回想
自分が居なくてもパーティが成り立っている……それを見て、近くの町に帰るまでの間、わたしは今までの事を思い出しながら歩いていた……。
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「勇者?」
あの日、田舎でなんにもない村に、シオンが訪れできたことでわたしの人生は動き出した。
村の噂で、勇者が来てるって聞いて、探していた。
「勇者って……あの?」
田舎のわたしでも知っていた。勇者っていうのは世界を支配しようとしている魔王を倒す、すごい人だって。魔王が世界に現れてからというもの、少しづつ、でも確実に世界は闇が広がり、魔物も増えている。このままじゃだめ……でも、普通の人には何も出来ない。
「勇者……もしホントにいるなら…」
わたしは別に何も不自由なく暮らしているけど、できるものなら世界を旅したいと思っていた。だから、村に来ているというシオンを探していた。わたしの回復魔法があれば勇者を支えられる、そう思って。
「勇者……っうわ!あ、ごめんなさい……」
そんなんで、周りがちゃんと見えてなかったわたしは、人とぶつかって……でも、それが。
「ん、ああ……別に気にすんな。」
その顔を見て、すぐに感じた。この人だって!
「勇者!」
「お、おう……そうだけど……なんか用か?」
「わたしも一緒に旅したい!!」
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まだ他の仲間もいなかったこともあり、何とか無理やり仲間にしてもらい、わたしは旅に出た。知らないことがたくさんの広い世界で、色々なことを経験した。
「なあルナ…」
「ん。なに?」
「お前さ……その歳まで何してたんだ?」
「何って……村の子達と遊んでたよ。わたしは村で1番お姉さんだから!」
「はぁ……まあいいや……。明日までに次の街着くように歩けよ。」
「えー!疲れる!」
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なんだかんだと言いながら、旅を続けてしばらくだった頃。とある依頼で、『サンダーバード』という魔物を退治しようとした時のこと。
「ルナ、お前自分の役割わかってんのか!?」
後ろでウロウロしてると、不意にシオンが叫ぶ。
「回復でしょ!」
「わかってんならさっさとしろよ!サンダーバードは今の俺一人で斬り続けても勝てる相手じゃないんだよ!勇者の剣があればまだしも、今は……!」
「いや、してるけど……?」
「え?」
「え?………し、シオン!まえ、前!!」
わたしの方を一瞬振り向いたシオン。その隙に、サンダーバードは巨大な翼で羽ばたき、一筋の閃光をシオンに向けてはなった。
「……っ!」
「危ないっ!!」
シオンにあたるその瞬間、その前に誰かが現れ、盾でそれを受け止めた。
「大丈夫ですか!?」
白銀の鎧を着て、黄金の盾を構えた、その誰か……ルルちゃんは、こちらを振り向き……シオンに合図をする。
「……誰だか知らないが、助かった!よし、一気に攻めるぜ!」
「はい!協力しますよ!」
そして、2人は一瞬でサンダーバードを倒した。これがルルちゃんとの出会いだったなぁ。
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「ルルちゃんはどうしてあんな所にいたの?」
3人で旅をするようになって、そういえば……と思い、きいてみたことがあった。
「私は、サンダーバードを元々追いかけていたんです。あの個体は特に凶暴で、何とかしないといけないと思っていたんです。」
「ほーん……じゃあ偶然俺たちがいたってだけで、もし居なかったら1人で倒せてたのか?」
「どうでしょうか……私は護りの方が得意なので、1人ではちょっと厳しかったかもしれないません……」
たしかに、ルルちゃんは立派な盾と鎧を装備している。レイピアもあるけど、剣と比べると威力は落ちる。
「護り…か。ってことはお前、騎士なのか?」
「はい!わたしは聖騎士です!故郷の街で1番のパラディンだって、みんなから言われてました!」
「へぇ〜!わたしより年下なのに凄い!しかも女の子なのに!」
「パラディンナイトには性別も年齢も関係ありません。強い者が弱いものを護る。それが掟です。そして、その中でもいちばん強いものは、『世界を守る』使命があります。」
「世界を………か。」
「はい!なので、世界を救う勇者様を守ること、それがすなわち『世界を守ること』に繋がるわけです!なので、頑張ります!」
「うん!よろしくね!わたしは回復専門だよ!」
「なるほど……ルナさんは回復魔法が得意なんですね。」
「そそ、任せてね!」
「どの口が言うんだよ……」
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そして旅を続け、たどり着いたのがわたしが住んでいた村よりさらに田舎……というかもはや、谷。谷の下にあった集落。そこで出会ったのが……
「あっ!!勇者シオン!?」
集落について直ぐに、青い羽衣を身につけたポニーテールの少女に声をかけられた。それがメルリア。
「おい……なんで俺の事知ってんだ?」
「知ってるよ!生まれた時からずっと!私はそういう運命!だからこれからよろしくね!」
「か、変わった人ですね……?」
「何者……?」
「私は賢者!ずぅっと昔の大賢者の生まれ変わり!だから、勇者と共に魔王を倒すの!そう決まってる!」
「お、おう……?」
その集落で詳しく話を聞いたところ、まあとりあえずそう言う伝承が残ってるとの事。
伝承によると、かつて存在していたという大賢者は、『未来視』の力があり、後世で魔王が世界を支配しようとすることを知った。そして、それに備えて自らの力を未来に託し、その命を絶った……。それが時を超えて、『メルリア』としてこの世に誕生した。
そうなれば拒否する訳にもいかず、一緒に旅をすることにした。成り行きでの仲間だったけど、メルリアの魔法『スーパーノヴァ』初めて見た時はめちゃくちゃ驚いたよ。
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「いけぇ!スーパーノヴァ!!」
記憶にある中でも特に凄かったのは、冗談じゃなく、小さい山を吹き飛ばした時。
「えっぐいな……お前の魔法。 」
「さ、流石の私もこれは受けられませんよ……」
「メルリアすごい!」
どうしても通過しなきゃ行けないって場所に、『影毒虫』っていう恐ろしい虫が繁殖していた時があった。その虫は、影みたいにこっそり忍び寄ってきて、体に着いている小さな針を人間に差し込む。すると、そこから毒が入り、早いと1時間もしないで死んでしまうこともある。勇者もパラディンも関係ない。
だから、メルリアが思いきって山ごとぶっ壊した。後々聞いた話だと、その虫はその山でだけ大繁殖するらしい、近隣の人も助かったらしい。
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「いつの間にか仲間も増えたな。俺は勇者だからいいとして……賢者にパラディン……となるともう1人くらい剣使う奴がいてもいいよなぁ。」
「ですね。バランスが良くなります。」
「私も賛成!」
………ん?今思い返すと、わたしこの時点で…………???
そして、旅の途中で通りかかった霊山、そこで戦っていた狼みたいな魔物『フェンリル』。そいつと戦ってる時、アルト君と出会った。
「くっ……ただの犬みたいなくせに強いじゃねぇか……!」
「犬じゃなくて狼だよ!」
「そ、そんなことはどうでもいいですよ…!」
わたしの前で、3人が1匹のオオカミに翻弄されている。フェンリルは素早く動き、キバと爪で激しく責めてくる。ルルちゃんがなんとか盾で受け止めるけど、いずれ限界が来そう。
「おい!ルナ!見てないで回復!」
「してるんだけどなぁ……」
「なんでお前の魔法範囲1人だけなんだよ!効率悪すぎんだろ!?」
「こ、このままじゃ護りきれませんよ……!」
「んー!動きが早すぎて魔法が当たんない!」
と、その時。一瞬でフェンリルの体が真っ二つになり、そのまま吹き飛んで行った。
「……え?」
「災いをもたらす大いなる獣よ……我が獄炎の剣の錆となるがいい……。」
アルト君。初めて見た時は危ない人かと思ったけど、全然そんなことはなかった。すごい強いし、剣も魔法も上手。
そんなわけで、わたし達5人は一緒に旅をすることになった。
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「ね、アルト君。」
アルト君も馴染んできた頃、きいてみたことがある。
「なんだ?」
「アルト君さ、なんでそんな喋り方なの?変わってるって言われない?」
「……お前さぁ…」
「ふ、別に隠すことでもないから教えてやる。オレはこの剣に誓った。世界を闇にとざす邪悪な王に引導を渡すと。これはその誓の形だ。」
「………????」
「アルトさんって不思議な人ですね……」
「んー……ま、強いからいいよね!おっけぃ!」
「それにしても……ルナ。お前のその刀は一体なんのためにある?オレから見ればかなりの業物だが……それを振るう姿を1度も見たことがない。」
「あ、これ?これね、パパから貰ったの。わたし刀なんて振るったことないから使えないよ。でもかっこいいから持ってる!」
「…………ふん、好きにしろ。」
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「……思い返すとたしかにわたし何もしてないじゃん…」
悲しい事実に気がついた頃、ちょうど街にたどり着いた。