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異界に降り立ちし者

 ユイが目を覚ますと、そこは全く知らない森の中。先程までいた女神も居なくなり、手には本が握られていた。


「………異世界………本当かしら。」


 近くにあった池に自分の姿を移してみると、生前の最後の姿と全く変わらない。髪型や服装に至るまで、完璧………だが。


────この瞳は…なにかしら。


 そこに映る自分自身の『目』は、常軌を逸したような、正しく『狂った』ような瞳だった。それ以外が普段の自分と変わらないが故、更なる違和感を覚える。


「まあいいわ。それよりこの本………。」


 女神イリスから貰った『アカシックノート』。試しにそのページを開いてみると、数分後から数時間後までの未来と思われる事が細かに書かれていた。


「なるほど。これは不思議な本ね。………しかし、一体何をすればいいのかしら。」


 イリスは大切なことは言わずにユイをこの世界に送り込んだ。そして、ここがどんな世界なのかも全く説明していない。


 そうなれば、何も知らない少女が1人、右も左も分からない異世界で生きていくことすら簡単なことではない。たとえ未来を見るアカシックノートがあろうとも、未来は常に書き変わる。


「………わからない。とりあえず、ノートが示す場所に行ってみようかしら。」


 ユイはノートに示されていた町と、その方角を確認し、歩き出した。


―――――――――――――


「ここね。」


 たどり着いたのは小さな町。アカシックノートが示した未来は、ここで重要なことを知る……という抽象的なものでしか無かった。


「………そういえば。」


 町にたどり着き、ユイは気がつく。町の人々の話していることや、看板に書いてある文字、それられを全て理解することが出来る。見たこともない、聞いたことも無い言葉であるはずのそれは、まるで慣れ親しんでいた()()()のように、理解ができる。


「………………」


「あ、いたいた。」


「あなたは………。」


 声をかけてきたのは、他でもなく女神イリス。帽子とサングラスをみにつけていて、変そうでもしているつもりだろうか。


「一体どういうつもり?私はどこで何をすればいいのかしら。無責任すぎる。」


「そうねぇ〜、でも、これから話すから許してねぇ。」


「………はぁ。」


 相変わらずのペースに呆れながらも、ユイとイリスは近くの広場のベンチに座った。そして、イリスは語り始めた。


「見てのとおり、この世界はユイちゃんのいた世界とは全然違うの。あっちの世界にあったような車とか、電気で動く道具とか、通信ができるものは無いのよ。町の景色を見てもわかるように、建設技術も劣っているわ。でも代わりに、魔法や錬金術が発達しているの。そういう意味ではどっちの世界の方が優れているかなんて言うのは比べられないかしら。」


「………町の人の話を聞いていたら、『ドラゴン』や『サンダーバード』というモンスターについて話している人がいたわ。でも、それらの生き物は私の世界の人間がつくりあげた空想の産物。なのにどうして、全く関係のない異世界にそれが実在しているの?」


「んー………話すとすごーーーーーーい長くなるから、今度でいい?」


 イリスは『ね?』といい、ユイに向かって微笑む。それは、言い換えれば『めんどくさいから話したくない』とも取れる。


「それならまあいいわ。続けて。」


「それでねぇ、この世界実は今ピンチなのよぉ。」


「それを聞こえてきた……それに、アカシックノートも示した。この世界は魔界から表れた魔王の驚異にさらされている。このまま放置すればいずれ世界は闇にのまれる。」


「そうそう、そうなの。」


「……じゃあなに、私にそれを倒せってことかしら。」


 異世界の魔王を倒す…そんなことは。


「ううん、違う違う。魔王はいずれ勇者様がきっと倒してくれるわぁ。女神と勇者は全く関係のない存在だし、魔王とわたしも関係ないのよ。それより、実はもっと大変な事がおきそうなのよ。」


「魔王より大変なことなんてあるのかしら。」


「うんうん、あるのよ。『終焉の女神』………そういうのがいてね、それが大変なの。」


 イリスはとぼけたような声で喋りながらも、少しだけシリアスさを感じる声で続ける。


「私はみんなからは『始まりの女神』って言われてるんだけどね、『終焉の女神』はわたしと双子の女神なの。」


「対極なのね。あなたが世界を創った女神だとすれば、あちらは世界を壊す女神………。」


 しかし、イリスは首を振る。


「ううん、そうじゃないの。えっとねぇ………うーん………そうねぇ。何から話そうかしら………順番が前後しちゃうけど、『わたし』と『複数の世界』、それから『始まり女神としてのわたし』について話そうかしら。」


「………意味不明。」


―――――――――――――――――


「わたしはもともと、この世界で生まれたのよ。」


「…?世界を作ったあなたがこの世界で生まれた……矛盾してるように感じるけど。」


「あってるのよ。そもそも、世界を創る女神なんて、存在しているわけがないわよぉ。そんな力、無いもの。」


 イリスはあっさりと、それでいて大変おかしなことを言う。それでは、イリスは一体何者なのか。


「あなたは……何者なの。」


「『人間が作り出した虚像』かしら?わたしだって全知全能じゃないけど、この世界ができた時のことは()()()知ることが出来たわ。それによると、世界が出来たのは何も特別なことは起きてないみたい。ユイちゃんの世界と同じよ。最初にちいさーーい細胞があって、それが増えて進化して、いつの間にか人間になって、文化が生まれたの。世界を創る女神なんて居なくても、世界はできるのよ。」


 イリスは「でも」といい、続ける。


「人間は、北の地域のとある場所を見て、『ここに女神が降りたって世界を創ったに違いない!』って思うようになって、ありもしない、いもしない『女神イリス』を信仰したの。そしたらわたしが生まれちゃったの。こう、ポロって。」


 辺りに人がいないのをいいことに、イリスはとんでもない話を大きな声で喋る。それを聞くユイは、黙っていた。


 ─────宗教的な考え方はこの世界にもあるのね。


「そして、わたしは『世界を創った女神』として存在して、超常的な力も手に入れちゃったの。それで、たまに人のおねがいを叶えたりしてるんだけど………」


「?」


「ここから話すこと、少しだけ大切なの。寝ないでよく聞いてね〜。」


 気の抜けた声で、真面目な前置きをし、イリスはまた語りだした。



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