女神の架橋
「わたしはもともとこの世界で生まれたから、この世界のことしか干渉できなかった………けど、いつの頃か、一体どうしてだかわからないけど……複数の他の世界にも干渉できるようになったの。もしかしたら、他の世界でも偶然わたしのことを願ったりしたのかしらね?」
「そのうちの一つが私の世界?」
「そうなのよぉ。最初見た時は驚いちゃった。見たことも無いものが沢山あって、大きい建物が沢山あって………とっても楽しそう。」
無邪気に言うイリスに対して、ユイは溜息をつき詰まりそうに返す。
「楽しくなんてないわ。人間、そうなったらそうなったで碌でもないことしかしない。それならいっそ過度な文化や文明なんて要らなかった。私のようなものが生まれないためにも。」
しかし、ユイのその言葉を無視して、イリスは続ける。
「でもその反面、世界の破滅を願う人々も、少なからずいたのよ。しかもね、その多くは自分の人生がつまらないから、嫌いな人がいるから、他の人が嫌な思いするのが嬉しいから……なんていう、歪んだもの。そんな歪んだ願いが、わたしの繋げた色々な世界で集まって………その結果、『破滅の女神』が生まれてしまったの。」
「……なるほど。だから双子………いや、破滅の女神の方があとに生まれたならいもうとの方が正確な気がするけど。」
「女神の感覚でいくと、数年数十年は一瞬なのよ。だから双子みたいなものってことよぉ。」
ふわふわと、間延びした様子で喋るイリスに対し、ユイはイラつきをあらわにし、伝える。
「もういいわ。要点だけ伝えて。あなたの話は無駄なことが多くて、なかなか真実が出てこない。私になにか頼みたいなら、それを率直に教えなさい。」
「あらあら………そうねぇ、もっとお話したかったけど、仕方ないわね。私がユイちゃんに頼みたいのは一つだけ。『破滅の女神を止めて欲しい』。あの子、最近信仰する人が増えたせいでどんどん力が強くなってきて、このままだと勇者も魔王も関係なく、世界が無くなっちゃうの。闇に支配されるより、もっと怖いのよ。なんにも無くなっちゃう。だから、あの子を止めて欲しいの。」
「……とめる、どうやってかしら。」
「そのノートを使って、とにかく最善だと思う方法を試していって欲しいの。そのノートは、『破滅の女神を阻止する』を最終目標に設定しているから、もし赤い大きな文字でそのノートに何かが書かれたら、真っ先に実行してくれるかしら?きっとそれが、世界を守るためになるの。」
「そんな力があるなら、あなたがやればいいだけの事。」
「それは出来ないの。女神は直接世界に干渉しすぎたり、自らの力を直接使って運命を変えてはいけないの。どうしてかはわからないけど、そうなってるのよ。だから、こうしてユイちゃんにお願いしているわけ。」
そこまでの話を聞き、ユイは諦め、答える。
「そう。わかったわ。これ以上話しても無駄ね。しょうがないからやるわ、やってあげる。ただし………私がこれを達成したら、その時は………私を殺して。いいわよね?」
ユイはその『瞳』で真っ直ぐイリスを見つめる。
「……それがユイちゃんの望みなら、止めないわ。……じゃよろしくね〜。」
そして、イリスは姿を消した。
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──────このノート従えば、私は………死を迎えることが出来る。
そして、ユイはアカシックノートに示されることを実行していき、赤い大きな文字で書かれたことは、何よりも優先し、絶対に行う…………たとえそれが、『世界を闇に包む魔王の配下になる』ことだとしても。
とある時、とある場所
「………破滅の錬金術師が裏切ったようね。」
ユイは残りのふたりの四天王に、そう告げた。アカシックノートには、スティアのことが詳細に現れていた。
「ふん………あんな脳みその腐りきった女、我は最初から信用などしていなかった。」
立派な椅子に座った少女が、背中に背負った刀を投げ捨てながらそう言った。
「なるほど。………あなたはどうかしら。このことについてはなにか思うことは?」
次に少女が声をかけたのは、部屋の壁にもたれ掛かり、興味無さそうにしていた黒いマントをみにつけた男。
「裏切り………か。俺には最も関係ない言葉だぜ。あーあ、でももったいねぇことしたわ。逃げられるくらいなら、俺の『術』でもかけてあげたかったね。性格は知らねぇけど、顔と体は悪くなかったろ?ははっ。」
趣味の悪い声で笑い、何かに納得するように1人でうなづくその男を見て、ユイと、もう1人の少女は声を出す。
「………あなた、やっぱり人としては最も無価値ね。」
「我らが貴様のような者と同列の扱いとはな。『アルカナの支配者』………全く理解が出来んな。」
しかしその言葉には全く動じず、男は答える。
「………話はそれだけか?だったら俺はもう帰るぜ?なんてったって、俺のことを待っててくれてる奴らがいるからな。………お前ら2人も、気が向いたら仲間にしてやるから安心しな。」
「断固拒否」
「ふん、これだから力に溺れた愚民は話にならん。我らが主から貰ってこの力、まるで自分の素質かのように振る舞う。自らの眼前に聳える、絶対的な力の象徴を忘れることのないようにするといい。」
が、その間に男……『アルカナの支配者』は姿を消していた。
「『俺はお前らと違って、最後の最後まで隠れさせてもらうけど悪く思うなよ』………よっぽど自分に自信がないのね。かわいそうなバカ。」
「………ところで、次はどうするつもりだ?」
少女は、椅子からおり、投げ捨てた刀を拾いつつ、ユイに近づき問いかける。
「アカシックノートが示すところによれば……………よれば………」
「ん?」
そこに示されていたのは。
『ルナと同行し、邪悪を滅する神器を全て集めることにより破滅の阻止はまたひとつ、近づく。』
───────さすがにこれはそのまま言えない。でも、魔王の配下になれっていたって思えば、次は魔王を倒す道具を集めろなんて、理解できないわね。
「アカシックノートによれば、私がルナ達に同行し、神器を見つけ次第壊す…こと。そうすることで、先手を打ち、勇者達もなすすべが無くなる。どうかしら、異論は?」
「…………ない。ならばその任務は貴様に任せ、我は我の世界の支配を完全なものにしよう。」
「わかったわ。なら早速行ってくるわ。……わかってると思うけど、しばらく戻らない可能性が高いわ。」
「心配するな。我1人でもどうにでもなる。」
「そう。よろしくね。」
そして、ユイはルナたちの元に向かった。
「…ふふふ………愚民はここにもいたようだ。おい、出てこい。」
「はいはい、お呼びか?」
ユイの居なくなったその場所で、少女と『アルカナの支配者』は2人だけで喋り始める。
「あの女………『私の家に先祖代々伝わるアカシックノートの力を使えば魔王様のお役に立てる』などと言い我らの仲間になったが………気がついているだろう?」
「もちろんな。あんなもん、この世に存在しているはずがねぇぜ。そうなれば、あれは異界、それ以外なら……神が作ったものってことだ。それなら、どっちにしても女神が関わっている………」
「つまり、あの女ははなから協力するつもりなどなく、あくまでも自分のために、我らや主を利用している。…貴様はそのような愚行、許せるか?」
「おいおい、許すって………そんなわけないだろ。ま、俺は最後まで隠れさせてもらう予定だし、まずはお前からいけよ、ルナ。」
「ふん、その名で呼ぶな。……まあいい、策ならいくらでも考えてある。今はその時に備えて、我が世界を完璧たる理想郷にしておくとしよう。」
「ま、俺はもう理想郷なんだけどな。」
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次からいつもの感じになります。