万物流転
「私も同行するわ。あなた達と。」
「…………は?」
いきなり何かと思えば………いや、ほんとに何?
「アカシックノートは示した。そしてあのお方も仰った。………『さっき詐欺師から助けてくれてありがとう』………本当に人の話聞かないのね。そもそも、それなら口に出せばいい。」
またまた本に目を落として言う。
「いや、そうだけど……なんとなく。………それで、えっと……万物流転の観測者……」
「………ユイ。」
「?」
「名前。そう呼んで。」
「あ、うん。」
そして………ユイは、顔を上げてまた『瞳』をこちらに向ける。
「アカシックノートが示した。あなた達は神器を探している。それはあのお方にとってもっと排除すべき存在。しかし、神器の場所を私達は知ることが出来なかった。………だから、あなた達に同行し、神器を見つけ次第破壊する。………『そもそもアカシックノート見ればわかるんじゃないの』………それは違う。万物流転……全てのものの流れを司る力を持ってしてもわからない、だからこそ神器。……『じゃあ自分たちの力で探せば?手下とか沢山居そうだし』………そんな単純じゃない。」
ユイは本を見つめたまま、一人でしゃべり続ける。会話してないのに、会話が成り立つ……すごい変な感じ。
「単純じゃないの?」
「そう。そもそも神器は邪悪なものを払う目的で存在しているわ。それを邪悪そのもののな魔界の者たちが探しても自らのみを滅ぼすだけよ。でも私は違う。私は───────」
何かを言いかけた瞬間、ユイはわたしの手を掴み無理やり地面に向かって引っ張った。不意にそんなことをされたら、当然体はよろめき、地面に倒れる。そしてユイも地面に屈む。
「なにを……」
と、その刹那。さっきまでわたしの顔があった位置にすごい勢いでナイフが飛んできた。わたしの頭上を通過したそれは、地面に落ち甲高い音をたてた。
「!?」
「チッ………なんでバレたんだよ……」
立ち上がりナイフが飛んできた方向を見ると、さっきの店の人……詐欺師がいた。どうやら、投げてきたのはさっきの売り物のやつ見たい。
「万物流転を見通す私にとって不意打ちは無意味。…なんて話しているうちに、あなたはもうひとつ隠し持ったナイフをルナに向かって投げようとしている。でもそれは叶わない。」
ユイは挑発するような言葉をなげかける。そんなことを言われて、当然詐欺師も黙っていない。言われた通りにナイフを持つひとつ取りだし、こちらに向ける。
「あ?叶わない?戯言もいい加減に……」
詐欺師はナイフを持った手を後ろにふり、投げるかまえを取った。
「………忠告。前後不覚は破滅を招く。」
その言葉の直後、詐欺師は後ろにいた2人組の男に腕を掴まれた。
「なっ!?なんだてめえ!」
「何とは………自警団だが?」
「詐欺に加えて少女らにたいしてナイフを向けるとは………さあこっちに来い!」
そして、詐欺師は情けない声を上げながら連れていかれてしまった。
「………助けてくれたの?」
ユイは相変わらず、本を見たまま答える。
「結果的にはそう。アカシックノートが示す未来にはまだあなたが必要。……そしてこれは拒否権は無いわ。相談や交渉ではなく、確定事項。拒否するなら……」
そこまで言って、ユイは顔を上げこちらを見る。わかっていても、前髪から覗くその異様な『瞳』に見つめられると怖い。
「あなたが拒否をするなら、『合意』させるだけ。これ以上は言わなくてもわかるかしら。」
「こっわ………」
脅迫………かな。
―――――――――――――――
「つまり………魔王やその配下の人達では神器の聖なる力とやらに負けてしまう恐れがあるので、どういう訳かその力の影響を受けないユイさんが神器をさがす使命を受けたと。そして、せっかくなら元々探しているアリス達と一緒に探した方がいいと。………そして、見つけ次第破壊。………アリスたちの監視も兼ねているわけですか。」
しょうがなくユイと一緒に行動し、街の中の広場でアリスとスティアと合流した。話してみたところ、アリスは割とすんなり理解した。さすが、(一応)探偵。
…けど、スティアは当然そう簡単に行かない。
「はぁ!?なんでこいつがいるのよ!万物流転の観測者……嫌よ、なんでこんなのと一緒に行くのよ。そんなの、常に命狙われるのと同じよ?それに、そうじゃなくてもあたしこいつのこと嫌いだし。」
怒るスティアに対し、ユイはあくまでもたんたんと話す。
「そうかしら。変わらないわ。私がどこにいても、私はあなた達のことを常に監視できて、いつでも手をくだすことが出来る。アカシックノートがある限り、逃れるすべはない。それでも、まだ何かあるかしら」
「くっ………」
悔しそうに黙るスティア。そして、アリスが首を傾げて言う。
「それにしても不思議な服です………全く見た事も無いですし、誰が何の目的でどうやって作ったのか分かりません。」
まじまじと服を見つめながらそういう。やっぱり気になるよね………。
「そんなことはどうでもいい。」
服の話は無視して、ユイは歩き出す。もう行くつもり?
「待ちなさいよ!行くわけなでしょ!?どうしてもって言うならルナと2人で行きなさいよ!アリスとあたしは別行動よ!どうせ目指す場所は蒼海の入江なんだからいいでしょ!?」
「えっ!?なんでわたしだけ!?」
それはおかしいでしょ!?
「アリスは…本当はルナちゃんと一緒がいいです……けど、さすがに何を考えているかわからないその方と一緒に行くのは怖いです………ごめんなさい……」
そして、アリスはスティアの腕を掴む。
「えっ」
「じゃ、そういうことで。またそのうち会いましょ。必要なもんはルナにもある程度渡してあったから、平気でしょ?じゃあね。」
それだけ言って、2人は行ってしまった、アリスは最後までこちらを振り返って気にしてたけど、何も言ってはくれなかった。
「……ユイはこれでいいの?わたしだけで。」
「構わない。最終的に行き着く果てが同じなら何人いても変わりはしないわ。………もしあの二人がこのまま逃げようとしていたら消えてもらうことにはなるけど。」
…………そ、それは……まああの二人ならそんなことはしないはず。絶対、蒼海の入江まで来てくれるはず………!
「……………あ、ていうかわたし蒼海の入江の場所知らないけど、どうしよう。」
「……………アホ。」
困ったね。
スティアとアリスは今後もちゃんと出ます。