一発逆転
描写が少なかったので、1つ前のお話の内容を少し増やしました。それと、この世界のお金の単位は日本円と同じようなものと考えてください……
戻ってきたのは『キンベル』って名前の町。別にお城から近い訳でもないし、何か名物がある訳でもない普通の町。でも、一つだけあるとすればそれは……。
「よ、よし……わたしにはまだこれがある……!」
この町には『カジノ』がある。とは言っても、大層な機械なんてなくて、テーブルゲームだけ。それでも、わたしは今の持ち金10万ルピアをかけてここに向かう…!ここで大勝利すれば勇者なんてもう知らない!好きにお金を使って好きに生きる!
店の中に入ると、昼間でもそこそこ人がいる。お酒を飲みながらやってる人もいて、騒がしい。
そんなことは置いておいて、わたしはカウンターに向かって座る。
「いらっしゃいませ!」
カウンターの向こう側には、カードを持ったゲームマスター……この店の場合はわたしとそんなに年齢も変わらなそうなお姉さん。
「ポーカー……掛け金は……10万!全部です!」
高らかに宣言し、テーブルに全部を置く。すると、店の中にいた他の人たちも自分たちのゲームをやめ、こちらに注目してくる。
「お客様…本当によろしいでしょうか……?」
「も、もちろん!二言はない!」
そう、良く考えれば、わたしが勇者のパーティに入れたのは『幸運』そのもの。そんな超絶的な幸運のわたしなら、ポーカーなんて余裕余裕!みててねギャラリー!
「……むむ」
配られた5枚のカード。これは………。パッと見だと、小さな訳が揃ってて、これはこれで悪くないようにみえる。でも、違う。わたしが求めるのはこんなものじゃなくて……!攻めろ!わたし!
「よし、このカードを……交換でお願いします………。」
気がつけば、店内は静まり返り、わたしの声とカードをきる音、そして配られる時の微かな音だけがきこえる。
「………!!!!!あ!ああ!来た!」
わたしの手元に来た計5枚のカード…!これは……!
「やった!ロイヤルストレートフラッシュ!!!」
数字も絵柄も完璧!配当は50倍!つまり500万……でも、まだ足りない!
「おめでとうございます……さて、お客様……」
「やります!ダブルアップ、やりますよ!」
わたしのその一声で、店内は大きくわく。いいよ、今来てる……!
「では、どうぞ。」
ゲーム内容は『ハイ&ロー』。つまり、片方のカードを表にして、もう片方のカードがそれより下か上かかを当てる。実にシンプル。
「……!1……ラッキー!」
このルールだと、2が1番低くて1がいちばん高い。で、同じ数字だった場合はやり直しだから、これはもう低い一択……!
「低い、です!」
「ではオープン……はい、『ジョーカー』……つまり、1より高い数字ということになりますね。またのおこしをお待ちしております。」
「……え?」
――――――――――――
「ありえないって!ずるでしょ!ずるだよ!!おかしいもん!!」
あっさりと店を追い出されてしまい、わたしは路地裏で1人でキレ散らかす。絶対おかしいよ、あそこでジョーカーとか出るわけないし。わたしのお金………どこ…………。
「さぁーて……これでほんとに1文無しよ。」
パーティからも追放され、お金もなくなった。どうするのこれ?わたしの背中のこの刀を売れば多分それなりのお金にはなるけど、これは絶対だめ。パパから貰った、命の次の次の次くらいに大切なものだし。
「うーーーん………困ったぞ。」
わたしまだ16歳よ?シオンにはいい歳してなんて言われたけど、16だよ?まともに働かせてくれるとことかないでしょ。
「………あ、そうだ。別にあれでいいじゃん。」
よく考えたら、わたし一応『冒険者』よ。シオンのおかげと言えばそうなんだけど、酒場とかで依頼を受けられる契約はしてある。これはパーティ単位じゃなくて個人単位でのことだから、追放されてても関係ない。そうと決まれば、酒場にいこう!
――――――――――
「では、現在の依頼はこちらです。」
「ふむふむ……」
酒場に行き、依頼の紙を眺める。とんでもない高額な依頼から、子供のお小遣いレベルのものまで様々。本当はこういういい依頼を受けるためには色々な手続きがいるんだけど、シオンのおかげでへーきへーき。
「うーん……でも魔物の討伐はなぁ……怖いし。」
なんかないのかな……簡単で高い依頼。
「『カマキリドラゴン』……カマキリ嫌い……。『インフェルノダンゴムシ』……火山行くのめんどくさーい。『鋼鉄カタツムリ』……軟体動物気持ち悪いからやだ……。」
へんなモンスターの依頼ばっかり。
「ん……これでいいや。その辺の山行って木の実取ってくるだけでそこそこのお金もらえるし……。よし!」
――――――――――――
酒場を出て山に向かう間、歩きながら改めてキンベルの街並みに意識を向けてみる。道路はだいたいレンガになっていて、建物は木やら岩で出来ている。高い建物でも3階とかで、王都でもないからお城みたいな目立つ建物もない。あるとすればステンドグラスと鐘が綺麗な教会かな?
そういえば、街の人達にチラチラ見られてる。普段はシオンと一緒にいたから勇者のことを見てると思ってたけど、違う。これみんなわたしのこと気にしてる。………この格好、こんなにおかしいかなぁ。ママとパパは褒めてくれたのに。
「うーん、いい天気!これなら山に行くのも楽しそう!」
1文無しとかどうでもいいや。これからまた稼いで、それからまた何とかしよっと。
「……ん?」
「お前は……」
街の出口の近く、アルト君がいた。
「アルト君!なにしてるの?」
「シオン達が戻ってくるのを待っている。オレは騒がしいのは苦手だ。」
そういえばそうだった。アルト君はいつも以来の手続きをするために酒場に行く時は、着いてこなかった。
「お前こそ何をしている?」
「依頼だよ、これから山に行くよ。」
「ふん、せいぜい死なないようにな。」
「冷たいなぁ。ね、ね。シオン何か言ってなかった?わたしのこと!」
わたしがグイグイいくと、アルト君は息を吐きながら答えた。
「……『旅が楽になった』とだけ言ってたな。」
「むぅ……。ルルちゃんとメルリアは?」
「何も言ってない。もういいだろ。もうすぐ3人も戻ってくる。居合わせるのは互いに望まないはずだ。こうなったのもお前の運命……ならばこの先の世界はお前自身が切り開くべきだ。」
「わかったよ。でも、後でやっぱ戻ってきて!なんて言っても知らないよ!」
「ふっ、そんなことは天地が裏返り夜に太陽が登り勇者が魔王に敗れるくらいありえないな。」
む、ムカつく〜!!