反転世界
歩き続けて、気がつけば夕方。すごいお腹すいたし、疲れた。
「ねえ、今日は休まない?」
「そうね。無理をしても良くない。どこか開けた場所があったらそこで休みましょう。」
と、その時地面に光る何かが落ちていた。気になって拾ってみると、それは鏡の欠片。でも、真っ赤に染まっている。
「ねえねえ、変なもの拾った。」
前を歩くユイに見せてみると、珍しく驚いた顔をして言う。
「それは……!それは危険よ、今すぐ投げ捨てて割って。ほら、早く。」
「えー?でもなんか綺麗だし勿体ないよ。」
「だめよ……!だってそれは………」
と言い終わる前に、鏡が強い光を放ち、当たりを包み込む。
「な、なに!?」
「その破片は反転世界への誘い………つまり、もう既に彼女の術中にハマったということ………」
彼女………『反転世界のわたし』…………。
「…………話の振りから展開までのテンポ早すぎない?」
「あなたが余計なことするからよ…………」
そして、赤い光が当たりを完全に包み込み、何も見えなくなった…………。
―――――――――――――――――
「やっと収まった………」
ゆっくり目を開けると、そこは全く知らない場所。夕方なのは変わらないけど、すごい断崖絶壁で、下を覗くと荒波の海。後ろを振り返ると、崩れかけた家が何軒かだけあって、他には特に何も無い。空を見上げると、気味の悪い赤い色。どこ?
「ここは…………まずいわね、アカシックノートも白紙………力を封じられたようね。」
ユイは本を閉じ、ため息をついている。
「え!?封じられたの!?わたしもかな!?」
「あなたの何が封じられるの。封じるほどの力もないわ。」
「うーん………」
ごもっともです。
「え、ていうかアカシックノートがないユイって、わたしと大差なくない?むしろ魔法使える分わたしの方が………」
ついに『わたしより何も出来ない人』の登場!?
「何を勘違いしてるのかしら。いつ、私が魔法を使えないなんて言った?」
あっさりと、そして少し呆れたようにユイは右手に火球、左手には雷を纏う。
「………………なるほどね。ユイの世界にも魔法はあったの?」
「いいえ、ないわ。でも、幸いにものこの世界の魔法の仕組みは私には理解しやすかった。算術は得意だから、この程度なら簡単に覚えられる………むしろ、こんなことすら出来ないあなたが不思議。」
「まあ、色々あるんです。多分。」
残念ながら、わたしの負け。
「………くだらない話をしている場合じゃない。ここは彼女の思いのままになる世界………きっとどこかで私達のことを待っているでしょうけど、正面切って勝てる相手じゃない。なにか策を練るためにも、こちらの世界の住人と接触してみましょう。」
「うーん…………」
「なに?」
ユイは魔王側にいたわけだからこの世界のこと理解してそうだけど………
「結局、反転世界ってなんなの?いまいちよくわかんなくて………」
わたしがそう言うと、意外なことにユイは呆れもせず、ちゃんと考えて、答えてくれた。
「そうね。私もすこし説明が足りなかったかしら。どうせこうなってしまったなら、急いでも仕方ない。今日はここで休んで、ゆっくり話してあげるわ。………あなたが寝ずに人の話を聞くことができるのなら。」
「できるよ!そこまでアレじゃないから!」
「そう。ならいいわ、話してあげる。」
ユイ崖の近く、眺めのいい場所に座って、話し始めた。
――――――――――
「以前にも少し言ったけど、この世界は鏡の世界………つまり、本来は存在していないわ。でも、魔王が魔界の鏡を触媒にして、創り出してしまった………とは言っても、完全に作る訳じゃなくて、世界の1部の地域だけね。恐らく、ここは西の方の地域……。」
「………なら、なんでわたしがいるの?わたしは東にいたけど……」
「鏡だからかしら。私もよくわからないわ。東にいる人が西にいて、北にいる人が南にいたりするのかもしれないわ。…ともかく、この世界の創造神は紛れもなく魔王で、この世界で最も力がある、支配者は鏡のせかいのあなたよ。」
そんな事言われてもなぁ…………
「鏡のルナは、創造神たる魔王に完全服従しているわ。命じられたの単純明快、『鏡の世界を支配しろ』それだけ。」
「うーん………よくわかんない。魔王は自分でこの世界を作ったのに、支配は自分でしない………そもそも、最初から支配できてるんじゃないの?」
「そんなことないわ。元の世界も、『女神が作った』と思われてるけど、別に100%の人間が女神に忠誠を誓っているわけじゃない。それに、この世界の人間はルナ以外みんな、ここが鏡の世界で、自分たちが作られた虚像だなんて認知していないわ。彼らにとってはこの世界こそが本物。」
ユイは遠くの海を見ながら早口で語る。それならそれで、疑問がある。
「じゃあさ、なんで魔王はわざわざこんな世界作ったの?だって、『わたし』がいたのも偶然でしょ?元々は、なんのため?」
「そうね、鏡のあなたが魔王の配下になったのはほんと偶然……あなたのような度を超えた無能がいるなんて魔王も読めなかったようね。」
「ん?」
すごい馬鹿にされた気がする。
「本来の目的は、『監獄』が欲しかった。魔王は本来の世界で障壁になりそうな人物を捕まえ、鏡の世界に送り込んでいたようね。例えば、世界統括団体の人間とかかしら。」
「…………閉じ込める意味は?こういう言い方アレだけど………魔王なんだし、邪魔なら………殺すくらいしそうだけど…………」
「さぁ?そこまでは私もわからない。まあ、いずれ直接聞いてみればいいわ。まずは、この世界から出る方法を探すこと。」
「もういいかしら。」
ユイは立ち上がり、崩れかけた家がある方に向かってあるいて行った。まあ、少しはわかったかな…………。
とにかく、明日からはここから出る方法を探す………でも多分、その方法は…………わたしを倒すしかなさそうだよね…………勝てるのかな………