ラブアリス
「……やっぱり、ルナちゃんです。この心は揺らぎません!ごめんなさい………スティアちゃん。」
アリスは深く頭を下げて、それからわたしの方に来て手を握る。
「アリスは………嬉しかったです。嘘だとしても、必要だと言ってくれて……あと、なんかかっこよかったですよ。ユニコーンのやつ。」
「えへへ………あ、じゃあ……トカゲのしっぽあげよっか?」
「いらないです……」
「そっか………」
その様子を見ていたスティアは、諦めたように言う。
「もういいわ………アリスがそこまでそう言うなら、あたしの負けよ。」
そして、いつの間にか手元に戻っていた杖を振ると、あたりの景色は元に戻った。
「負けって………いいの?魔王に命じられてるんでしょ?わたし達のこと………」
「そうよ、神器を集める2人を殺せ………そう言われたわ。でも、よく考えたら出来るわけないじゃない。あんたはどうでもいいけど、アリスを殺すとか、ありえないわ。」
スティアはその場に座り込んで続ける。暗くなり始めた草原で俯いているから、その顔ははっきりと見えない。
「そもそも、魔王様………いや、魔王なんかに手を貸してたのが馬鹿らしいわよ。何を血迷ったのか………過去の自分を殴ってでも止めたいわ。そのせいで、あたしのせいで亡くなった命もあるってのに………」
「スティアちゃん……」
アリスは近寄り、目線を合わせて優しく声をかける。
「教えてください………スティアちゃんはどうして魔王なんかに協力してたんです?アリスみたいなダメで使えない子と違って、なんでも出来るスティアちゃんがどうしてそんなことを……」
「あんたから見ればあたしはそう見えたかもしれないけど、違うわ。あたしは『まだ足りなかった』。錬金術師として、もっと力が欲しかった………だから目をつけられた。あいつはあたしに『人のなし得ない錬金術の力を与える』なんて言ってきたわ。もちろん、最初は断った……でも、あたしの心の弱さが………ダメだったわ。」
アリスから聞いていた話だと、スティアの錬金術師としての腕は凄いらしい。だから多分、その力、それからもっと力が欲しい……そういう所に目をつけられて、利用された………とか?
「魔王は確かにあたしに力をくれた。……周りの生命力を触媒にとんでもない道具をつくる禁術『破滅の錬金術』。あたしはそれを使って色んなものを作りながら………たくさんの命を奪ったわ。これはもう変えようのない事実。その力に気をよくしたあたしは魔王に協力して、邪魔になりそうな奴らを潰したりしてたのよ。そして与えられたのが『四天王 破滅の錬金術』なんて馬鹿みたいな肩書き。」
「え〜…四天王とかかっこいいのに……わたしも『癒しの女神 ルナ』とかつけて欲しいし。」
「………アリス、こいつ馬鹿なの?」
スティアはため息をついて言う。
「う〜ん………難しい質問です。」
「……でも、アリスと改めて話してわかった。やっぱりこんなこと間違ってるって………。たくさんの人に迷惑かけておいて今更こんなこというの、都合がいいって分かりきってるけど、それでも………あたしはこんな力捨てて、自分の力でもっと錬金術師として強くなる………そしていつかは………」
いつかは………と、その後に続く言葉は言わず、スティアは立ち上がり、こちらに背を向けてから言う。
「じゃお別れね。次に会う時は真っ当な人間になってることに期待しててよね。……アリス、またね。」
そして、持っていた杖を地面にたたきつけて折った。多分、あれが魔王から貰った力の源………だと思う。それを捨てたってことは、決別の証。自分で歩む決意。
「ま、待ってください!!」
アリスは駆け出し、スティアの腰に抱きつく。
「ぐえっ」
「どこ行くんですか!?」
「どこって……どっかよ。一瞬、短い時間とはいえ世界を敵に回して、人を殺めたあたしに行く先があるかわからないけど………。」
「世界を敵に回したとか、そんなことアリスには関係ないんです!スティアちゃんはスティアちゃん!アリスを置いてどこかに行っちゃダメです!アリスはひとりじゃ何も出来なくて弱くて寂しがり屋で怖がりでおバカさんで方向音痴でお料理も下手でなにも出来ないんです!………ルナちゃんがアリスのことを必要って言ってくれたのと同じで、アリスにはスティアちゃんが必要なんです!!どこにも行かないでください!」
アリスは泣きながらスティアに訴える。
「アリス………」
「………なんか、死ぬ間際みたい。」
「何言ってんのあんた………。」
決別した2人が和解したらそのあと死ぬとか………無いか。
「スティアちゃん!アリスたちと一緒に行きましょう!ね、ルナちゃん、いいですよね?」
「え、あ、うん。わたしは別にいいけど。」
「……なに、本気?あたしなんかがいていいの?多分、あたしが同行したら今以上に危険よ?」
スティアはこちらを向き、腰にしがみついていたアリスは剥がしながら言う。
「なんで???」
「今のあたしは多少なら魔王側の事情も知っている………まさか魔王もこんなすぐあたしが裏切るなんて思ってもなかったでしょうし、気がつき次第潰しに来るはずよ。だから、魔界のモンスターに襲われる機会も増えるはず………いいの?」
「まあ、なんとかなるでしょ。」
「はい!平気です!」
「はぁ……ほんとお気楽おバカコンビね………でも、」
そして、スティアはとびっきりの笑顔で言う。
「ありがとね」
日が落ちかけた草原でも、その顔ははっきり見えた。
―――――――――――――――――――
「じゃ、せっかくだし知ってること教えてあげるわよ。」
少し歩くと、完全に日が落ちてしまってのでその辺で適当にテントを張り、休むことにした。
暇だし、スティアの知ってることを聞きつつ、これからのことも考える。
「魔王軍…なんて言ったけど、明確になにかあるわけじゃないのよね。あたしを初めとした『四天王』と、数体の強いモンスター……それ以外はいわゆる『雑魚』どもよ。とは言っても、その雑魚もこっちの常識で考えれば強いけど。ルナなら知ってるでしょ?『グールドレイク』……だっけ?あれも雑魚よ。」
え
「あのベビ?」
「そうそう、あのキモイ蛇よ。」
スティアはサラッと言う。
「えーー!!!!!」
「うるさいわよ!」
そんなに広くないテントの中、声が反響する。
「ルナちゃんしってるんです?」
「うん、めちゃくちゃ強かったのに。超苦戦した。」
「だから、そのレベルのやつなんて無限にいるってことよ。覚えておきなさい。……あとは、ほかの四天王のことね。」
「四天王って何人?」
「ええ……あんた普段何考えて生きてんのよ。」
呆れられた。
「スティアちゃん以外に3人いるってことですよね?」
「そうよ。あたしも含めると…『破滅の錬金術』、『アルカナの支配者』、『万物流転の観測者』、『反転世界の王』……だったかしら。馬鹿みたいな2つ名よね。」
「かっこいいような、かっこ悪いような、変な感じです。」
「あたしは他の奴らとは会ったことないから知らないけど……アルカナの支配者は男で、万物流転の観測者は女って聞いたわ。反転世界の王…こいつに関しては誰も姿を見てないらしいし、よくわからないわね。」
「反転……世界………」
あれ………どっかで聞いたような………わたしが言ってたような、言ってないような…………なんだっけ………鏡がどうとか………
「あれ、ルナちゃんどうしました?眠いです?」
「………え、あ……うん、寝よっかな………。話、また今度聞かせて………」
「そうね、あたしも疲れたわ。寝ようかしら。」
「はい、アリスも寝ます。……そうだ!スティアちゃん!お薬ください。少なくなってきちゃいました。」
「かなりハイペースね………はい、これでいいかしら?」
お薬………ね。どうやって作ってるんだろう、今度聞いてみようかな。
「じゃあアリスも寝ます。おやすみです。」
そう言うアリスは、横になるスティアにしがみついている。
「なんのつもり?」
「別に疑ってないですけど……念の為です。もし、まだ心の中では魔王に忠誠を誓っていて、夜のうちにアリスたちの命を狙う………そんなこと出来ないように、今日はこうやって寝ます。これで動けません。」
「はぁ………好きにしなさいよ。あたしは別にそんなことしないけど。」
…………はえー……そういう可能性もあったんだ。全然考えてなかった。わたしは常に人を信じて生きてるからね。
㊙情報
アリスは賢者の石のことをエグめの尿管結石だと思っていた時期がある