女神の伝承
ユイと2人。どうしようかと考え広場で話し合った結果、とりあえず南向かえばいいんじゃない?ってことになり、早速出発することにした。まあいつか着くでしょ多分。
「…………なんか緊張するなぁ………」
必要な買い物だけは済ませ、街の外に出て並んで歩く。自分の隣に今いる女の子が自分の命をいつでも奪えるなんて、怖すぎて。
「………………」
「ねえ、暇だしなにか話そうよ。」
「別に私はあなたと友好的になるために同行するわけじゃない。無駄に口を開いて体力を使うことはしたくないわ。」
歩く時まで本を開いて、それに目を落としている。
「むぅ。」
つまんない。
「ねえ……」
しばらく歩き、もう一度話しかけてみた。
「浅瀬に仇波ってところかしら。あなたは意味もなく騒いでは中身のないことしか言わない。それなら自分の立場をよく理解して黙った方が身のため。」
「?」
難しい言葉使われてもわかんない……。
「『難しい言葉』……。あなたにとってはそうかしら。まさかよりにもよってあなたみたいななんの価値もないような人間が神器のことを知り、それを探すなんて。有為転変は世の習いなんては言うけど、アカシックノートすらも示さない未来もある………。」
「?」
何言ってるんだろ…
「私は使命をただ遂行する。その過程で無駄なことをするつもりはない。アカシックノートが示すならどんな事でもするけれど、示さないのなら例え私自身が必要だと思っても手は出さない。万物流転を見るアカシックノート、そしてそれを与えてくれたあのお方にだけ従えば私は道を外さない。」
喋らない、なんて言った割にはボソボソとだけどよく喋り、かつ歩くペースも特に落ちない。
「………つまんない。」
「……そう。せっかく答えてあげたのに残念。」
「違う!そんな人生つまんないでしょ!?」
「………なに。」
「ばんぶつ……なんとかはよくわかんないけど、未来も人の心も読める……それは便利。だけど、ただそれに従うってつまんない!それじゃ自分の人生じゃなくて魔王とアカシックノートの人生だよ?」
「…………」
「未来が見えたら、決まってたら楽しくないよ……あ、でも…うーん………わたしはシオンにクビにされる未来知ってたらどうしてたかな………まあそれはいいや。」
見えてたら何かしたかな?わかんないや。
「何を勘違いしているの、未来なんて決まっていない。」
「?」
「未来はあらゆる進化の可能性を秘めた生き物のようなもの。私やあなた、多くの存在の行動により常に書き変わる。………だいたい、『万物流転』ってそういう意味よ。『ありとあらゆる決まったもの』ではなく、『常に動き変わり続けるもの』。でも、あなたには難しい事ね。」
へぇ〜………。
それからまたしばらく歩き、平原はいつの間にか姿を変え、山のあいまを縫うような細い道になっていた。谷ってほどでもないけど、景色が変わるとやっぱり楽しい!
「女神……」
いつの間にか本をどこかにしまい、何も持たずに歩いていたユイが不意にそう漏らす。
「?」
「知ってるかしら、この世界の始まりとされる女神の話。」
「知らないし……むしろわたしが知ってると思った?」
「開き直りはやめなさい。」
怒られた…………。
「知らないのね、可哀想に。一体16年間も何をして生きてきたのかしら。」
「うーん……遊んでた………かな。」
「アホ。」
怒ってるようにも感じるけど、相変わらず感情が全く感じられない言い方だから、真意がわからない。
「女神は『始まり』を意味する。伝承においては女神はこの世界の濫觴を創り出した。それは何も無かったこの大地に産み落とされたひとつの希望とも、大いなる絶望とも言われる。………でも、それがなんであったとしても、たとえ開けてはならないパンドラの箱だったとしても、そこから全ては始まり、今に至る系譜になった。」
歩くことは辞めず、ユイはどんどんと喋る。
「だからこそ、そんな女神は信仰の対象とされるのは当然の事ね。そして、『普通』ならそれくらいは知っていそうだけれど。私ですら知ってる。」
「?」
どういう意味だろ……
「しかし、因果律は常にそれが正しいとは限らない。思い込みにより勘違いをすることも、それを認識できないが故に反転してしまうこととある。アカシックノートが示す未来や他者の心も、果たしてそれが真に正しいと言い切っていいのかしら。…………これはあなたには難しい話しね。」
「うん、全然わかんない」
「………喋りすぎたわ。」
「………ん?」
曲がりくねった歩きにくい道を歩いていると、曲がった先、なにかある………いや、あれは……
「人?」
「そうね、こんな所で1人で倒れてるなんて何があったのかしら。」
こんな時ですらあくまでも冷静にユイは言うけど、そんなこと言ってる場合じゃなくて!
「大丈夫かな!?助けてあげないと!!」
ユイの返事を待たず、わたしは倒れている人に向かってかけ出す、その時、ユイが後ろでなにか呟いた気がしたけどよく聞こえなかった。