死の先にあったもの
しばらくこんな感じになると思います。
人は死ぬとどうなるのか。古来から数多の人間がそのことを思考をめぐらせ、あるものは期待し、あるものは恐れた。そして文明の中でその『好奇心』は同士をあつめ、新たなる文化が産まれることもあった。
しかし、その答えは永遠に知りえない。死後に何が待とうとも、故人の話を聞くことは出来ない。そんな世界で、人は生まれ、死んで行った。
そして、一人の少女――――ユイもまた、死を迎えた。自らの意思で。
――――――――――――――
「…………何故。」
ユイは呟く。自分は間違いなく、死んだはずだ。……普通に考えて、地面からはるか高くそびえる建物の上に立ち、頭から落ちて、生きていられるはずもない。しかし気がついた時は真っ暗な空間で、無傷で痛みもない体でその場にいた。そこがどこだかは不明だったが。
「………どこかしら。誰もいない………何も無い。ならばこれが死後の世界とでも言うのかしら。虚無………。」
─────だとしたら、呆気ない真実ね。
しかし、その考えをすぐに否定するように、どこからが声が響く。
「あら……あらら?だれかしらぁ………あなたは………」
「誰。どこかにいる?」
「うふふ、今行くからまってて。」
次の瞬間、辺りがいっせいに光に包まれる。しかしそこはなにか大層な場所だったり、人々が思い描いた様な思想の空間ではなく、どこにでもありそうな、テレビやベッドなどの家具のある普通の部屋だった。
そして、その部屋にある、これもまた普通の椅子に、妙な格好……植物のツルのようなものが巻きついたようなデザインの、青いドレス……の女性が座っていた。
「こんにちは〜。」
「………意味不明。」
気のぬけた明るい振る舞いをする女性の姿に、ユイは率直な思いをぶつけた。
「意味不明……そうよね、いきなり困るわよね。じゃあ順番に話そうかしら。」
「………私は死んだはず。なのにここは………」
「そうよ〜、ユイちゃんは死んでしまったの。残念よね。」
女性のその言葉に、ユイはイラつきを感じながら返す。
「違うわ。これは私が自ら望んだ結末。残念でもないし、続きも要らない。」
「ん〜…そう言われてもね。もう決まっちゃってるのよね。」
女性はどこからが奇妙な本を取りだし、嬉しそうに言う。
「決まり?なんの話し?」
「ユイちゃんには、わたしが女神として信仰されている世界に行って、やってきて欲しいことがあるの。もちろん、手助けもするわよ〜。はい、これ。」
そして一冊の本を受けとったユイは、適当なページをめくる。しかし。
「なにこれ。白紙じゃない。」
「うふふ〜………はい、これでどうかしら?」
女性が何かをすると、白紙だったページに文字が浮かび上がった。そしてそれはふとした拍子に違う内容へと変貌していく。
「『これで心が読めたり未来が見えるようになるのよ〜』………これはなに?」
「それは今のわたしの心の中。考えていることがそのまま映し出されたのよ。すごい力よね〜。」
「………あなたは一体何者………」
その質問を待ってましたとばかりに、女性は答える。
「人に呼ばせるのなら、わたしは女神かしら。名前は『イリス』。複数の世界を繋げたり、人のお願い事を叶えたりするのがお仕事……かしら。でも今回はちょっと特別。ユイちゃんにお願い事を叶えてもらおうかしら。」
「だから、意味不明。女神……だとしても、なぜ私?自ら望んで死んだ私が何故………」
「んー……だって、死にたくないのに死んじゃった人はダメなの。事故や病気で亡くなってしまった人は、それは避けらなかった運命。それはどんな形でも、異世界でもねじ曲げてはいけない。でも、ユイちゃんみたいな子は違う。この運命はまだ、いくらでも変わるのよ〜。そんな子達の中からユイちゃんを選んだのは、それは本当に偶然よ。」
「私に拒否権は。」
「ごめんなさいね、無いのよ。もし、お願い事が終わる前にまた死んじゃったら………どうなっちゃうか、私もわからないわ。もしかしたら無間地獄かも…………。」
「脅し……」
───でも、相手は女神……何が起きる分からないのは事実。
女神や異世界、未来や人の心を読み解くノート……そんなものの存在は、かつて1度も信じたこと無かったユイでも、この現状においてはいやでも信じる他なかった。
何の因果か、死した自分が異世界に送り込まれ、何かを成し遂げる……事実は小説よりも奇なり、という言葉を痛感するユイに、女神は語りかける。
「あとは………そうね、そのノート……アカシックノートに関しては、どこで手に入れたかは言わない方がいいわねぇ〜。その方が安心よ。」
「そう。それで、私はどんな世界で何をするのかしら。出来れば、現代の日本に近い世界がいいけど。」
「んー、残念ながら違うのよね〜。文明レベルも科学の発達も全然違うと思うわねぇ。ま、頑張ってね〜。時々様子見に行くからぁ。」
「ちょっと……」
ユイが口を開くより先、イリスは手をかざし、不思議や光を放つ。それを浴びたユイの意思は遠のき、直ぐにその場に倒れ込んでしまった。
─────まだ目的もなにも聞いていないのに。
そんな文句すら、言う隙はなかった。