?
「『コーンチーズピザ』、『竜肉のソテー』、『サンドワームの素揚げ』……これはありえ無いわ。私にはなんの魚かは分からないけど、なにかの『ムニエル』……まあこんな感じかしら。他にもあるけど、微妙。」
「え!?読めるの!?」
「ええ………でも、ありえない。」
ユイはまた、なにか見てはいけないものを見たような顔をする。
「文字のことすごい気にしてるけど、なんで?」
「………おかしいのよ。ここで使われている複数の文字……私の世界の文字。漢字にひらがな、カタカナ……アルファベットまで。」
「?」
「例えば………怪盗ツインエース、あの名前もこの文字ありきの名前………表記としての文字もそうだし、口頭での使い方まで同じ………何故。」
うーん………たしかにそれは変かも………いくら鏡の世界と言っても、それはおかしいよね。
「まあ、とりあえず注文しよ。わたしはムニエル。ユイは?」
「ピザでいいわ。これが一番私の世界にあったものに近い。」
「わかった!じゃあ話の続きは食べながらね!」