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その名は

 ユイはなにか言おうとしたけど、結局そのまま黙ってしまった。ここで立っていても仕方が無いと思い、後ろを……街の方を振り返る。


「あれ?」


「…………これも想定外ね。」


 監獄みたいな街(国)、なんて言うからそれはそれは酷い有様で、ボロボロで人の住むような場所じゃないと思っていたけど、そんなことは無い。割と綺麗でオシャレな建物に、あかりも着いていて人も出歩いていて、立ち話なんかしてる人もいる。


「この建物………わたしの世界の、わたしがいた時代より数百年前の……の様式に似ている………どうして………」


「なんて?」


 ユイが建物を見て何か言ったけど、よく聞こえなかった。


「なんでもないわ。それより、この街はどの程度の広さなのかしら。話によれば、小さい国くらいあるって話だけど。」


「わかんないし、聞いてみる?」


「そうね」


 少し歩き、適当にその辺にいる人に声をかけてみることにした。目に付いた、優しそうなおばさんに声をかけてみようとすると、先にユイが口を開く。


「ちょっといいかしら。」


「あら、どうしたの?」


 見た目通りなリアクション。


「私達、この街に入ったばかりで何もわからないの。知ってることがあったら教えてくれるかしら。」


「あら、今来たの?良かったわねぇ、もう安心よ。」


「安心???」


「どういうことかしら。」


 おばさんは手を動かして笑いながら言う。


「やーね、あなた達も勘違いしてるの?なぜだか知らないけど、ココ何年も外から来た人はみーんな『ここは監獄みたいな街』だなんていうのよお?そんなのは嘘で、ここは『ルナ様』が管理してくれてる聖域……絶対に安全な街なのよ。ほら、外の世界は危険でしょ?」


 …………嘘をついてるとか、わたし達を騙そうとしてる感じはしない。本心?


「…………なぜそう言いきれるのかしら。その『ルナ』って人物がなにか企んでいる………そういう可能性。」


 こっちの世界のわたしを信頼している人に対してはかなり失礼とも取れる言い方、でもおばさんは全然機嫌を悪くせずこたえる。


「ないない、あるわけないわよ。」


「…………そう、参考にさせてもらうわ。」


 立ち去ろうとした時、最後に…と言いつつ、声をかけられる。


「そっちのあなた、そんな大きい武器なんて持ってると危ないわよ。振り回したりしないわよね?………まあ、『彼女』がいるから安心よねぇ。」


 ………彼女?誰のことだろ。


――――――――――――――――――


 その後も、謎にオシャレで綺麗な街を進みつつ、人に話を聞いたところ、皆口を揃えて『ここは安全、ルナ様はいい人』なんて言うし。でもそんなの絶対嘘だよ。もし本当にここがそういう場所で、()()()がいい人なら、ここから抜け出す人なんているわけないし、あんな変な武器で脅してこの街に押し込むなんてするわけない。それに………


「この街の人の言い方、まるで『外の世界は崩壊しかけていて1秒も生きられないような地獄』のように感じるわ。………でも、外はそんなことは無かった。」


「それそれ、たしかにモンスターとかいるかもしれないけど、別に死の世界でもなんでもない………不思議。かと言って、この街が監獄って感じもしない………なんだろうこれ?」


 夜も遅くなってきたのか、人が減ってきた道を歩きつつ話す。


「それと、この街が国みたいに広いというのは本当のようね。この先に進むと平原や森、小さな山岳地帯まであると言っていた。街だけでなく、そんな地形まであるとなると本当に国のようね。」


「ほんと、目的が分からない………あれ?」


 歩いていると、ふとなにか違和感があった。………いや、()()()()()


「なにかしら。」


「ん……?ちょっとまって………軽くなって…………あ、あれ!?無い!!」


 背中をさわると、刀が無くなっている。だから違和感……ってことは、今この瞬間になくなった?


「刀………たしかに、ついさっきまではあったわね。流石のあなたも落としたら気がつくでしょうし………となると。」


「ふっふっふっ………」


「!!?」


 突如どこからか笑い声が響く。あたりを見回し、上を見ると………建物の屋根の頂点に誰か立っている。月をバックに、たっているその人物の姿は………


「わたくしは『怪盗ツインエース』!今宵はあなたの持つこの危険な刀……頂きにまいりました。安全で安心な街のため、危険物の回収に御協力くださいませ。」


 暗くてちょっとよく見えないけど、多分……バニーガールみたいな服装にマント、ハイヒールを履いてそれから頭にはちゃんとうさぎの耳のカチューシャをして、顔にはモノクルをつけている。そして手にはたしかに、わたしの刀を持っている。…………いや、それよりも………この声は………


「アリス?」


「……アリス、誰のことでしょう?わたくしはツインエース。他の誰でもございません。」


 ツインエースは屋根の上でお辞儀をする。髪型、色もアリスっぽいけどなぁ。


「ツインエース……ツイン『Aエース』、『AliceアリスAileenアイリーンかしら………。少し珍しい表記……いえ、そもそもどうしてこの世界でこの文字が…………」


「…………アリス・アイリーンなんて知りません。では、わたくしはこれにて。ごきげんようっ!」


「ちょっと!!人からいきなりものとるとか怪盗ってよりスリだよ!!」


 わたしがそう叫ぶと、アリス……じゃなくてツインエースはその場から飛び立つのをやめて、わたしに言う。


「………たしかに、言われてみればそうかもしれません。そうだとするなら、それはわたくしの『美学』に反する………かと言って、こんな危険なものをただ返す訳には…………。そうだ、こうしましょう。ここよりさらに北に、わたくしの住む屋敷があります。まずはそこにいらして。では、さらばです!」


 そして、今度こそツインエースはいってしまった。華麗に屋根の上を伝ってジャンプして行った。


「……どうするつもり。」


 ユイはめんどくさそうに言う。


「もちろん、取り返すよ!行こう!」


「分かった。………それにしても、探偵の反対が怪盗なんて………どうなのかしら。」

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