歩き出した今
眠くないような感じもしてたけど、ベッドに入ってみるとすぐに寝ていたみたいで、気がついたら明るかった。まだかなり早い時間だけど、予定通り出発することにした。
「お世話になりました!」
小屋を出る時、アリスは元気よく手を振り、言う。
「気をつけるんだな。……さて、オラは屋根の修理でもするかな。」
屋根……そうだ、昨日のこと、スティアに言った方が………いや
いいや。言ったところでなにかできるわけじゃないし、余計な心配増やしても仕方ない。
林を抜けると、昨日の場所に出た……けど、まるで様子が違う。シェルビートルはいなくなり、広々としている。昨日は視界が塞がってて見えなかったけど、ギリギリ見える場所に街らしきものが見えた。………なんだ、それなら昨日無理して通り抜けても良かったかも………なんてね。それにしても、あそこの街も大変だ。あんなでかい虫が近くに来ることがあるなんて。
「あ、昨日の人いるじゃん。」
林と平原の境界位のところに、世界統括団体の人がいた。ぐちゃぐちゃに倒れているテントを治しているところ。
「お兄さんどうしたんですか?」
真っ先に近づき、アリスが声をかける。
「ああ、君たちは………。実はね、ここで彼らの観察をしていたのだけど…………いやはや、虫とはいえあの大きさとなれば羽ばたく時の風圧も凄いね。テントごと吹き飛ばされてしまったよ。」
あはは……と笑いながら、手をとめずに言う。たしかにあの巨大が羽ばたくのは………むしろ、よく木が倒れてないって感じ。
「まあ僕のことはいいよ。………残念ながらほとんど何もわからなかったから、なにか他の調査しないとだし…………。何も結果を持ち帰らないと怒られるから………ね。」
………仕事って大変そう。
その言葉に従って、先に行こうとすると、背後から声をかけられた。
「あ、そうだ。これだけは言っておかないと。本部の方から昨日の夜連絡があったんだけど………ここ数日だけで、魔王の力がかなり伸びてるって。マウント・ローゼン周辺もかなり変化が起きてて、このままだとそう遠くないうちに世界中に大きい影響が出るかも………って。まあ、だからって個人レベルじゃあ何も出来ないけどね。じゃ、気をつけて。」
「はい、ありがとうございます!!」
「………」
歩き出してしばらく、スティアがずっとムスッとしてる。
「どうしたの?」
「別に。」
「………あ、もしかして、アリスがあの人と仲良くしてたのがくや」
ふと思いつき、言おうとすると
「……なに?」
冗談も言えなくなるくらい、圧のある声とすごい目で睨まれてしまった。
「す、スティア……ごめんて。」
――――――――――――――
そのまま歩いていると、あっさりするくらいすぐに街に着いた。何だ、ほんとにこんなにすぐだとは。
「どうする?」
街の入口の門の近くで一旦立ち止まり、3人で相談する。
「まあここに寄るのはいいとして………さすがに今日もここまでって訳には行かないわよね。買うもの買ったりしたらすぐ行きましょう。」
「そうですね………アリスのせいで昨日は進めなくてごめんなさい。本当はアリスなんて置いて行ってもらってもよかったですし何も気使わなくていいんです。だってアリスはい」
「わ、わかったわかった!平気だよ!置いてかないしアリスのせいじゃないから!ほら、行こ!」
ネガティブになりつつあるアリスをなだめて、街の中に入ることにした。入る前に見えた看板には『ジリス』と書かれていた。街の名前かな。
街の中は、そんなに広いって感じはしないけど、人も建物も多くて賑わっていた。3人で纏まってても効率悪いから、それぞれ別れて買い物をすることにして、アリスは食料、スティアは便利そうな、使えそうなもの……でわたしはなにか適当に良さげなもの。
「うーん………変なもの多いなぁ……」
色んなものを見て回っても、知らないものが多い。何に使うかわかんないものとか、どう見てもゴミにしか見えないもの。なにこれ。
建物とか、外壁とか、道とか街の全体の雰囲気は今まで行ったことのある街と大差ない。岩とかレンガとか木造とか。ただ、シオンたちと別れた近くの街『キンベル』と比べらと小さいし、依頼を受けらる酒場とかもないみたい。だから、出稼ぎにいく人も多いとか。逆に、商人は多い……何でかな?
「ちょっとあんた。いいかい?」
フラフラと歩いていると、露店をしている男の人に声をかけられた。
「わたし?」
「そうそう、きみきみ。」
そのひとは、帽子を深く被っていて顔が良く見えない。ボロい布みたいな服を着ていて古びた椅子に座り、木の箱の上に無造作に商品を置いてきて、本気で商売してるのかよく分からない。
「なんですか……」
「これ、買わないか?」
そう言って示したのは、商品の中では1番まともに見える綺麗なナイフ。
「ナイフ……」
形はどこにでもあるような普通のナイフ。
「そう、ナイフ。でももちろん、普通のナイフじゃあない。ほら、見てくれよ。」
そして、机にリンゴを置いた。男の人がそのリンゴに軽く、全く力を入れる様子なくナイフで触れると、リンゴは直ぐにまっぷたつになった。
「え!」
「まだまだ、次はこれ。」
続いて出てきたのはブヨブヨした皮のついた鳥の肉と、ものすごく硬い芋系の食材。これは石みたいに硬いから石芋なんて言われてる。
「ほいっと。」
………なのに、石芋も、ブヨブヨしていてなかなかきれない肉も、軽く触れただけでスパッと切れてしまった。
「すご……」
「そうだろう?なんてたってこのナイフは約400年前に存在してたって言われる伝説の鍛冶師『へスティ』ってやつが作ったんだ。」
「へぇ?」
知らない名前に首を傾げると、男の人は得意げに喋り出す。
「そいつの作るもんは全部とんでもない力を秘めていた。刀や剣を作れば龍の鱗も岩もバターみたいにスパスパ切り裂くし、盾を作れば金属固有の融点すらも無視した高温に耐えきれて、鎧を作れば馬鹿みたいに軽いのに、どんなモンスターの爪も牙も通さなかったと言われてる。まったく、どんな術を使いやがったんだか。」
「すごい!」
男の人は愉快そうに笑い、続ける。
「それでだ、このナイフにそういう力がある。まあとは言っても所詮はナイフだ。さすがにモンスターを切り裂いたりは出来ない。でも、この綺麗な装飾や400年前の代物ってことを考えれば十分な形があるだろう?そこで……だ。本来15万するところを特別に10万ルピアでうってやろう。どうだい?」
「う、高い……」
「これでも安いんだけどな。ま、いいさ。じゃあ他の誰かに売るだけだ。」
うぅ………それも悔しい。せっかく安くしてもらったし、それに……お金が無いわけじゃない。例え10万出したとしても、それ以上の価値は絶対あるとは思う。石とかも多分切れるでしょコレ。スティアの錬金術でも作れないと思うし、アリスもきっと喜ぶ。
「どうする?」
男の人は古びだ木の椅子をギシギシと揺らして、わたしに問いかけてくる。うーーーーん…………
「よ、よし、それ……かいま」
「過去400年の克明な歴史を振り返っても世界中どこにも『へスティ』なんて鍛冶師は存在していないし、そんな伝説も残されていない。それに、そのナイフの様式はどう見てもここ数十年のもの。400年前のナイフは全て『諸刃』だった。故にそのナイフはなんの力もないただのガラクタ。その証拠にリンゴも肉も芋も最初から切れ込みが入っていたわ。そもそも商売人が顔を隠す時点で自らが詐欺師だと名乗っているようなもの………なのにそれに騙されとは………さすが、アカシックノートが示さないだけのことはある。アホね。」
「えっ」
早口でボソボソと喋るその声、そして『アカシックノート』………いつの間にか、わたしの横には『万物流転の観測者』がいた。
相変わらず本に目を落とし、怖い目をしている。
「え、詐欺師?」
「『何だこのガキ……せっかくのカモが逃げちまうだろうが』………なるほど、素直ね。」
すると、男の人は慌てて商品を片付け
「な、なんだお前!人様の商売邪魔しやがって!クソ!」
といい、言ってしまった。
「明後日くらいかしら、あなた捕まるわよ。残念。」
何が何だか分からず呆然としていると、『万物流転の観測者』は本を持ってない方のて……左手でわたしの腕をつかみ、
「きて」
とだけ言い、どこかに引っ張ってく。
―――――――――――――――――
「な、なんなの?」
『万物流転の観測者』は片手に持った本を見ながら、わたしの手を引き上手く人混みを避け、人気のない路地まで来た。そして、顔を上げる。
「…………………」
…しかし、彼女は何も言わず、ただその『狂った瞳』でわたしのことをじっと見つめ、微動だにしない。試しにふざけたことを考えてみるけど、全く反応しない。………意図がまるでよめない。
そしてそのまましばしの時がながれ、ようやく彼女は口を開いた。
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