友達の友達
「お前さんたち、暇なんか?」
隅っこで震えるアリスをなだめていると、ビッドさんがまた声をかけてきた。
「まあ、足止めされちゃったから暇かな……。アリス怖がっちゃってるし。」
「まああたしたちもあんなでかい虫の近くなんて通りたくないわよ。………で、何か用かしら?」
「んまあな。無理にって話しじゃないんだが、もし良ければ林の中にある食材を見つけてきて欲しいんだな。お前さんたちが今日ここに滞在するんなら、それ見つけてきてくれれば料理してやるぞ。もちろん、値段はそのままでだな。」
そして、ビッドさんは絵と説明が書かれている紙をくれた。いくつかの素材が書かれていて、これを探して欲しいとの事。
「暇だしわたしはいいけど……」
「あたしも行けるわよ。」
「あ、アリスは嫌です………お外に出たらいつどこにあれがいるかわかりません。今日は絶対お外には出ません。」
完全に怯えちゃってる。これじゃあアリスは無理かな。
「じゃ、わたし達だけで行く?」
「そうね、どうせ暇だし他にもなにかいいものがないか探してみましょう。」
「よし、頼むぞ。暗くなる前には戻ってくることだな。」
――――――――――――
渡された紙を見ながら当たりを探索する。頼まれたものは、傘が大きくて丸っこい形のキノコ、背の低い木になる青い木の実、それから…………
「なによこれ?」
最後のひとつは植物じゃなくて、どうみても魚。詳しく書いてないから名前は知らないけど、見たことある。多分どこにでもいるし特別でもなんでもない魚。
「こんなのどうしろって言うのよ。あとのふたつはいいけど、魚なんて簡単に取れるわけないじゃない。」
他のふたつを探しながら、スティアは文句を言い続ける。
「錬金でつくれる道具でなんかないの?簡単に魚が取れる網とか。」
「あのねぇ……」
スティアは足を止め、わたしの方を見る。
「錬金術っていうのはなんでも作る便利屋じゃないのよ。あたしが作るのは日常生活で使うものとかクスリ、それから旅に使える道具とか、それなりに戦闘用道具よ。ひとまとめに『錬金術師』なんて言うけど、何でもは出来ないわ。」
「そうなんだ……」
「そりゃあ探せば魚を摂る道具に特化した人もいるかもしれないし、『ドレッド・ブレード』みたいにものすごい武器専門の人もいると思うわ。でも、それはそういう勉強をしてきたからできるのよ。……例えば、『医者』なんて言っても専門分野は沢山あるわよね?それと同じよ。」
「なるほど!わかった!」
「ほんとかしらね。ま、いいわ。…………で、結局魚はどうするのよ。」
「うーん………まあ、居そうな場所見つけてから考えよっ。」
その後も林の中を探索していると、ふたつの素材は割と直ぐに見つかった。キノコも木の実も綺麗な形で大きくて美味しそう。スティアが用意してくれたカゴにそれらを入れて、あとは魚だけ。
「ねえ………思ってたんだけど、あんたのポーチどうなってんのよ?物理法則ぶっ壊れてない?」
「ほぇ?」
因みに、スティアはちょっとしたリュックみたいなものを持っていて、その中に錬金術で作った道具を入れているみたい。めちゃくちゃ小さいけど開くて大きいかごになるものとか、そういう便利なものが沢山。
「わたしのこれはこう見えて沢山ものが入る魔法のポーチ!メルリアっていう子に作ってもらったよ!魔法らしいけど、仕組みは知らない。」
「魔法ってそんなことも出来るのね………。って、そういえばあんたってアリスと会う前は何してたわけ?一人旅?」
「おっと、それを聞いちゃいますか……?」
「な、なによ!話しなさいよ!」
ちょっととぼけただけでスティアは怒る。そんなに知りたいんだ。
「じゃ教えてあげる。ついでに、誰が悪いかも考えてみてよ。」
――――――――――――――
「いや、それは180%あんたのせいよ。」
魚のいそうな場所を探して歩きながら話してみたけど、やっぱりわたしが悪いという結論。
「やっぱりそっか〜」
「当たり前よ………でも、勇者と一緒に旅してたのは凄いわね。…………あれ、でも魔王は『勇者は最大でも4人パーティなはず』って言ってたけど。それとは別で、アリスとルナってやつが神器を探しているって聞かされたわ。」
「あ、わたし魔王からも戦力外だと思われてたんだ。」
「まあ、あんまり期待しないでおくわよ………あ。」
「お、池!魚!」
林の中、遠くにある水面が目に付いた。
駆け寄ってみると、結構大きい。しかも、かなり透明で魚が泳いでいるところまでよく見える。指定された魚も沢山いる!
「綺麗ね………とは言っても、どうやって捕まえるのよ。」
「もちろん、わたしの釣り………あ、いや……そうだ!」
もっと楽にできる方法ある!
「セーラ!!出てきて!」
「なに急に……?」
すると直ぐに、泡がたち始めて水面からセーラが顔を出した。
「……お、めっちゃ綺麗だなここの水。またお湯だったぶっ殺そうと思ってたけど今回はあり。」
「やっぱり綺麗だといいんだ。」
「当たり前だろ。最近は特に原種が自然破壊しやがるから綺麗なところが少ないって言うだろ。他人事だと思うなよ?」
相変わらずの口調だけど、セーラは少し嬉しそう。果たしてこれは綺麗だからなのか、わたしに会えたからなのか……!?
ていうか、セーラはわたしのことまだ原種だと思ってるんだった。後で教えてあげよっと。絶対驚く。
「ちょ、ちょっと!?なによこの子?誰?どっから出てきたの?」
いきなり現れたセーラにびっくりして、少し後ろにさがりつつスティアが言う。
「あ?誰こいつ?あの混血がいないと思ったらまた変なの増えたの?」
それに対して、相変わらずの喧嘩腰のセーラ。
「なっ!初対面でいきなりなによ!?何様のつもりよ!」
あー………この2人はちょっとまずかったか……。
「何様?それはこっちのセリフだアホ。何も知らないでのうのうと生きて……」
「……ってあら、よく見たらもしかして………魚人かしら?」
「は?知ってんのかよ?」
「魔王のとこいた時に種族のことは聞かされたわ。魚人やら天人やらなにやら………。」
「魔王のとこいた?お前何者?」
険悪すぎる………ダメ!
「待って待って!!セーラ、お願いがあって呼んだの!お魚取ってきて!!お願い!!ダメ!?」
バケツを用意してセーラにお願いする。
「別にそれくらいいいよ。………わかった、そのメモにあるやつな。すぐとってくる。」
そう言ってセーラは潜水する。中を覗くとすごい勢いで泳ぎ回って手で魚を捕まえてる。
「さすが魚人ね。あたし達には絶対無理だわ。」
すると、直ぐにセーラは飛び出してきて、数匹の魚をバケツに投げ込んだ。
「これで満足だろ?……なんかそっちの高飛車女ムカつくから帰る。じゃあな。」
そして、また潜る。
「なっ……」
…………ほんとに帰っちゃった。水の中を覗いても、セーラはいない。
「ちょ、ルナ………あいつ何よ?どういう関係?」
「うーん……まあそういうもの…ってことで。」
「はぁ?」
説明するにしても、アリスがいる時にまとめて説明したいから適当にはぐらかす。
「それよりほら、見て!魚!これで全部揃った!」
バケツの中には魚が数匹の入っている。持ってみると、まあ持てないことも無い重さ。
「そうね、戻りましょうか。」
――――――――――――
せっかくだから来た道ときとは少し違う道を戻っていると、スティアが急に立ち止まる。
「ん、なに。」
「止まって………何かいるわ。」
そう言われても、何も変わった様子は見えない。他の場所と同じ、木々が生えていて草が生い茂り、キノコとか生えてるだけ。虫も特にいないし、動物も小さい鳥くらいしかいない。
「どこに何がいる?」
スティアはわたしを無視して、地面にかがみ込む。長くて綺麗な髪が地面についても全く気にする様子はない。
「どこかしら………どこに………」
「……?」
と、その時目の前の地面がひび割れ、中から何か出てきた。
「うわっ!?」
「こ、ここにいたのね!危なかった……もう少しで踏みつけるとこだったわ!」
出てきたそれは、白っぽい体で直方体の体にゴツゴツした岩のような手足が着いている。顔は………どこ?
「な、なにこいつ!」
「……『お豆腐ゴーレム』……?」
「何それ………」
かわいい……
「いや、正式名称じゃないけど………なんか豆腐っぽくみえるゴーレムっぽいモンスターだからあたしが勝手に呼んでる。」
お豆腐っぽいゴーレムっぽいって………実際はなんなんだろ?
なんて考えてると、ゴーレムは(たぶん)こちらを向いて、唸り声を上げた。
「なに……?」
「こ、これは………敵対視されてるわね………!多分ここはこいつの巣……それを踏み荒らされると思って怒ってるんだわ!」
と言い終わった直後、ゴーレムは近くの木を殴り、こちらに倒してきた。
「危なっ!?」
カゴとバケツも何とか守り、それをかわす。
「逃げる………方が危険よね。背中向けたら何されるかわからないわ……!」
「ゴーレムはモンスターなんでしょ?わたし達で倒せないかな?」
唸り声を上げ、今にも殴りかかってきそうなゴーレムを見上げ、スティアにきく。
「『達』っていっても、あんた何も出来ないでしょ!?いいわよ、あたしが倒すからあんたはそこで見てなさい!せめてバケツとカゴ、ちゃんと守ってよね!」
「あ……」
スティアはゴーレムに向かって走り出す。そのまま向かうと、ゴーレムがでてきた穴があって危険だから少しそれて、誘導し、リュックから短い棒を取りだした。
それはドレッド・ブレードみたいに伸びて、綺麗な杖になった。
「東の地域は他と比べて火山が多い………それならきっとこの辺りなら………!」
ブツブツ何か言いながら、スティアは地面に杖を突き刺し、叫ぶ。
「地脈に眠る熱き流れよ……あたしの力とともに目覚めて!『霊脈活性錬金』!」
スティアはそのまま杖になにか液体をかける。そんなことしている間にゴーレムはスティアに近づき、岩のような腕で今まさに杖諸共殴りかかろうとしていた。
「危なっ……」
「いけっ!」
その瞬間、スティアの杖を激しい火柱がつつみ、殴ろうと手を伸ばしていたゴーレムにもその炎は届く。岩のような体や腕だけど、炎には弱いようでよろめきながら苦しそうに呻き声を上げている。
「これでトドメ!」
スティアはその燃え盛る炎を手で掴み、ゴーレムを逆に殴りつけた。
「おぉ……」
その一撃でゴーレムは倒れ、そのまま動かなくなった……。
「え、かっこいい!なにそれなにそれ!火の魔法!?なんで素手!?」
ちゃんと忘れないようにバケツとカゴを持って、まだ少し燃えているゴーレムの火を足で踏んで消しているスティアの元に近づき今の魔法?について聞いてみた。
「違うわよ。『霊脈活性錬金』。」
「?」
「霊脈……地面にある地脈の中でもより一層力が強い流れ。そこに流れているマグマなんかに対して、地面に突き刺した杖を通じて力を送る技よ。魔法じゃなくて、あくまでも錬金術。杖にかけた薬を触媒にして、即席で地面の奥底に眠るマグマと連勤をして、あたしの力として一時的に使う。でも、これは火山の多いこの地域だから出来たこと。素手でもてたのもかけておいたクスリのおかげ。一時的に被膜を作って、その部分だけは熱を通さないようにして……って感じ。もちろん、周りは燃えてるから普通に熱いけど。ともかく、あたしの住んでいた北の地域じゃ全く使えない技ね。…………理解した?」
………………………
「理解した!!完璧!超わかった!」
「ふーん…じゃあ説明してみて。」
興味無さそうにして、ゴーレムの残骸を弄りながらスティアに言われてしまった。
「あー………うん。そのうちするよ。」
「……まったく。分からないならそう言いなさいよ。別に怒らないわよ。………あんた16歳よね?………全然年上って感じしないわよ………」
「え、身長わたしの方が高いけど。」
「……もういいわ、行くわよ。」
ゴーレムから何かを拾い上げ、あとは放置してスティアは歩き出す。
「まって!置いてかないで!」
なんで怒ってるのかな?
地脈とか霊脈に関してはガバガバなんで事実とは異なる部分があるかもしれません。